観劇感想精選(182) 「同じ夢」
千葉県船橋市郊外にある精肉店が舞台である(赤堀雅秋と麻生久美子が私と同じ千葉県出身である)。「津田沼」という千葉県の地名(駅名)や総武線の「亀戸」、神奈川県藤沢市など、どこも私にとっては土地勘のある場所である。
イントロダクションとして、光石研演じる松本昭雄が精肉店の裏にある屋内のリビング、ダイニングキッチンなどに掃除機を掛けるというだんまりがある。昭雄は掃除機を掛け終えて、コードを本体に吸い込ませるということを三度ほどやる。それからコードを首に巻いて考えに浸る……、溶暗。
明かりが付くと、ダイニングキッチンには精肉店従業員の稲葉和彦(赤堀雅秋)、昭雄の友人で文房具屋を営む佐野秀樹(田中哲司)、リビングには田所元気という男(大森南朋)がいてソファに腰掛けている。
稲葉は佐野に「朝、何食べた?」と聞いたのだが、佐野は何故か思い出すことが出来ない。ただ麺類でないことは確かだそうだ。稲葉の方は昨夜すき焼きを作ったのだが食べきることが出来なかったので、今朝もすき焼きにしたという。だが、稲葉に言わせると「すき焼きは美味いが朝食うもんじゃない」そうだ。
靖子が高橋に田所の正体を明かす。田所は以前はトラックの運転手をしていたのだが、昭雄の妻(つまり靖子の母親)を十字路で轢き殺してしまい、それから10年間、昭雄の妻の命日には毎年線香を上げに来るのだという。今日が昭雄の妻の命日だったのだ。ちなみ交通事故であるが昭雄の妻の方が飛び出したのであって田所に非はなかったという。
田所が煙草を買いに出掛け、靖子は2階に戻り、稲葉は店番に戻り、佐野はトイレへ。ということで一人になった高橋。リビングの奥の襖がドンドンと鳴らされるのを聞いてうんざりとした表情を浮かべ、煙草を吸うが、テーブルの上に財布が置いてあるのを見て、札を抜き取り……、だが、誰も見ていないと思った高橋であるがトイレから出てきた佐野が高橋のやったことを見ていた。佐野に声を掛けられた高橋は脅迫されるものだと思い、ビクビクしたままである。だがそんな怯えた様子の高橋に佐野は「ケーキ食べよう」と優しく声を掛ける。何か魂胆がある、と気を許さない高橋であるが、佐野にバツイチで6歳の女の子がいることは告げる。するといきなり佐野から「昭雄と再婚してやってくれないか」と頼まれて高橋は驚く。
昭雄がイラついているのは寿司が待っても待っても届かないからだけではない。稲葉がレジの金をくすねたのだ。稲葉は20年以上この店で働いているのだが、レジの金をくすねたのはこれで実に6回目になるという。しかし「あの人はうち以外で働くのは無理」として昭雄は稲葉を許すしかない。
田所は津田沼のインターネットカフェに出掛けていたのだが戻ってくる。そして亀戸に帰ったはずの高橋も戻ってきた。佐野が高橋に戻ってくるよう言ったのだという。
そうして寿司を待ちながらやり取りをするのだが、実は高橋には好きな人がいることがわかる。6年間ずっと付き合っている人なのだが、妻子持ちであり、不倫ということになる。だが、結婚することは出来ないとわかっていても高橋は別れることが出来ないのだった。昭雄と結婚する気にもなれないのである。そして、高橋は昭雄の父親からセクハラを受けていることも打ち明ける。だが、セクハラの事実がわかったからといって今すぐどうなるというものでもない。結局、全員が全員、袋小路に嵌まったまま動けないことがわかったところであっさり舞台は終わる。
全員が今、袋小路にあって身動きが取れない状態であることは描けているので、一応、形にはなっているのだが、これだけのメンバーを集めたのだからもっとドラマ性豊かな芝居を観たかったというのも本音である。赤堀雅秋の作・演では無理かも知れないが。
光石研の演じた松田昭雄は、以前に光石が演じた「水の戯れ」(作・演出:岩松了)の北原春樹に似たところがあり、光石のキャラクターに合っていた。
一見、いい人なのだが、少し暗い背景を持つ高橋美奈代を演じた麻生久美子も嵌まり役。というより麻生久美子という女優は何をやっても嵌まってしまうという得がたい女優なのであるが。今日は前から2列目であったので、麻生さんの目の演技の上手さを楽しむことが出来て良かった(若手女優で目の演技が一番上手いのは麻生久美子だと思う)。単純に麻生さんを間近で見られたというのも嬉しかったのだけれど。
ちなみにローソンという具体的なコンビニの名前が出てくるが、それは麻生久美子がローソンのテレビCMに出演しているからだと思われる。
田中哲司はそれなりに見せ場があったが、大森南朋はこの程度の役では物足りない。大森南朋の良さがもっと生かせる場面が欲しかったと思う。それにしても大森南朋も年を取るごとに少しずつではあるが実父である麿赤児に顔が似てきている。遺伝というのは凄い。
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