コンサートの記(240) 広上淳一指揮京都市交響楽団第600回定期演奏会
京都市交響楽団の記念すべき600回目の定期演奏会。京都市交響楽団は今年創立60周年を迎えるが、年度初めのコンサート(京響の定期演奏会は4月始まりである)が折り目のコンサートと重なるのは実は初めてだそうである。
曲目は、コープランドの「市民のためのファンファーレ」、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」(オルガン独奏:アレシュ・バールタ)
開演20分前からプレトークがある。広上は今日は珍しくジャケットを着て登場。また、今年で京都市交響楽団在籍31年目で現役最長となるテューバの武貞茂夫もステージに呼ばれる。
武貞は1985年に京都市交響楽団に入団。京響では小林研一郎と同期になるそうだ(小林研一郎は1985年から2シーズンだけ京響の常任指揮者を務めている。当時の京響は今とは違い、2年ほどでコロコロ指揮者を変えていた)。広上は「小林先生は昔もあの口調でしたか?」と聞いて、小林の物真似をやってみせる。小林研一郎も京響時代のことを手記に書いているが、当時、京響は廃校になった出雲路小学校の校舎を練習場として使っていたのだが、小林によるとガラス窓が破れたままになっていたりと環境は悪く、冬は隙間風で寒くて大変だったそうである。武貞によると現在の京都市交響楽団の練習場は出雲路小学校を取り壊してその跡地に新たに建てられたものだそうだ。
武貞が京響に入団して、初の演奏会に臨んだときの指揮者は山田一雄だったそうだが、「棒がわかりにくかった」(広上は「指揮が下手だったわけじゃないんです。音楽的な指揮だったんです」とフォローする。ただ、山田一雄の棒が下手だったことは定説である)そうで、途中でわからなくなってしまい、テューバを吹くのを止めようと思ったら、周りの楽団員が、「指揮見るな! 指揮見るな!」と言い、感覚で吹いたら上手くいったそうである。吹奏楽から始めて音大を出るまでずっと「指揮をよく見ろ」と言われていたのに、プロになった途端に「指揮見るな!」と言われたと武貞は楽しそうに話す。山田一雄というと指揮に熱中する余り、指揮台から転げ落ちたというエピソードが有名だが、京響を指揮した時もそうしたことはあったらしい。
広上は京都会館第1ホールについても話すが、「響きの悪い」「やればやるほどストレスの溜まっていく悪夢のようホール」と語り、余程音響が嫌いだったようである(京都会館第1ホールの音響は間違いなく国内最低レベルであった)。ロームシアター京都メインホールの非公開初演は広上淳一指揮京都市交響楽団によって行われているが、広上はロームシアター京都メインホールに関しては、「立派なオペラハウス」と認めている。
コープランドの「市民のためのファンファーレ」。広上が京都市交響楽団の常任指揮者に就任して最初のコンサートの1曲目で取り上げた曲である。広上はノンタクトでの指揮。
金管楽器と打楽器からなる編成であるが、まずトランペットの音が外れ、続いてホルンのリズムが合わずと、残念ながら万全の出来にはならなかった。
モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」。つい先日、第1楽章だけ演奏した曲である。
今日の京都市交響楽団のコンサートマスターは渡邊穣。フォアシュピーラーに泉原隆志。ドイツ式の現代配置での演奏である。
ビブラートはそれほど抑え気味ではないが、ボウイングは明らかにピリオドアプローチのそれ。古雅な雰囲気溢れるモーツァルトを楽しむことが出来る。
煌びやかでエネルギッシュ第1楽章、澄み切った味わいのある第2楽章、節度のある盛り上がりを見せる第3楽章、緻密にして高雅な第4楽章。
広上指揮の「ジュピター」全曲は、5年ほど前に広島交響楽団を指揮したものを聴いているが、音の輝きは京都市交響楽団の方が上である。
広上の指揮であるが、両手を互い違いに上げ下げしたり、指揮棒を逆手に持って指揮したり、指揮棒を持たない左手一本だけで指揮したりといつも以上にユニークである。
メインであるリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」。2月にパーヴォ・ヤルヴィ指揮NHK交響楽団の大阪公演で聴いたばかりの曲だ。パーヴォとN響は電子オルガンを用いていたが、京都コンサートホールには立派なパイプオルガンがあるため、今日は勿論、それを用いる。ステージ上で演奏台を置いてのリモートコントロールでの演奏。パイプオルガン独奏のアレシュ・バールタは、1960年チェコ生まれのオルガニスト。ブルノ音楽院とプラハ音楽アカデミーに学び、1982年にリンツ・アントン・ブルックナー国際オルガン・コンクールで優勝、1984年には「プラハの春」国際オルガン・コンクールでも第1位に輝いているという。
京都市交響楽団の首席フルート奏者であった清水信貴は卒団したが、副首席奏者を格上げということはなく、今日はモーツァルトでは副首席フルート奏者という肩書きのままの中川佳子が、リヒャルト・シュトラウスでは客演の上野博昭がトップの位置に座った。トランペット首席のハラルド・ナエスはリヒャルト・シュトラウスのみの参加。クラリネットは後半しか出番がなかったが小谷口直子がリヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」でトップを吹いた。オーボエの髙山郁子もリヒャルト・シュトラウスのみの参加である。
響きの威力自体はやはりNHK交響楽団の方がある。残響のないNHK大阪ホールであれだけ響かせるのだからそれは明白だ。だが、音の輝きとなると京都市交響楽団も負けていない。
広上の指揮も語り上手であり、「ツァラトゥストラはかく語りき」という楽曲の構成を上手く詳らかにしていく。
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