コンサートの記(241) 「ローム ミュージック フェスティバル2016」より『VIVA!カーニバル!』&『豪華コンチェルトの饗宴』
「ローム ミュージック フェスティバル」は今年始まったばかりであるが、メインホールとサウスホールの2つがあるロームシアター京都の他に、中庭になっているローム・スクエアも用いた音楽祭典である。
23日と24日の両日、正午過ぎから、ロームシアター京都のサウスホールとメインホールで行われるリレーコンサートと、その合間の時間にローム・スクエアで行われる大学や高校の音楽団体(今年は、龍谷大学学友会学術文化局吹奏楽部、京都府立洛西高校吹奏楽部、同志社グリークラブ、京都市立樫原中学校吹奏楽部、京都両洋高校吹奏楽部、立命館大学混声合唱団メディックスが参加)の演奏が二本柱となる。
2日目となる今日は、まず午後1時からサウスホールで室内楽とピアノの演奏会があり、注目のヴァイオリニストである小林美樹と売り出し中のピアニストである小林愛実(こばやし・あいみ。血縁関係はないようである)が出演するのだが、昨日舞台を観て、今日コンサートを3本は流石にきついので、この公演は遠慮して、午後3時30分からサウスホールで行われる「VIVA!カーニバル!」というタイトルの室内楽公演から聴くことにする。
曲目は、フォーレの組曲「ドリー」(ピアノ・デュオ:菊地裕介&佐藤卓史)、モーツァルトのフルート四重奏曲第1番より第1楽章(フルート:難波薫、ヴァイオリン:石橋幸子、ヴィオラ:赤坂智子、チェロ:中木健二)、モーツァルトのクラリネット五重奏曲より第1楽章(クラリネット:金子平、ヴァイオリン:石橋幸子&瀧村依里、ヴィオラ:赤坂智子、チェロ:中木健二)、サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」(ピアノ:佐藤卓史&菊地裕介、フルート:難波薫、クラリネット:金子平、パーカッション:池上英樹、ヴァイオリン:石橋幸子&瀧村依里、ヴィオラ:赤坂智子、チェロ:中木健二、コントラバス:佐野央子)。
美人フルーティストとして有名な難波薫(なんば・かおる。日本フィルハーモニー交響楽団フルート奏者)や、名門チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団に在籍する石橋幸子、読売日本交響楽団首席クラリネット奏者である金子平が参加しており、メンバーはかなり豪華である。
フォーレの愛らしいピアノ・デュオ作品。女性の譜めくり人を付けての演奏である。東京音楽大学の専任講師でもある菊地裕介と、伴奏ピアニストとしても定評のある佐藤卓史(さとう・たかし)の共演。佐藤が第2奏者とペダリングを受け持つ。二人とも洒落た感覚の持ち主だが、佐藤はリズム感に長け、菊地はタッチが冴えている。
モーツァルトのフルート四重奏曲第1番より第1楽章。変なCDでデビューした難波薫であるが、勿論今日は正統派のフルートを聴かせる。音符が天に向かって昇っていく様が見えるほど軽やかなフルートだ。
モーツァルトのクラリネット五重奏曲第1番より第1楽章。金子平のクラリネットは音色が若干重く感じられたが、技術は達者。他の演奏家の技量も高い。
サン=サーンスの組曲「動物の謝肉祭」。アンナ・パヴロワのバレエでも知られる「白鳥」が飛び抜けて有名だが、実際は「動物の謝肉祭」は冗談音楽である。様々な動物が出てくるのだが中に「ピアニスト」が混じっていたり(ピアノのスケールを弾くのだが、わざと下手に弾くよう指示されており、下手に弾けば弾くほど良いとされる)、「カメ」がオッフェンバックの「天国と地獄」より“カンカン”を超スローテンポで弾いただけのものだったり(著作権の厳しくなった今では考えられない曲である)、「ゾウ」もベルリオーズの音楽のパロディだったりする(ゾウのコントラバス独奏を務めた佐野央子(さの・なかこ)の音が乾き気味だったのが気になった)。
「白鳥」の他で有名なナンバーとしては「水族館」が挙げられる。美しくも神秘的な作風で、テレビCMなどにも良く用いられる。ちなみに「郭公」も登場するのだが、郭公の鳴き声を担当するクラリネットの金子平は「水族館」が始まる前に舞台上手袖にはけ、袖から郭公の鳴き声を吹いて、「ピアニスト」の前にステージに戻ってきた。
「白鳥」を奏でたチェロの中木健二。有名ソリストが手掛けた演奏や録音に比べると分が悪いが、それでも十分に美しいチェロ独奏を聴かせた。
今日は最前列での鑑賞となったため、ロームシアター京都サウスホールの音響の良し悪しについては明言出来ない。ただ、素直な音のするホールであることはわかった。
午後5時30分から、ロームシアター京都メインホールで、「豪華コンチェルトの饗宴」というコンサートを聴く。阪哲朗指揮京都市交響楽団の演奏。曲目は、ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第1幕への前奏曲、ベートーヴェンのヴァイオリン、チェロとピアノのための三重協奏曲(トリプル・コンチェルト。ヴァイオリン独奏:神谷未穂、チェロ独奏:古川展生、ピアノ独奏:萩原麻未)、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏:神尾真由子)
日本人女性ヴァイオリニストとしては別格級の一人である神尾真由子、売り出し中の新進ピアニスト・萩原麻未が出演する注目のコンサートである。
ヴァイオリン両翼の古典配置での演奏である。今日の京都市交響楽団のコンサートマスターは泉原隆志。渡邊穣は降り番で、フォアシュピーラーに尾﨑平。オーボエ首席奏者の髙山郁子、トランペット首席のハラルド・ナエスは前後半共に出演。フルートは次席奏者の中川佳子が吹く。
京都出身の指揮者である阪哲朗。京都市立芸術大学作曲専修卒業後、ウィーン国立音楽大学で指揮を学ぶ。1995年に第44回ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝して注目を浴びるが、その後、活動の拠点をドイツに置いており、日本のオーケストラから声が掛からないということもあって、今のところ竜頭蛇尾気味の指揮者である。
以前、大阪シンフォニカー交響楽団(現:大阪交響楽団)のニューイヤーオーケストラを聴いたことがあるが、音楽の線の細さが気になった。
ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第1楽章への前奏曲。
ロームシアター京都メインホールでオーケストラの音を聴くのは初めてだが、評価の難しい響きである。京都会館第1ホールとは比べものに鳴らないほど良く、ヴァイオリンは始めとする弦楽器の音は美しく聞こえるが、マスとしての響きはモヤモヤとして今一つ手応えがない。内観も含めて同じ永田音響設計が手掛けた兵庫県立芸術文化センター大ホールに似たところがあるかも知れない。コンクリートがしっかり固まりホールの音が引き締まるまで5年程度は掛かるという話もあるので、メインホールの響きもこれから良くなっていく可能性もある。また、コンチェルトでは特に響きに不満はなく、残響も2秒近くあった。
歌劇場を主な仕事場としてる阪。オペラは得意中の得意のはずであるが、重厚スタイルで行きたいのかスマートに響かせたいのか、聴いていてどっちつかずの状態になっているのは気になった。もっと京響を盛大に鳴らしても良いと思うのだが。
ベートーヴェンの、ヴァイオリン、チェロとピアノのための三重協奏曲。昨年、ミッシャ・マイスキー親子のトリオで聴いたばかりの曲である。
迷彩柄風の衣装で登場したヴァイオリンの神谷未穂は、桐朋学園大学を卒業後、ハノーファー国立音楽演劇大学に留学して首席で卒業。その後、パリ国立高等音楽院の最高課程を修了。現在は、仙台フィルハーモニー管弦楽団と横浜シンフォニエッタのコンサートミストレス、そして私の出身地である千葉市に本拠を置くニューフィルハーモニーオーケストラ千葉(今後、千葉交響楽団に改名する予定がある)の特任コンサートミストレスも務めている。
今や日本を代表するチェリストとなった古川展生。東京都交響楽団の首席チェロ奏者でもある。京都生まれであり、2013年には京都府文科賞も受賞している。ちょっと中年太り気味であろうか。黒の衣装で登場。
藤岡幸夫や飯森範親という、関西に拠点を置く指揮者が絶賛するピアニストの萩原麻未。「題名のない音楽会」にも何度か出演している。今日は水色のドレスで登場。広島県出身。広島音楽高校を卒業後、パリ国立高等音楽院に留学。修士課程を首席で修了し、その後はザルツブルクのモーツァルティウム音楽大学でも学んだ。
さて、名手3人によるトリプルコンチェルトであるが、やはり萩原麻未は上手い。というより、マイスキーの娘であったリリー・マイスキーがいかに下手であったかがわかった。
萩原のピアノはエッジが立っており、涼やかな音色を基調としているが音色の変化も自在。場面によっては鍵盤上に虹が架かったかのような印象を受ける。
古川のチェロは貫禄があり、難しいパッセージも難なく弾きこなす。
神谷の艶のあるヴァイオリンも聞き物だ。
阪哲朗指揮の京都市交響楽団はビブラートを徹底して抑えたピリオドアプローチでの演奏。タイトだが堂々とした響きが生まれていた。
紫紺のドレスで登場した神尾は圧倒的なヴァイオリンを披露する。
神尾というとしっとりとした音色が特徴だが、今日はハスキーな音も出す。特筆は弱音の美しさで、これほど美しい弱音を出せるヴァイオリニストはなかなかいない。
情熱的な演奏であったが一本調子にはならず、足し引きと駆け引きの上手い演奏。阪の指揮する京響も神尾に負けじと個性溢れる伴奏を披露。
神尾、阪、京響3者丁々発止の熱演となり、終演後、客席は多いに沸いた。
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