コンサートの記(260) 広上淳一指揮 「京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2013(年度)」 第4回「ポップス?クラシック!」
午後2時から、京都府立植物園の東隣にある京都市コンサートホールで京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2013 第4回「ポップス?クラシック!」を聴く。2013-2014のシーズンに4回行われるオーケストラ・ディスカバリーの2013年度最後の公演である。
今日の指揮者は京都市交響楽団常任指揮者の広上淳一。
オーケストラ・ディスカバリーは、子供から大人まで楽しめるコンサートを念頭に置いたプログラムで構成されており、ホワイエには今日は、「クラシック博士」という子供向けのクイズパネルが並んでいた。その中に「これは誰の手形でしょう?」というパネルがあり、「A.京都交響楽団指揮者の広上淳一さん、B.ピアノの詩人ショパン、C.京都市交響楽団のコンサートマスター渡邊穣さん」という選択肢があった。手の大きさを私のものと比べてみると私の手と大きさがさほど変わらない。私は身長に比べて手がかなり小さい方なので、手形が小柄な人物のものであることがわかる。それに紙に直接押した手形なのでショパンは絶対にあり得ない。終演後に張り出された正解にはやはり広上淳一の手形であると記されていた。ちなみに私も広上も、手を思いっ切り広げてもピアノの1オクターブがやっとという大きさである。
オーケストラ・ディスカバリーには、ナビゲーターとして吉本の芸人が呼ばれるのだが、今日は出演回数最多のロザンの二人が登場する。ちなみにオーケストラ・ディスカバリーは始まった当初は毎回ロザンがナビゲーター役を務めていたのだが、その後、ガレッジセールの二人も加わり、2014年度には、ぐっさんこと山口智充も参加することが決まっている。
曲目は、前半が、ハチャトゥリアンのバレエ組曲「ガイーヌ」より“剣の舞”、モーツァルトのホルン協奏曲第1番から第1楽章&第2楽章(ホルン独奏:垣本昌芳)、プロコフィエフのバレエ組曲「ロメオとジュリエット」より“モンタギュー家とキャピュレット家”、そして当初は後半に演奏される予定だったワーグナーの「ワルキューレの騎行」も前倒しで演奏される。
後半は、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲、ブラームスの交響曲第1番より第4楽章。
「剣の舞」は、やや遅めのテンポで堂々と演奏される。広上の踊るような指揮姿も特徴的だ。なお、「剣の舞」と「モンタギュー家とキャピュレット家」ではサックスが演奏されるので、岩田瑞和子が客演奏者として参加している。今日のコンサートマスターは渡邊穣であるが、泉原隆志は降り番で、アシスタント・コンサートマスターの尾崎平がフォアシュピーラーを務める。フルート首席奏者の清水信貴は前半、後半ともに出演。クラリネット首席奏者の小谷口直子は前半のみ参加。オーボエは、前半がフロラン・シャレール、後半は首席オーボエ奏者の高山郁子が吹いた。
「剣の舞」の演奏が終わり、広上がマイクを手に聴衆に挨拶した後で京響のTシャツの上にグレーのジャケットを羽織ったロザンの二人が登場。広上が「ちゃんと京響のTシャツを着て」と言うと、宇治原史規が、「ちゃんとってなんですか。好きで着てきてるんですから」と突っ込んだ。
広上が「運動会で聴いたことあるでしょ?」というと二人とも同意し、管広文が「玉入れの時に使ったような記憶がある」と述べた。
ハチャトゥリアンは1963年に来日し、同年2月に京都市交響楽団の第52回定期演奏会で指揮をしたことが無料パンフレットに書かれているのだが、広上もそのことを紹介する。
広上は、「AKBやSMAPも100年経てばクラシックになる」と語る。菅ちゃんが「『ヘビーローテーション』なんかも100年後にはオーケストラで演奏されてるんでしょうか?」と聞くと、「オーケストラの演奏スタイルも変わっているかも知れない」と広上は返す。菅ちゃんは「おじさん達が足を上げながら弾いてるんでしょうか」と語る。
次はモーツァルトのホルン協奏曲第1番より第1楽章&第2楽章。ホルン独奏は京都市交響楽団首席ホルン奏者の垣本昌芳。垣本はプロのソリストではなく京響の楽団員であることから、ロザンに「大丈夫ですか?」と心配される。
そのホルン協奏曲第1番からであるが、室内オーケストラ編成で演奏される。その他の曲は第1ヴァイオリン12名のフルサイズであったが、モーツァルトは第1ヴァイオリン6名で、約半分の人数である。
垣本は安定したソロを聴かせ、京響も雅やかな音色を奏でる。広上はピリオド・アプローチも得意としているが、今日はピリオドの影響は余り感じられなかった。なお、広上はこの曲だけはノンタクトで指揮した。
演奏が終わり、菅ちゃんが「良かったですね。AKBでいうとセンターですね。大島優子のような」というと広上さんは「(大島優子は)もうすぐ辞めるでしょ」と応える。広上さん、AKBに詳しすぎである。ちなみに2014年度のオーケストラ・ディスカバリーの案内パンフレットに広上さんは「オーケストラもAKBと同じように楽しいよ!」と書いている。
続いて、プロコフィエフのバレエ組曲「ロメオとジュリエット」から“モンタギュー家とキャピュレット家”。
広上淳一は、「ソフトバンクのCMでお馴染みの曲」と紹介する。
広上「今は堺雅人が、『なんで犬が喋ってるんだ』というコマーシャルですが」
菅「今、(堺雅人の)物真似したでしょ!」
広上「いや、してません(実際はしていた)。以前に、みんなが集まって、犬のお父さんが『何をやってるんだ!』という場面で」
菅「今、(北大路欣也の)物真似したでしょ!」
というやり取りの後で、「モンタギュー家とキャピュレット家」が演奏される。広上の巧みなオーケストラドライブが発揮され、弦も管も威力十分で透明感もあり、ノリの良い演奏が展開された。
ワーグナーの楽劇「「ワルキューレ」から“ワルキューレの騎行”。
広上はワルキューレという「肉食女性」について語り、「大学で教えていても、元気のあるのはみんな女の子」だという。女性が活躍する時代と景気とは連動しているという説もあるそうですと広上は語る。
楽劇というのは、ワーグナーが独自に発展させたオペラのことである。同じ舞台でも演劇はあらすじが複雑で書き記すのに時間が掛かるが、オペラというのはあらすじが基本的に単純である。セリフを話すのではなく歌うので時間が掛かり、複雑な展開になると何時間かかっても終わらないという羽目になってしまう。「ワルキューレ」も上演時間約4時間の大作であるが、あらすじは簡単に書くことが出来る。「まず夫婦げんかをして、次に親子げんかをする」。これだけで大体合っている。
広上は、「ワルキューレの騎行」について、「車を運転している時に聴くと必ず事故を起こす曲」と紹介する。「興奮するので、カーブでも150キロ、160キロ出るほどアクセルを踏み込んでしまうらしい」とのこと。
その「ワルキューレの騎行」であるが、堂々として扇情的であり、広がり豊かな演奏となる。京響の金管群はやはり関西のプロオーケストラの中でナンバーワンであろう。
後半、マスカーニの歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲。
広上は、オペラについて「90%以上が悲劇」と述べ、「『白夜行』というのがあるでしょう。テレビでは綾瀬はるかが主演して、映画では堀北真希がやった」、宇治原「ああ、東野圭吾の」、広上「ああいったドロドロの劇がオペラには多いんです。今日は若いお子さんも多いので大きな声では言えませんが、不倫ですとか、三角関係ですとか」、菅「不倫。子ども達の中で不倫って知ってる人。不倫というのはね、お父さんとお母さんの他に」などというやり取りがある。なお、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の原作はかなり短い短編小説であり、岩波文庫から出ているので日本語で読むことも出来る。どってことない小説である。ロルカの戯曲「血の婚礼」も同じような事件を題材にしているが、ロルカはやはり天才。「血の婚礼」と「カヴァレリア・ルスティカーナ」では比較にさえならない。
歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲で広上は、速めのテンポによる、過度の甘さを避けたすっきりとした演奏を行う。
演奏終了後に、広上とロザンの二人が、この曲が様々な映画やドラマに使われているという話になる。故十八代目中村勘三郎が襲名披露公演でも行った歌舞伎「野田版・研辰の討たれ」では、ラストで邦楽器が「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲を奏でていたりした。
ラストはブラームスの交響曲第1番より第4楽章。
広上はロザンの二人に「ブラームスという作曲家をご存じですか?」と聞くと、宇治原が「ドイツ三大Bの」と答えて、広上から「流石、クイズ王!」と誉められる。宇治原によると「ドイツ三大Bという問題が出たら、答えは絶対にブラームス。バッハやベートーヴェンが答えになることはない」と言う。確かにブラームスは有名作曲家であるが、大バッハやベートーヴェンほどではない。「バッハやベートーヴェンが書いたメロディーを口ずさんで下さい」と聞くと、バッハなら「トッカータとフーガニ短調」(「タラリー、鼻から牛乳!」というやつである)や「G線上のアリア」、「小フーガト短調」など、ベートーヴェンなら「運命」こと交響曲第5番の冒頭「ジャジャジャジャーン!」や第九の「歓喜の歌」などを歌える人は多いが、ブラームスの作品を口ずさめる人は少数派であると思われる。ただ、「ドイツ三大Bの中で交響曲を最も沢山書いたのは誰でしょう?」(答え:ベートーヴェン。バッハ0曲、ベートーヴェン9曲、ブラームス4曲)や、「ドイツ三大Bの中で唯一結婚したのは?」(答え:バッハ。バッハは子供20人という子だくさんでもある。ベートーヴェンは醜男であったがピアノの演奏技術が抜群だったため若い頃はモテモテで、女遊びも盛んだったらしいが、耳の疾患が進むにつれて人付き合いを避けるようになり、生涯独身であった。ブラームスは若い頃は美青年で、やはり女にもてたようだが、シューマンの妻・クララに恋をし、シューマンの没後も付かず離れずの関係を続けた結果、誰とも結婚することはなかった)などの変則問題が出題されることも十分に考えられる。
ブラームスが交響姉弟1番を書くのに20年以上掛けたと広上が話すとロザンの二人が驚く。
ブラームスの交響曲第1番第4楽章は、歓喜の主題がベートーヴェンの第九の「歓喜の歌」のメロディーに似ていることが指摘されている作品である。ブラームスも敢えて似せたようである。
広上と京都市交響楽団は重厚且つ推進力に富んだ演奏を展開する。今日は京都コンサートホールの3階席に座ったのだが、京都コンサートホールの3階席は音が良いということもあり、昨年、八幡市文化会館で同コンビが演奏したブラームスの交響曲第1番よりも味わい深かった。
アンコール演奏は、クラウス・バテルト&ハンス・ジマー作曲による映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」のテーマ曲。今年の大河ドラマ「軍師官兵衛」のオープニングテーマ曲も指揮している広上だけに、映像のために書かれた音楽の指揮にも強い。
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