美術回廊(6) 「イラストレーター 安西水丸展」京都2016
千葉県千倉町(現・千葉県南房総市千倉)出身で、イラストレーター、画家、小説家、エッセイストなど幅広い分野で活躍した安西水丸(本名:渡辺昇。1942-2014))の展覧会である。
村上春樹とのコラボレーションでも知られた安西水丸。二年前に訃報を聞いたときには驚いたが、村上春樹とのやり取りの内容から若いイメージがあったものの、1942年生まれと予想よりもお年だったのである。
千倉のイメージが強いが、生まれは東京で、3歳の時に小児喘息の療養のために母方の実家である千倉に移り住んでいる。千倉は千葉県内でも海が美しいことで知られる街だ(と書きながら実は千倉には行ったことがない。千葉県出身ではあるが千葉市民は千葉県の南の方には余り行かないのである)。
日大豊山高校を経て日大藝術学部美術学科造形コース卒。生家が代々建築の仕事をしていたため、建築についても学ぶ必要があり、いわゆるダブルスクールで建築の専門学校の夜間コースにも通っている。村上春樹との対談によると、夫人とはこの専門学校で出会ったそうである。
日大藝術学部卒業後、電通に入社、その後、平凡社にも勤める。村上春樹のエッセイによるとかなり楽しいサラリーマン時代を送ったそうだが、にわかには信じられないほどパラダイス状態であるため、かなり脚色されているのかも知れない。
本名は渡辺昇(京都・一乗寺の名家の方や坂本龍馬のお友達と同性同名である)で、村上春樹の短編小説集『パン屋再襲撃』には全編に渡ってワタナベノボルという名前で登場する。
安西水丸本人が「大人になっても小学生の絵を描いている大人」と称しているように、一種のヘタウマ的な持ち味のある人である。千倉時代の絵もあって、普通に上手いのだが、そこから次第にタッチがシンプルになっていく。
いくつものイラストをじっくり見て気がつくのは余白の多さである。対象物と比較すると余白の部分がかなり多い。ただ、ぱっと見ではそうしたことには気がつかない。描かれた対象物の持つパワーと、絶妙なバランスが、余白を見えない力で埋めているのだろう。
またシンプルではあってもお洒落である。原色を用いた配分の妙がそうした世界を生んでいるのだと思われる。
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