コンサートの記(276) チェコ・フィルハーモニー・ストリング・カルテット@京都2017 「これが聴きたい~アンコール“超名曲”ベスト20!」
今回は、「これが聴きたい~アンコール“超名曲”ベスト20!」と題した名曲コンサートである。
通俗名曲と呼ばれることからも分かるとおり、一段低いものと思われる傾向があるのだ。それでも、ヘルベルト・フォン・カラヤンなどは、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して、通俗名曲のアルバムを多く作っているが、マーラーやブルックナーなどの大曲路線が顕著になると、一流の指揮者が通俗名曲を録音することすら皆無に等しくなる。
EMIが、まだ東芝EMIだった頃(東芝も最近、危なくなってきたが)、名曲アルバムが少なくなったのを嘆いて、アンドルー・デイヴィスやウォルフガング・サヴァリッシュを起用して、名曲小品だけのアルバムを作ったことがあったが、それももう30年以上前のことだ。
ポピュラーの名曲は競ってカバーされ、最近ではカバーアルバム供給過多の傾向があるが、クラシックは真逆である。
大阪のザ・シンフォニーホールでは、ブルガリアのソフィア・ゾリステンを招いて名曲コンサートをやっていたり、関西フィルハーモニー管弦楽団が真夏にポップスコンサートをやっていたりするが、京都では京都フィルハーモニー室内合奏団がたまにやるぐらいで、聴く機会は少ない。
曲目は、前半が、モーツァルトのセレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」より第1楽章、J・S・バッハの「G線上のアリア」、モーツァルトの「トルコ行進曲」、ベートーヴェンの「エリーゼのために」、シューマンの「トロイメライ」、ブラームスの「ワルツ」、ショパンの「子犬のワルツ」、ドヴォルザークの「ユモレスク」、ハチャトゥリアンの「剣の舞」。後半が、オッフェンバック(オッフェンバッハ)の歌劇「天国と地獄」序曲より、ヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「美しく青きドナウ」、バダジェフスカの「乙女の祈り」、レハールの「メリー・ウィドゥ・ワルツ」、モンティの「チャールダーシュ」、ピラソラの「リベルタンゴ」、ビートルズの「イエスタデイ」、グレン・ミラーの「ムーンライト・セレナーデ」、ロドリゲスの「ラ・グランパルシータ」、デューク・エリントンの「A列車で行こう」
チェコ・フィルハーモニー・ストリング・カルテットは、その名の通り、東欧随一の名門オーケストラであるチェコ・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーによって組織された弦楽四重奏団。1992年結成され、チェコ・フィルの本拠地であるルドルフィヌムでの室内楽シリーズを行っている。2007年に初来日し、今回が9度目の来日というから、ほぼ毎年来日演奏会を行っていることになる(同じく、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の楽団員からなるチェコ・フィルハーモニー弦楽四重奏団という団体があるがそれとは別の団体である。チェコ・フィルハーモニー弦楽四重奏団の英語表記は、チェコ・フィルハーモニック・カルテットだ)。
メンバーは、マグダレーナ・マシュラニョヴァー(第1ヴァイオリン。チェコ・フィル第2アシスタント・コンサートマスター)、ミラン・ヴァヴジーネク(第2ヴァイオリン。チェコ・フィル第1ヴァイオリン奏者)、ヨゼフ・シュパチェク(チェロ。チェコ・フィル首席代理チェロ奏者)、ヤン・シモン(ヴィオラ。チェコ・フィル・ヴィオラ奏者。プロ・アルテ・アンティクア・プラハのリーダー)。
今日は、前から2列目、真ん真ん中の席である。京都コンサートホールは前の方の席は音が余りよくないのだが、今日は問題なく聴くことが出来た。
京都コンサートホール(大ホール)は、オーケストラ演奏用なので、室内楽向きではない。チェコ・フィルハーモニー・ストリング・カルテットのメンバーが最初の音を出した時には、「音、ちっちゃ!」と思ったのだが、すぐに慣れる。
第1ヴァイオリンのマグダレーナ・マシュラニョヴァーが、マイクを手に、テキストを横目で見ながら、「皆さん、こんにちは(ソワレなので「こんばんは」だが、外国人だからわからなくてもいいだろう)。本日はようこそいらっしゃいました。最後までゆっくりお楽しみ下さい」と日本語で挨拶してから演奏スタート。
名曲が並ぶということもあり、室内楽のコンサートにも関わらず、京都コンサートホールには結構、人が入っている(ポディウム席、ステージサイド席などは販売されていない)。
チェコ人は、ビロードという言葉が好きで、民主化も「ビロード革命」と呼ばれているが、チェコ・フィルの弦の音色も「ビロード」と称される。正直、技術面ではいくつか怪しいところもあったのだが、音色は温かで心地よく、上品でもある。
ブラームスの「ワルツ」の演奏前に、メンバー紹介がある。第2ヴァイオリンのミラン・ヴァヴジーネクが、「日本の食べ物美味しいです」と日本語で言い、ヴィオラのヤン・シモンは、「味噌ラーメン、餃子、寿司、刺身、チャーハン」などと好きな日本食を挙げていく。チェロのヨゼフ・シュパチェクは、「豚骨ラーメン最高!」。マグダレーナ・マシュラニョヴァーは、「やっぱりお酒が美味しいです」と言っていた。
チェコの国民的作曲家であるドヴォルザークの「ユモレスク」の演奏前にもマグダレーナ・マシュラニョヴァーは、「日本語、とっても難しいです」と言い、「Japanese is so difficult for me.」と英語で言って、英語で、「プラハや我が国(our country)へお越し下さい」と述べた後で、日本語で「プラハへお越し下さい」と語る。
チェコ語も日本人が学習するには相当難しいのだろう。そもそもメンバーの名前も舌を噛みそうなものばかりだ。
名曲ばかりなので、演奏について書いてもさほど意味があるとも思えないので、エピソードを連ねていく。
日本では人気のバダジェフスカの「乙女の祈り」。だが、ヨーロッパでは余り知られていない曲である。ということで日本人向けにプログラミングされたもののようだ。
1990年代に、ギドン・クレーメルやヨーヨー・マが演奏してブームになったピアソラ。ブーム沈静後はそれほど演奏されなくなっているが、ヨーヨー・マがCMで弾いていた「リベルタンゴ」は今でもよく取り上げられている。
「イエスタデイ」。ビートルズナンバーというのはやっかいな問題を抱えていて、訳詞をすることがほぼ不可能である。村上春樹がその名も「イエスタデイ」という短編小説で、「イエスタデイ」のパロディ関西弁訳を作り、雑誌に掲載されたが、これも駄目で、短編集『女のいない男たちに』に収録された「イエスタデイ」では、「イエスタデイ」の関西弁訳の冒頭しか載せられていない。「イエスタデイ」は物語のキーになる曲なので残念なのだが。
メロディー自体は、ポール・マッカートニーが、朝、ベッドから転げ落ちた際に、瞬時に出来上がったもので、朝飯前に出来たということから、正式な歌詞がつくまでは「スクランブルエッグ」という仮タイトルがついていた。
グレン・ミラーの「ムーンライト・セレナーデ」はビッグバンドのためのジャズナンバーで落ち着いた曲調であるため、弦楽四重奏でもさほど違和感はないが、デューク・エリントンの「A列車で行こう」はノリノリのナンバーであるため、チェコ人の演奏ということもあってスウィング出来ないムード・ミュージックのようになっていた。スウィング感は黒人のジャズマンでないと上手く出せないのだろう。もともとがクラシックのコンサートであるし、「スウィングしなけりゃ意味がない」ということもない。
2曲目は、イタリア繋がりで、ニーノ・ロータの「ロミオとジュリエット」。ロマンティックな仕上がりである。
カーテンコールで、マグダレーナ・マシュラニョヴァーは、お辞儀をしてから帰ろうとするのだが、ミラン・ヴァヴジーネクがそれを引き留めてもう1曲。
マグダレーナは、マイクを手に、「ありがとうございました。楽しかったですか?」と日本語で客席に聞き、「最後の曲。これは皆さんもよく知っていると思います」と言って、ヨハン・シュトラウスⅠ世の「ラデツキー行進曲」が演奏される。ヨゼフ・シュパチェクがホイッスルを吹いて、聴衆の拍手を促す。楽しい演奏であった。
アンコール曲目が、ホワイトボードに書かれて発表されていたのであるが、今日も誤記あり。「ラデツキー行進曲」の作曲者がヨハン・シュトラウスⅡ世になっている。ワルツ王(ヨハン・シュトラウスⅡ世)の作品ではなく、ワルツの父(ヨハン・シュトラウスⅠ世)が書いたものというのはクラシックファンにとっては常識に近いものなのに。
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