現役の主要指揮者としては世界最長老であったスタニスラフ・スクロヴァチェフスキが死去。93歳であった。名前が長いため、ミスターSの愛称でも親しまれた。
1923年(日本の年号では大正12年。関東大震災のあった年である)、ポーランドのルヴフ(現在はウクライナ領)生まれ。
若い頃はピアニストを志していたが、第二次大戦中に手を負傷し、指揮者に転向する。指揮は同じくポーランド出身であったパウル・クレツキに師事した。
作曲家としても活動しており、自作自演盤もリリースされている。
アメリカのミネアポリス交響楽団(現・ミネソタ管弦楽団)の音楽監督として活躍。この時期にアメリカ国籍を得ている。
録音も行ったが、マーキュリーというマイナー・レーベルが主だったため、日本にまでは評判が伝わってこなかった。
状況が変わるのは1990年代に入ってからである。マーキュリー・レーベルのCDが国内盤としてもリリースされ、筋骨隆々としたフォルムと怒濤のようなエネルギー放射による演奏が一部で評判になる。
そしてスクロヴァチェフスキは、1996年にNHK交響楽団の定期演奏会に客演する。私も土曜日のマチネー公演で聴いた。メインはチャイコフスキーの交響曲第5番。
「ムラヴィンスキーもかくや」と思われる厳格にして力感溢れる演奏であり、終演後、客席が大いに沸いたのが思い出される。これが日本におけるスクロヴァチェフスキ・リバイバルの始まりであった。
その後もスクロヴァチェフスキはN響への客演を続け、2004年には京都コンサートホールでN響を指揮したコンサートも行っているが、その後は読売日本交響楽団に招かれて指揮する機会が増え、2007年から2010年まで読響の第8代常任指揮者を務め、その後は同楽団の桂冠名誉指揮者に就任していた。
廉価盤レーベルであるアルテ・ノヴァにザールブリュッケン放送交響楽団を指揮していれた「ブルックナー交響曲全集」が世界的な話題になり(その後、同全集はエームス・クラシックスに移管)、やはりザールブリュッケン放送交響楽団を指揮した「ベートーヴェン交響曲全集」もリリースした。21世紀に入ってからのスクロヴァチェフスキは演奏スタイルを変えており、兵庫県立芸術文化センター大ホールで聴いた、ザールブリュッケン放送交響楽団とのベートーヴェン交響曲第6番「田園」と交響曲第5番(スクロヴァチェフスキ指揮の第5を聴くのは3度目だった)でも強靱な構築感ではなく、内容の新規さで勝負しており、「ああ枯れたのか」と聴いていて悲しくなった。だが、スクロヴァチェフスキの凄いところはそこから更に体制を立て直して若い頃のようなスタイルへと再変貌を遂げたことにある。
読売日本交響楽団といれた最近のライブ録音では楽曲の新たな発見とともに高齢の指揮者とは思えないほどの瑞々しさで聴かせる演奏が展開されていた。
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