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2017年3月13日 (月)

コンサートの記(283) 爆クラ!presents「ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団×アンドレア・バッティストーニ クラシック体感系Ⅱ -宇宙と時間編-」

2017年2月22日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて

午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで、爆クラ!presents「ジェフ・ミルズ×東京フィルハーモニー交響楽団×アンドレア・バッティストーニ クラシック体感系Ⅱ -宇宙と時間編-」というコンサートを聴く。

東京フィルハーニー交響楽団首席指揮者を務めるアンドレア・バッティストーニは主要指揮者としては現役最年少。1987年生まれでまだ誕生日を迎えていないため29歳という若い指揮者である。「ロミオとジュリエット」の舞台として有名なイタリア・ヴェローナ出身。2015年4月より東京フィルハーモニー交響楽団の首席客演指揮者に抜擢され、2016年10月に同楽団の首席指揮者に就任している。東フィルとのCDの他、パルマ・レッジョ劇場でのオペラ「ファルスタッフ」の映像が出ており、2017年3月にはRAI国立交響楽団を指揮したチャイコフスキーの交響曲第5番のCDがリリースされる予定。キャッチフレーズは「未来のトスカニーニ」である。
現役最高齢主要指揮者であるスタニスラフ・スクロヴァチェフスキの訃報を聞いた日に、現役最年少主要指揮者の演奏会を聴くというのは何かの因縁なのかどうか。

米・デトロイト出身で、パリとマイアミを本拠地とする、DJ、ミュージシャンのジェフ・ミルズがクラシック音楽用に書いた曲の日本初演と、現代音楽の演奏が行われる。

曲目は、ジョン・アダムスの「Short Ride in a Fast Machine」、ドビュッシーの「月の光」の管弦楽編曲、リゲティの「ポエム・サンフォニック(100台のメトロノームのための)」、黛敏郎の「BUGAKU(舞楽)」より第二部、ジェフ・ミルズの「The Bells」、20分の休憩を挟んで、上演時間約1時間というジェフ・ミルズの大曲「Planets」


フェスティバルホールで初めて聴いたオーケストラが東京フィルハーモニー交響楽団だったと思うが(純粋なクラシック音楽演奏会ではなく、「坂本龍一 プレイング・ジ・オーケストラ」)、東京フィルは昔から、セミクラシックや新曲の演奏会などによく出演する。NHKとのパイプがあるため、名曲アルバムや他のNHKの番組でも劇伴演奏を行ったりしているのだが、新星日本交響楽団を吸収合併して後は、編成が倍になったということもあり、かつてのレニングラード・フィルハーモニー交響楽団のように別働隊として同日に別の場所で演奏することも可能である(約半分のメンバーは、東京で指揮者のミハイル・プレトニョフと共に別の公演のリハーサルを行っているようである)。
ポピュラーでの演奏が多いということは、フェスティバルホールのような大型ホールでの経験も豊富ということで、上手く鳴っていたように思う。またバッティストーニはオーケストラを鳴らす術に長けており、バランス感覚も優秀である。


まずは、ジョン・アダムスの「Short Ride in a Fast Machine」。ミニマル・ミュージックである。切れ味鋭い爽快な音楽。バッティストーニは若いだけに機敏な動きによる指揮を行う。ただ、若さに任せて音を振り回すという感じはほとんどせず、丁寧な仕上がりが印象的である。


爆クラ!プロデューサーの湯山玲子がマイク片手に登場し、「爆クラ!」と楽曲について紹介する。湯山は日本のホールの中ではフェスティバルホールの響きが一番好きだそうである。湯山が「爆クラ!」の企画を思いついたのは、ニューヨークのクラブにいた時だそうで、クラブで流れていたグルーブなミュージックが、クラシックのミニマルミュージックと相性が良いのではないかという発想が浮かんだそうである。現在では東京・代官山の〈晴れたら空に豆まいて〉というライブハウスを本拠地に、月1ペースで爆クラ!の公演を行っているという。これまでのゲストには、坂本龍一、冨田勲、岡村靖幸、島田雅彦、西本智実、岩井俊二、菊地成孔、小西康陽、コシミハルらが名を連ねている。

湯山は、ジョン・アダムズの「Short Ride in a Fast Machine」について、「『湘南爆走族』のような、もっと笑いが来るかと思ったんですけど。あるいは『ビー・バップ・ハイスクール』のような」と語り、「ジョン・アダムスが高級スーパーカーに試乗して、気分が良いんだか悪いんだか分からなくなった状況を作曲したもの」と解説する。

「月の光」。今回はフィラデルフィア管弦楽団のライブラリアンの方による編曲だそうである。

リゲティの「ポエム・サンフォニック(100台のメトロノームのための)」。爆クラ!では毎回、聴く者を驚嘆させるような音楽を演奏するそうで、ジョン・ケージの「4分33秒」もやったことがあるという。リゲティの音楽がどのようなものなのかは聴いてお楽しみとのこと。

黛敏郎の「BUGAKU(舞楽)」より第二部。以前から、黛の涅槃交響曲をやってみたいという希望を湯山は持っていたそうである。黛は鐘の音を解析して、それをオーケストラに置き換えて演奏させ、初演は大成功している。
なお、小野光子の『武満徹 ある作曲家の肖像』(音楽之友社)によると、武満は黛からピアノを借りたお礼に、天台声明の譜面と音源を渡したそうで、武満によると「それであの人(黛)はね、《涅槃交響曲》を書いたんです、と思いますよ。僕の記憶に間違いがなければ(笑)」だそうである。


ドビュッシーの「月の光」。まずクラリネットが主題を奏で、それが弦楽へと移り、フルートに受け渡されてラストを迎える。ハープの使い方も効果的。非常に美しいオーケストラ編曲である。


リゲティの「ポエム・サンフォニック(100台のメトロノームのための)」。バッティストーニがメトロノームを持って登場。譜面台の上に置いて、楽団員に促すと、全員が椅子の下からメトロノームを取り出し、いっせいに鳴らし始める。最初はテンポはバラバラで、ガタガタいう音が間断なく続く。雨音のようにも聞こえるが、私は昔の映写機がカタカタいう音を連想した。バッティストーニはずっと腕組みをして待機している。やがて、譜面台の上にあるものからテンポが離れたメトロノームから先に電気が落ちてゆき、拍子は「カツカツ」という二拍子に近くなる。指揮台の上を同じテンポのメトロノームだけが残り、やがてそれらも止まって譜面台上のものだけが生き続ける。譜面台上のメトロノームも息絶えて曲は終わる。

ホワイエでは、演奏で使われたセイコーインスツル株式会社製のメトロノームが売られていた。


黛敏郎の「BUGAKU(舞楽)」より第二部。「雅楽をオーケストラ用に置き換えたクラシック音楽」として真っ先に思い浮かぶのがこの「BUGAKU」である。木管や弦が笙や篳篥の響きを模し、フルートが龍笛のように鳴り渡る。
バッティストーニはダイナミックな音楽を東フィルから引き出す。「BUGAKU」を日本人以外の指揮者で聴くのは録音も含めて初めてだが、音楽は国境や言葉の違いを超えて指揮者にも聴衆にも届くのだということがわかる。


ジェフ・ミルズの「The Bells」。作曲者であるジェフ・ミルズがステージ上に呼ばれ、湯山からのインタビューを受ける。通訳が湯山のいうことを上手く伝えられなかったようだが、ミルズは、「まずエレキ音で全曲を作ってからオーケストラに置き換えます」と言っていた。バッティストーニはジェフ・ミルズの音楽について、「ポピュラーやジャズのミュージシャンがクラシック音楽に挑戦した場合、素人っぽいものになりやすいんですけど、この曲は大変充実した作品だと思います」と述べる。

その「The Bells」。まずチューブラーベルズが鳴らされるのだが、その後、ジェフ・ミルズ(ステージ上手端に陣取る)のDJが入り、ノリノリのダンス音楽が始まる。舞台の両端ではミラーボールが回り、ダンサブルな雰囲気を作っていた。


メインのジェフ・ミルズの「Planets」。演奏開始前に湯山玲子が登場し、「オランダのアムステルダム・コンサルトヘボウでのこの曲の演奏も聴いたのですが、さっきリハーサルでチェックした限りではフェスティバルホールの方が上です」と断言する。世界三大コンサートホールの一つであるアムステルダム・コンセルトヘボウであるがクラシック専用であるため、今日の電子音の大きさだと、壁や天井などが軋んでしまうだろう。フェスティバルホールはポピュラー対応なのでその点は万全である。

ジェフ・ミルズはやはり舞台上手でDJを行う。

ダンサブルなミニマルミュージックであるが、「The Bells」よりは描写的な音楽である。ホルストの組曲「惑星」とは違い、具体的にどこかの星を描いているということはなく、あたかも宇宙衛星から眺めた惑星群の印象を音にまとめているかのような趣が感じられる。曲が進むにつれて照明も赤からオレンジ、緑、青へと変わっていく。

途中で金管奏者達が集団で下手へと退場。続いて、フルート奏者とバスクラリネット奏者も下手へとはけていく。彼らは客席に現れ、バンダとして演奏する。

金管奏者達がバンダの役目を終えてステージへと戻ったところで、バッティストーニは指揮棒を譜面台に起き、片手または両手で数字を示して演奏させる。何らかの特殊奏法の指示であるのは確かだが、具体的にどう違うのかまではわからなかった。

変拍子の多い曲であるが、ラストは3拍子系から4拍子系という馴染みのあるリズムへと戻って終わる。

バッティストーニの指揮はジャンプを繰り出すなど、躍動感溢れるものだったが、強引な音運びは行わず、最後まで端正な造形美を守った。
良い曲ではあるが、もう一度聴きたいかというとそうでもないような。面白かったのだが記憶には残りにくい。


考えてみれば、黒人の作曲したフルオーケストラのための作品を聴くのは、今日が生まれて初めてなのだった。

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