コンサートの記(286) 下野竜也指揮読売日本交響楽団大阪定期演奏会2017・3月
曲目は、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番(ヴァイオリン独奏:アレクサンドラ・スム)、ブルックナーの交響曲第7番(ハース版)。
今日の読売日本交響楽団のコンサートマスターは、元大阪フィルハーモニー交響楽団コンサートマスターの長原幸太。ドイツ式現代配置での演奏である。
モーツァルトは室内オーケストラ編成、ピリオド・アプローチでの伴奏。今日は一番高い席と一番安い席がソールドアウトであったが、私は一番安い3階6列目の下手端席。この席からだと室内管弦楽団編成によるピリオドの伴奏はかなり小さく聞こえる。
下野はこの曲はノンタクトで指揮した。
真っ赤なドレスで登場したアレクサンドラ・スム。ロシア出身。ウィーンに学び、現在はパリ在住のヴァイオリニストである。京都市交響楽団の定期演奏会に客演したときには、「これは凄いヴァイオリニストが現れた」と喫驚したものだ。2013年1月に創設された、ベネズエラ発音楽教育のフランス版「エル・システマ・フランス」で後進の育成にも当たっているという。
1989年生まれとまだ二十代の若い奏者であり、ウィーンで学んでいるため、当然ながら古楽奏法も学んでいると思われ(ロシア国内では古楽奏法教育が進められているという話は聞かない)、彼女もまた、ロマン派以降を弾くときとは違うスタイルのようだ。
ということで、最初は音が小さく聞こえ、「今日はあんまり楽しめないのかな」と思ったが、次第にこちらの耳も慣れる。音の情報量が豊かであり、琥珀の輝きを思わせるような美音だ。
第1楽章のカデンツァはおそらくイザイのものを使用。第2楽章のカデンツァでは溢れんばかりの音楽性を披露する。
アンコール。スムは、「こんばんは」と日本語で挨拶し、「ありがとうございました」と日本語で続けた後、「イザイ(実際には欧州での発音に近い発音だった)ソナタ第2番(少し日本語を思い出しながら)第4楽章」と全て日本語で言って演奏開始。モーツァルト演奏時とは一転して情熱的でスケール豊かな演奏だが、それ以上に特筆されるのが弱音の美しさ。イザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタは彼女の十八番だというが、一度、全曲聴いてみたいものである。
ブルックナーの交響曲第7番。ハース版の楽譜を使用しているが、無料パンフレットに「指揮者の判断により(打楽器が)採用される」と書かれており、ティンパニ奏者の他に打楽器奏者が二人座っているのが見えたので、シンバルとトライアングルも鳴らされるのだと予想できる。ハース版では基本的にはクライマックスでの打楽器演奏は行われないが、ハース版でも打楽器を絶対に用いてはいけないということはないようである。ブルックナーの交響曲第7番は初演が自身初の大成功となり、ブルックナーも歓喜したというが、第2楽章のクライマックスに関しては「うるさすぎる! 恥を知れ!」という批判もあったそうで、打楽器の使用が「無効」とされた譜面が存在。ハースはブルックナー自身が「無効とした」として打楽器不採用。ノヴァークは「無効の筆跡がブルックナーではなく第三者のもの」として、打楽器を入れるよう校訂している。
読売日本交響楽団は弦楽器が全体的に美しく、特にヴァイオリンの音は輝きがあって心地よいが、管楽器はミスが目立ったり、合奏が微妙にズレたりと調子は今ひとつ。読響はフェスティバルホールのような巨大な空間(ステージも広く、今日もフル編成なのに下手も上手もスペースにかなり余裕あり)で演奏する機会は少ないので、そのことも影響しているのかも知れない。読響は2016年度から大阪定期演奏会の会場をザ・シンフォニーホールからフェスティバルホールに移したが、モーツァルトも含めて今日のような演奏なら、フェスティバルホールではなくザ・シンフォニーホールの方が合っているようにも思う。今日は少なくとも「フェスティバルホールを鳴り響かせた」とはいえない演奏であった。
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