これまでに観た映画より(90) ヒッチコック9「ふしだらな女」
1928年というと、日本の年号に直すと昭和3年。日本国憲法第9条の元となるパリ不戦条約が結ばれた年でもある。
今回は生演奏付きでの上演となる。作曲家でピアニスト、チェリストでもある古後公隆がキーボードとチェロの演奏を行った。
「ふしだらな女」も字幕によるセリフは比較的多めで、ディレクターの大野裕之が日本語訳を読み上げる。
まずは裁判所の場面から始まる。被告人はラリータ・フェルトン(イザベル・ジーンズ)。ラリータは画家のクロード(エリック・クランズビー・ウィリアムス)に肖像画を依頼してたのだが、ラリータの夫のオーブリー(フランクリン・ダイアル)はアル中で癇癪持ちであり、酔ってはラリータを殴りつけるなどのDVを行っていた。クロードがラリータの肖像画を描いている時も、様子を見に来たオーブリーは堂々と酒を飲んでいる。オーブリーの不在時、二人きりで絵を描いていた時にラリータがDVを受けていることを知ったクロードは打撲痕のある腕を取ってラリータを慰めるのだが、折悪しく、丁度そこへオーブリーが帰ってきてしまう。ラリータとクロードの浮気の現場を押さえたと勘違いしたオーブリーは二人をなじる。激怒したクロードはピストルを発砲。オーブリーはクロードを散々に殴りつけるが、最後は倒れる。急所は逸れていて命に別状はなかったのだが、発砲音を聞きつけた警察が駆けつけてくる。追い詰められたクロードは自殺する(自殺のシーンはなく、法廷での証言のセリフでクロードの死が語られる)。
姦通罪で、有罪となったラリータは南仏へと移り、傷心を癒やそうとする。ある日、ラリータがテニスの試合を見ていた時に、テニスボールが逸れてラリータの顔に当たってしまう。ミスショットをしたのはジョンという青年(ロビン・アーヴィン)。これがきっかけとなり、ラリータとジョンは急接近。瞬く間に結婚に漕ぎ着けた二人はイギリスに帰ることになる。
しかしジョンの母親(ヴィオレット・フェアブラザー)はラリータに不審を抱いている。ジョンの母親は元々はジョンの幼なじみであるサラ(イーニッド・スタンプ=テイラー)を義理の娘として迎えるつもりでいた上に、何故か見覚えのあるラリータの顔から不穏なものを感じていた。サラはラリータに優しかったが、ジョンの母親はラリータには冷たく当たり……。
特に誤ったことはしていないのに、勘違いされたり間違われることで不幸になるという、ヒッチコック映画ではお馴染みのパターンが見られる映画である。
実は元のフィルムはすでに消滅しており、残っていたのは家庭用の16ミリフィルムに転写されたものだけだったという。なお、元々は94分の作品だったそうだが、今現在残っているのは69分のみであり、今回はそれが上映された。元々が粗悪な映像であったわけだが、イギリスが国費を注ぎ込んでデジタルリマスターしたというだけあって、予想よりも良い画像で観ることが出来た。
以前にも京都会館第2ホール(現・ロームシアター京都サウスホール)で、齊藤一郎指揮京都市交響楽団の伴奏によるチャップリンのサイレント映画を観たことがあるが、やはり生演奏による音楽の力には大きなものがある。その分、十分に注意しないと物語が音楽に飲み込まれてしまう可能性が高くなるということでもある。
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