連続テレビドラマ「カルテット」のためのメモ集成
小さな声で話すヴァイオリニストの巻真紀(まき・まきという洒落のような名前。演じるのは松たか子)を巡るミステリー仕立ての作品である。私も小さな声でしか話せないのだが、理由は色々ある。そのことが鍵になるのかどうかは第1話ではまだわからない。
音楽家達の話だが、状況はシビアだ。プロとしての演奏経験があるのは真紀だけ。後は、おそらく縁故で入った会社員、美容院のバイトリーダー(美容師免許なし)、フリーの売れない音楽家など、夢からは遠い状況にある人ばかりである。
松田龍平演じる別府司の祖父が偉大な指揮者ということで、軽井沢にある別府家の別荘で話は進むのだが、ハイソな環境で現実は中和されているものの苦しさは皆自覚している。
今のところ、ほぼ全員が丁寧語で会話をしており、心の垣根の高さが感じられる。悪女と思われる人が何人も出てくるのだが、吉岡里帆演じる有朱(子供の頃のあだ名は「淀君」だったという)が一番の悪女のようでもある。
第4話のラストで吉岡里帆演じる有朱(ありす)が本格的に悪女の本性を露わにし始める。子供の頃から女王様気質で、元地下アイドルながら今は料理店の店員というストレスがたまりそうな設定が伏線としてちゃんと張られている。吉岡里帆は好演だが、女優としては駆け出しだけに、「目が笑ってない」といわれる女性を演じるのに十分かというと、現時点ではそうではないだろう。目の表情に関しては松たか子の方がずっと上手い。なんといっても松たか子は歴史に残る女優だろうし。
ただこの巻、予想以上の食わせ物であったことから、ストーリーが大きく変わっていきそうである。
妻のヴァイオリンを持ち出そうとしている有朱を見かけた巻幹生(宮藤官九郎)と揉み合いになり、ベランダから墜落してしまう有朱。人を殺してしまったと動揺する巻。
妻の真紀と久しぶりに出会った巻は、有朱と共にダムから飛び降りて死ぬ計画を打ち明ける。だが有朱は生きていて……。
客観的に見るとかなり深刻な状況なのだが、それでもみなどこかズレているためくすりと笑える上手い仕掛けになっている。
松たか子には女優として致命的な欠陥が二つあった。一つは映像写りが悪いこと(舞台で見ると超美人なのに、映像では余りパッとしなくなってしまう)これはもうどうしようもない。もう一つは泣き顔が汚いことだったが、こちらは克服したようだ。
カルテット・ドーナツホールの3人のうち唯一の会社員だった別府司(松田龍平)は会社を辞め、世吹すずめ(満島ひかり)はアルバイトとして働いていた不動産が店を畳むことになったため、アルバイトをすると同時に資格の勉強をしていた。家森諭高(高橋一生)は「ノクターン」改め「割烹のくた庵」で休みなしで働いている。
第9話から1年が経ち、3人は真紀を見つけ出して、カルテット・ドーナツホールが再結成される。3人は音楽を趣味として続ける道を選ぼうとしていたが、真紀は軽井沢大賀ホールでコンサートをしようと持ちかけ……。
いらないといえば音楽自体がいらないものなのかも知れない。音楽がなくても世界は回る。それは添え物でしかないパセリのようなものなのかも知れないし、音楽自体が煙突から出る煙なのかも知れない。
しかし、あることとないことで変わることは確実にある。そもそも「必要なものでしか世界は構成されてはならない」と誰が決めたのか?
彼らは良くも悪くも変わらない。音楽の腕が上がるでもないし、つまらないやり取りばかりしている。でも、それでいいじゃないか。
人の生き方や世界のあり方の正解を示せるほど偉い人なんて世界のどこにいるのかという話である。
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