コンサートの記(291) ペトル・アルトリヒテル指揮プラハ交響楽団来日演奏会2017京都 スメタナ 「わが祖国」全曲
プラハ交響楽団はプラハ市営のオーケストラである。
なお、入場者には、「京都・プラハ姉妹都市提携20周年」を記念して、京都洛中ロータリークラブからチョコレートが送られた。
スメタナの連作交響詩「わが祖国」全曲の演奏。
1996年4月に姉妹都市となった京都市とプラハ市。共に市営のオーケストラがあるということで(京都市交響楽団はその後、市直営から市の外郭団体による運営に切り替わった)、12年前となる2005年に京都市交響楽団とプラハ交響楽団は姉妹オーケストラの提携を結び、合同演奏会も行ったが、その後は少なくとも「密接な関係」にはなっていない。
指揮者のペトル・アルトリヒテルは、1951年生まれ。生地はモラヴィアにあるフレンシュタード・ポト・ラドシュチェムという長い名前の街である。フレンシュタード・ポト・ラドシュチェムの隣町にあるオストラヴァ音楽院で指揮法とホルンを学び、ブルノにあるヤナーチェク音楽院在学中の1976年にブザンソン指揮者コンクールで2位入賞及び特別賞受賞。チェコ・フィルハーモニー管弦楽団でヴァーツラフ・ノイマンの助手を務め、1990年にプラハ交響楽団の首席指揮者に就任。この時は1年で退任している。1997年から2001年まではロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者として活躍。1993年に南西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団の芸術監督に就任(2004年まで)。2002年から2009年まではチェコ国立ブルノ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者の職にあった。この時期、ブルノ・フィルとレコーディングを行っており、以前、ザ・シンフォニーホールでブルノ・フィルハーモニー管弦楽団が来日演奏会を行ったとき(指揮者は若手のアレクサンダー・マルコヴィッチであった)にペトル・アルトリヒテル指揮ブルノ・フィルのCD(「新世界」交響曲ほかを収録)を買ったことがある。
というわけで、CDでは聴いたことのあるアルトリヒテルだが、実演に接するのは初めてだ。
アルトリヒテルは、2003年から2006年に掛けて、再度、プラハ交響楽団の首席指揮者を務めている。
ドイツ式の現代配置での演奏。白人は体格がいいため、ウレタン仕様の椅子は二つ重ねて少し高くなるように調整されている。ステージはすり鉢状にしているが、上手下手出入り口付近は邪魔になるために上げずにフラットにしている。そのためなのかどうかはわからないが、最近の京都コンサートホールでの演奏にしては残響は短めであった。
日本人かどうかはわからないが、フォアシュピーラーの女性と、トライアングルを鳴らす打楽器奏者の女性は少なくとも東アジア系であるのは確実と思われ、国際的な面々が揃っているようだ。
演奏が始まる前に、駐日チェコ大使のスピーチがある。「皆様、こんばんは」「ようこそお越し下さいました」「ここからチェコ語に変わってもいいですか」と日本語で挨拶した後で、チェコ語でのスピーチを始める(日本語通訳も多分、チェコ人の女性)。「京都とプラハは姉妹都市であるが、文化のみならず経済なども含めてあらゆる面で姉妹都市である」ということ、「門川大作京都市長とアドリアーナ・クルナーチョバー・プラハ市長(女性である。現在、入洛中)に挨拶に行き、歓迎された」こと、「モルダウ」が日本でもお馴染みの曲になっていることなどを語り、「本当にありがとうございました」と日本語で言って締めた。
スメタナの連作交響詩「わが祖国」全曲。前半に「ヴィシェフラド(高い城)」、「ヴルタヴァ(モルダウ)」、「シャールカ」の3曲が演奏され、休憩を挟んで後半に「ボヘミアの森と草原から」、「ターボル」、「ブラニーク」が演奏される。
アルトリヒテルの指揮は拍を刻むオーソドックスなスタイルだが、かなり情熱的な指揮であり、身振り手振りは大きく、時には唸り声を上げながら指揮をする。膝を曲げて中腰になって指揮したり、片方の足でリズムを踏むもあるが、一番の癖は前髪を息で吹き上げながら指揮することである。
なお、総譜は、「わが祖国」全6曲を纏めたものではなく、交響詩1曲を収めた総譜6冊を利用していた。
第1曲「ヴィシェフラド(高い城)」では、出だしのハープ序奏を二人の奏者(共に金髪の女性である)に任せ、その後、指揮を始める。
プラハ交響楽団は、12年前に聴いたときには、「技術はまあまあ高く、音色は京響よりも豊か」という印象だったが、今日は弦の音は美しいものの、京響のように燦燦と光り輝くというタイプではなく、「渋い音」の部類に入る。勿論、音のパレットは豊かなのだが、基本的には「いかにも東欧のオーケストラらしい」玄人好みの音色である。一方の管は、思い切り吹いてもまろやかな音が出ており、美観は十分である。「やはり日本人とは肺活量が違うな」と思われるところもあった。
アルトリヒテルは音のブレンドに長けているようで、弦と管の音を上手く組み合わせて音楽を作る。
第2曲「ヴルタヴァ(モルダウ)」は、一昨日、高関健指揮京都市交響楽団の演奏で聴いたばかりなので比較が可能である。といっても今日はポディウム席の1列目なので、1階席の18列目真ん中だった一昨日とはコンディションは異なる。
チェコのオーケストラが「モルダウ」の第1主題を演奏すると、どこがどうと詳しく説明することは出来ないのだが、「郷愁(ノスタルジア)」のようなものが強く感じられる。やはり祖国が誇る作曲家の作品であるため、思い入れが違うのだと思われる。
イメージ喚起力に長けた秀演である。
第3曲「シャールカ」は切れ味の鋭さが印象的な演奏であった。
第4曲「ボヘミアの森と草原から」。「わが祖国」の中では「モルダウ」の次に知名度の高い曲である。アルトリヒテルとプラハ響はスケールの大きな演奏を行う。
第5曲「ターボル」では、ホルンが吹き始める音型が、その後、各楽器に移っていくのだが、仄暗い情熱を感じさせつつもとても丁寧な仕上がりとなった。
ラストの「ブラニーク」。この曲には、とても美しいオーボエソロがあるのだが、プラハ響のオーボエ首席奏者のソロもとても美しい。またオーボエソロを受ける形となる首席クラリネット奏者と首席ホルン奏者(彼だけは燕尾服ではなく、ジーンズにジャンパーというラフな格好であった)の技術も極めて高度で、プラハ響の質の高さがまざまざと伝わってくる。まだ若いと思われるティンパニ奏者のノリとリズム感も抜群であった。
アルトリヒテルは、最後に6冊の総譜を掲げて、曲への敬意を表した。
プラハ交響楽団の知名度は日本全国ではそれほど高いとはいえないだろが、実質はともかくとして京都市交響楽団の姉妹オーケストラということもあり、京都コンサートホールは3階席正面の上手下手端、1階席後方の上手下手端を除けば席は埋まっていて、入りも上々といえるだろう。
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