観劇感想精選(214) 兵庫県立ピッコロ劇団オフシアターVol.33「長い墓標の列」
公立の劇団であるピッコロ劇団。通常の公演はピッコロシアターの大ホールで行うのだが、今回はオフシアターということで中ホールでの上演となる。お客さんの大半は出演者の知り合いであるようだった。
「長い墓標の列」は、今から丁度60年前の1957年に初演された劇である。
作者の福田善之は、1931年生まれの劇作家・脚本家。私の演劇の師の一人である観世榮夫と一緒に芝居作りをしてきた人である。
東京帝国大学をモデルにしたと思われる大学の自治を巡る物語から話は始まり、世相を反映して言論の自由が制限され、権利や生きる意義、戦時下での人のあり方などが描かれていく。
山名は自由社会主義の信奉者であり、国家主義者ともマルクス主義者とも対立していた。ゼミ生の林(菅原ゆうき)はマルクス主義者であったが、山名のことは慕っている。
学部会議は山名らの勝利となったのだが、そのことが山名を却って追い込むことになる。
山名の娘である弘子(野秋裕香)は、花里と恋仲である。学部会議を終えた山名は、ゼミ室を訪れてきた弘子と共に映画を観に出掛け、花里も二人についていく。
山名は、経済学部長の村上(今仲ひろし)の説得を受けるなどしたが、結局、大学から追放同然の処分を受ける。城崎と花里もいったんは辞表を出すが、城崎は大学に復職を決め、花崎も大学に残って学問を究めたいという希望を述べる。山名は人間の無限の可能性を信じており、人間は強くあるべきだという主張を持っているのだが、城崎は人間の弱さを認めるべきだという考えを持ち、目の前は暗いが、時代がどう変わっていくかをこの目で見たいと思っていた。城崎は破門同様の形で、山名と決別することになる……。
山名の主張、城崎の生き方、共に首肯できるものはある。少なくとも、二人とも真の善人でもなければ根っからの悪人でもない。ただ、山名の考えは理想に傾きすぎる嫌いがあり、城崎は考えは現実的に過ぎる上にニヒルで、私は彼らのような生き方には共感出来ないと思えたのも事実である。
この時代の戯曲の特徴として、長ゼリフが頻用されており、ピッコロ劇団のメンバーも苦戦気味だったが、今日が初日ということで、善戦した方だと思えた。
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