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2017年5月 4日 (木)

コンサートの記(298) ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮香港フィルハーモニー管弦楽団日本公演2017

2017年4月18日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて

午後7時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、香港フィルハーモニー管弦楽団の日本公演を聴く。指揮は香港フィルハーモニー管弦楽団音楽監督のヤープ・ヴァン・ズヴェーデン。

アジアのオーケストラとしてはトップクラスの知名度を誇る香港フィルハーモニー管弦楽団。香港映画や中華ポップの演奏を行っていることでも名高い。だが、この香港フィル、なんと来日演奏会を行うのは実に29年ぶりになるという。そして今回も日本公演は今日の大阪での演奏会のみで、東京での演奏会は予定されていない。ということで、「音楽の友」誌の記者達がザ・シンフォニーホールに乗り込んでいるそうである。

香港フィルの音楽監督を務めるヤープ・ヴァン・ズヴェーデンは、EXTONレーベルへの録音で、日本でも知名度の高い指揮者である。オランダ出身。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンサートマスターを経て指揮者に転身している。ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のヴァイオリン奏者やコンサートマスターとしては何度も来日しているが、指揮者としての来日は意外にも今回が初めてになるそうだ。


曲目は、フォン・ラム(Fung LAM 林豊)の「クインテッセ」、バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番(ヴァイオリン独奏:ニン・フェン)、ブラームスの交響曲第1番。


29年前と今とでは同じ香港フィルであっても実態はもう別のオーケストラだと思える。そもそも29年前には香港は中国のものではなく、英領だった。
香港フィルは、1948年の創設。当時はアマチュアオーケストラだった。1973年にプロオーケストラに移行。1989年に本拠地となるアーツセンター・コンサートホールが竣工し、同年、ロンドン・シンフォニエッタの指揮者などを務めていたデイヴィッド・アサートンが音楽監督に就任。1997年に香港は中国に返還され、白人主体だったオーケストラに変化が訪れる。2003年にはエド・デ・ワールトを音楽監督に迎え、2012年にヤープ・ヴァン・ズヴェーデンが後任として音楽監督に就任している。


開場時からステージ上では、木管奏者達が練習を行っており、その後、楽団員達が三々五々ステージに出てきて思い思いに弾き始めるというスタイル。弦楽の首席クラスが開演数分前に出てきて、最後は拍手を受けながらコンサートマスターが登場して全員が揃う。
アメリカ式の現代配置での演奏。ティンパニは指揮台の真っ正面ではなくやや下手寄りに位置する。
管楽器は白人主体、弦楽器はアジア系が大半といった好対照な顔触れ。打楽器は白人とアジア系が半々である。ハープは白人の男性奏者が演奏していた。


ズヴェーデン登場。見事なリンゴ体型である。


フォン・ラムの「クインテッセ」。仏教の五蘊(色、受、想、行、識)を描いた現代曲である。フォン・ラムは、1979年生まれの香港の作曲家で、イギリスで音楽を学び、現在もイギリスと香港の両方を拠点として活躍しているという。
打楽器の強打に、シンバルを弓で弾くなどの特殊奏法がある。一方で、管や弦は神秘的な響きを奏で、独特の雰囲気を生み出している。


バルトークのヴァイオリン協奏曲第2番。このところ、プログラムに載ることが増えてきた曲である。演奏時間約40分という大作。ズヴェーデンはこの曲はノンタクトで指揮した。
ソリストのニン・フェンは、中国出身のヴァイオリニスト。ベルリンを拠点として活躍しており、ドラゴン四重奏団との共演も重ねているという。

ニン・フェンの音はやや乾いた感じである。ザ・シンフォニーホールでこうした音が出ることは珍しいのだが、香港フィルの弦楽陣もやはりやや乾き気味の音色を出している。日本のオーケストラの弦楽奏者は輝かしい音を追求し、韓国のオーケストラも似た感じであるが、他のアジアのオーケストラ(香港以外に、中国、マレーシア、ベトナムなど)の弦楽パートはそれとは違うものを求めているようにも感じる。
ハンガリー出身のバルトークならではのペンタトニックや、特殊な演奏法などが聴かれるため、どことなくアジアな響きが感じられる演奏になっている(ハンガリーのフン族は元々はアジア系とされる)。
昨年聴いたオーギュスタン・デュメイの同曲演奏のようなスケールの大きさこそ感じられなかったが、ニン・フェンの技術も高く、ハイレベルな演奏を味わうことが出来た。

ニン・フェンのアンコール演奏は、パガニーニの「24のカプリース」より第1番。高度なメカニックを繰り出した演奏であった。


後半、ブラームスの交響曲第1番。
ヤープ・ヴァン・スヴェーデンが日本で知名度を上げたのは、オランダ・フィルハーモニー管弦楽団などを指揮して完成させた「ブラームス交響曲全集」(オランダ・ブリリアント・クラシックス)によってであった。若きズヴェーデンの溌剌とした演奏が評判を呼んだのである。
ということで、ズヴェーデンの十八番ともいえる曲目が演奏される。
ズヴェーデンは、ホルンや木管、ヴィオラといった内声を強く弾かせることで音に立体感を生み出す。特にヴィオラの対旋律を浮かび上がらせるのは効果的で音に厚みと彩りの豊かさが出る。

指揮棒を持って登場したズヴェーデンだが、指揮棒をヴィオラ首席奏者の譜面台に差して、第1楽章と第2楽章はノンタクトで指揮する。
第3楽章に入る前に指揮棒を手にしたズヴェーデン。中間部に入るまでは指揮棒を用いていたが、今度は指揮棒を自身の譜面台の上に置いてノンタクトでの指揮を始める。第4楽章の終盤になってから再び指揮棒を手にして指揮した。ノンタクトで振った方が両手を均等に用いることが出来るために細部まで操りやすいのであろう。

スマートなブラームスである。生まれ出る音楽自体は熱いのだが、弦楽の音色が比較的あっさりしていてまろやかなため、上手く中和されている。各楽器の奏者達の技術も高く、優れたブラームス演奏となった。


アンコールは、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」。ズヴェーデンと香港フィルは、NAXOSレーベルに「ニーベルングの指輪」全曲をレコーディングしている。ズヴェーデンはこの曲でも指揮棒をヴィオラ奏者の譜面台に挟んでノンタクトで指揮した。
トランペット、トロンボーン、ホルンといった金管がパワフルであり、ズヴェーデンの巧みなオーケストラコントロールもあって好演となる。


優れた指揮者とオーケストラによる素晴らしい演奏会であった。

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