コンサートの記(309) 「長富彩 ピアノ・リサイタル ベートーヴェンからリストへ -古典派からロマン派への転遷-」
今日のザ・シンフォニーホールは1階席のみの販売のようで、1000人前後に聴衆を絞っての演奏である。ザ・シンフォニーホールで1階席のみのピアノ公演だと残響が長すぎるようにも感じられ、最初のうちは音に馴染めなかったが、プログラムが後半に入る頃には慣れていた。
曲目は、前半がオール・ベートーヴェンで、ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」、「エリーゼのために」、ピアノ・ソナタ第30番。
後半がオール・リストで、「愛の夢」第3番、「ハンガリー狂詩曲第2番」、「詩的で宗教的な調べ」より第3番“孤独のなかの神の祝福”
青のドレスで登場した長富綾は「小柄で華奢な女性」という印象。そうした女性がベートーヴェンやリストの楽曲を弾くというのは余りリアリティを感じないのだが、感じようが感じなかろうが演奏会は始まる。
ベートーヴェンの「悲愴」では音の立体感の巧みな生み出し方が最も印象的である。
「エリーゼのために」ではやや遅めのテンポを取り、ベートーヴェンがこの曲に込めた情念を炙り出していく。なお「エリーゼ」というのはベートーヴェンの筆跡が荒かったために生まれた誤読で、実際は「テレーゼ」なのだという説が有力視されていたが、「エリザベート・レッケルという女性のために書かれた楽曲」という新説も生まれており、詳細不詳である。ただエリーゼの正体が誰かというのは、音楽史的には重要であっても、演奏するにも鑑賞する上でも大した事象ではないと思われるのも事実である。
ピアノ・ソナタ第30番では、瑞々しい感性が生きた快演。ラストの祈りの表現も見事であった。
リストの「愛の夢」第3番。
長富はこの曲でも遅めのテンポを採用して、浮遊感のあるロマンティックな演奏を繰り広げる。やや音が軽いと思われる場所もあるが傷ではない。
「詩的で宗教的な調べ」より第3番“孤独のなかの神の祝祭”。煌めきのある音で計算のきちんと行き届いた演奏を聴かせる。
かなり良いピアニストである。
| 固定リンク | 0
コメント