コンサートの記(325) 牛田智大 ピアノ・リサイタル2017 京都
牛田智大は、1999年福島県いわき市生まれの若手ピアニスト。12歳の時にドイツ・グラモフォンから日本人ピアニスト史上最年少でメジャーデビューという神童系である。
モスクワ音楽院には松田華音も在学中であり、近年では日本人ピアニストの有力な留学先となっているようである。
ロシアのピアニズムというと、エミール・ギレリスのような激情型豪腕演奏を連想するが、「エンター・ザ・ミュージック」(BSジャパン)に牛田が出演した回を見ると、「指は鍵盤の上に置けばいい」という教え方が主流だそうで、日本の「鍵盤を押し込むように」という指導とは正反対だそうだ。
プログラムはかなりの重量級で、J・S・バッハの平均律クラーヴィア組曲第1巻より第3番、ショパンの24の前奏曲全曲、バッハ/ブゾーニの「シャコンヌ」、ショパンの夜想曲第17番、ショパンの練習曲作品25の5番、ショパンの練習曲作品10の5番「黒鍵」、ショパンのピアノ・ソナタ第2番「葬送」、ショパンのバラード第1番、ショパンのポロネーズ第6番「英雄」
牛田はマイクを片手に登場。まずスピーチを行う。写真やテレビで見るよりも顔つきは幼い印象を受けるが、声や喋り方は逆に実年齢よりも落ち着いている。
まず、J・S・バッハとショパンがプログラムに並ぶことについて、「活躍した時代は大きく異なっていますが、共通点が多い」ということで二人の作品を並べたという意図を語る。例を挙げればバッハもショパンも右手と左手を比較的対等に扱うという共通点がある。
続いて台風が近づいている中で多くのコンサートに駆けつけてくれたことへの謝意を述べ、更に10月16日に誕生日を迎えて18歳になり、今日が18歳になってから初めての演奏会ということで、「初心に返る」ことを念頭に置いて演奏を行いたいという抱負を語った。
J・S・バッハの平均律クラーヴィア第1巻より第3番。粒立ちの良い音としなやかな感性が印象的な流線型のバッハである。なかなか格好いい。
ショパンの24の前奏曲は清らかな音色を基調とする端正な演奏であり、個性や閃きに満ちいているというわけではないが、正統派の堂々としたピアニズムを展開する。
「太田胃散の曲」として知られる前奏曲第7番では、歌い崩して俗な表現を避けるなどの工夫も見られた。これらの曲での右手と左手の対話表現なども見事に表していたように思う。
牛田は、前奏曲第24番の最後の音をダンパーペダルで伸ばし、音を切ることなく「シャコンヌ」に突入。冒頭は比較的軽めに入り、徐々に音の密度を増していくという演奏。またに濁った和音が出るが、特に傷ということでもない。
夜想曲第17番からバラード第1番までは、休憩を入れることなく演奏。ピアノ・ソナタ第2番「葬送」では毒や痛切さには乏しく、やはり若いピアニストであることを感じさせるが、全般的にフォルムで聴かせるショパンであり、内容にいたずらに踏み込むことなく音そのものに語らせるという趣を持つ。バラード第1番での高音の煌めきも素晴らしい。
「英雄」ポロネーズも的確な技術で聴かせる演奏であった。
アンコール演奏は2曲。まずプーランクの即興曲第15番「エディット・ピアフに捧ぐ」。ひんやりとした音が印象的な演奏である。最後はシューマンの「トロイメライ」。ノスタルジアの表出に優れた秀演であった。
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