コンサートの記(330) 尾高忠明指揮大阪フィルハーモニー交響楽団第513回定期演奏会 モーツァルト 後期三大交響曲
1947年、神奈川県鎌倉市に生まれた尾高忠明。実父は指揮者で作曲家の尾高尚忠(ひさただ)、実兄は作曲家の尾高惇忠(あつただ)という音楽一家の出身である。
桐朋学園大学で指揮を齋藤秀雄に師事。学生時代は盟友の井上道義と共に「悪ガキ・イノチュウ」と呼ばれるほどやんちゃだった(今は尾高はジェントルな感じだが、井上は相変わらずの悪ガキぶりである)。
長く東京フィルハーモニー交響楽団の常任指揮者を務め、BBCウェールズ交響楽団首席指揮者時代にはレコーディングでも高い評価を得る。読売日本交響楽団常任指揮者、紀尾井シンフォニエッタ東京首席指揮者、札幌交響楽団常任指揮者を歴任。現在では日本におけるシベリウス演奏の泰斗として知られ、札幌交響楽団との「シベリウス交響曲全集」やサントリーホールでの3年越しの「シベリウス交響曲チクルス」は絶賛されている。
大阪フィルハーモニー交響楽団の来年度のプログラムが今日発表になったが、目玉は尾高指揮のベートーヴェン交響曲全曲演奏会である。5月から12月にかけて、作曲された順に5度のべ6回の演奏会が予定されている。その分、尾高の定期登場は2度に限られ、1年を通して他の古典派のプログラムは控えめである。海外の指揮者のビッグネームはレナード・スラットキンのみ。その他の外国人指揮者の顔ぶれは若手ばかりで、あたかも大阪交響楽団の定期のようになっている。NHK交響楽団を指揮した京都での演奏会で好演を聴かせたパスカル・ロフェが登場する10月の定期演奏会が意外に聞き物かも知れない。
曲目は、モーツァルトの後期三大交響曲(交響曲第39番、第40番、第41番「ジュピター」)の一挙上演という意欲的なものである。
今日のコンサートマスターは崔文洙。古典の演奏であるが、今日もいつも通ドイツ式の現代配置での演奏。「ジュピター」では編成も大きめであった。
尾高は全曲ノンタクトで指揮する。たまにピリオドの影響が聞こえる部分もあるが、基本的にはモダンスタイルによる演奏を行う。
交響曲第39番。この曲の演奏は、20年ほど前にNHKホールで聴いた、アンドレ・プレヴィン指揮NHK交響楽団のまろやかな音による演奏が今も印象に強く残っているが、尾高の指揮する39番はシャープで現代的である。速度はやや速め。第3楽章では明るい響きの中にクラリネットの孤独で不安に満ちた旋律を浮かび上がらせるなど、モーツァルトの陰を見事に炙り出す。
交響曲第40番。クラリネットを入れた第2版での演奏である。速度は速めで、第2楽章以降はかなり速くなる。硬質な音による大ト短調で、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団の同曲演奏に少しだけ似ている。
尾高は各楽章のラストに重きを置いているようで、演奏は終結部から逆算されているようにも思う。
交響曲第41番「ジュピター」。輝かしい出来となった。大フィルの弦には張りと透明感があり、管は瑞々しい音で鳴る。弦が主役の部分でも尾高は管を強く吹かせることで立体感を生んでいた。以前は大フィルの弱点であったホルンも今はかなり改善され、全ての楽器が高いレベルで統合された好演に仕上がっていた。
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