コンサートの記(331) 下野竜也指揮京都市交響楽団第618回定期演奏会
曲目は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」(ピアノ独奏:アンナ・フェドロヴァ)とジョン・アダムズの「ハルモニーレーレ」
京都市交響楽団のTwitterの載せられた映像で、「チケットが売れていません。買って下さい」と語っていた下野は、プレトークでもまずそのことに触れ、「空席が目立ちますが、空席以外は満席ということで」と吉本芸人のようなことを言う。ただ今日は当日券売り場に長蛇の列が出来ていたため、開演前にはなかなかの入りとなった。定期演奏会は昨日もあったため、あるいは評判を聞いて駆けつけた人がいたのかも知れない。
今日のコンサートマスターは客演の西江辰郎、フォアシュピーラーは泉原隆志。第2ヴァイオリン首席は今日も客演で、直江智沙子が入る。管楽器は、オーボエの髙山郁子とクラリネットの小谷口直子が全編に出演。他のパートの首席は「ハルモニーレーレ」のみの出演である。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」。
ピアノ独奏のアンナ・フェドロヴァはウクライナ出身の若手ピアニスト。キエフ音楽院、イタリアのイモラ国際アカデミー、ロンドンの王立音楽院に学び、2009年のルービンシュタイン記念国際ピアノコンクールで優勝。その他のコンクールでも優勝や入賞歴があるという。
フェドロヴァのピアノは、音の粒立ちが良く、透明感がある。メカニックは高度なのだが、バリバリ弾くというよりも適切なタイミングで適切な鍵盤の上に指を置いていくというスタイルであり、押しつけがましさのないしなやかな演奏を展開する。
下野指揮の京都市交響楽団は、下野の体型とは正反対の(?)引き締まったフォルムで、バネのある力強い伴奏を行った。ティンパニが硬めの音を出していたが、それ以外は完全にモダンスタイルの演奏である。
アンコールとしてフェドロヴァはショパンの「子犬のワルツ」を演奏。涼しげな演奏であった。
後半、ジョン・アダムズの「ハルモニーレーレ」。
ジョン・アダムズは、1947年生まれのアメリカの作曲家。ハーバード大学音楽学部で作曲を学び、大学卒業後はサンフランシスコに移住し、同地の音楽院で作曲などを教えながら作曲と指揮活動を行っている。反復を特徴とするポスト・ミニマルの代表的な作曲家であり、「中国のニクソン」や「ドクター・アトミック」など社会的な題材によるオペラの作曲家としても知られている。管弦楽曲作品としては、「ショート・ライド・イン・ア・ファースト・マシーン」が比較的有名である。
「ハルモニーレーレ」は、1984年から1985年に掛けて書かれた作品で、下野のプレトークによると、「約20年前に、約ですよ(正確には1986年)。に、サントリーホールで、ケント・ナガノ指揮の新日本フィルハーモニー交響楽団によって」日本初演が行われ、その後、日本では演奏される機会がなかったのだが、2年前に下野が東京で同曲を取り上げ、この京都での演奏が日本で3度目の上演になるという。
3つのパートからなる曲で、パート1はタイトルなし、パート2のタイトルは「アンフォルタスの傷」、パート3が「マイスター・エックハルトとクエッキー」である。
大編成での演奏であり、ステージ上にオーケストラ奏者が所狭しと並ぶ。ティンパニ以外の打楽器奏者は複数の楽器を掛け持ちするため打楽器の数も多く、テューバは珍しく2管編成。ピアノにチェレスタという鍵盤楽器も加わる。
ミニマル・ミュージックということで、同じパートの繰り返しが音の波が押し寄せる様に聞こえたり、心地のよいリズム感を生んだりする。
パート1ではジョン・ウィリアムズの映画音楽のように聞こえる部分があったり、パート2はホルストの組曲「惑星」の「天王星」を連想する曲想だったりと、宇宙的な拡がりを感じさせる作品である。
パート3「マイスター・エックハルトとクエッキー」は、強烈なリズムの反復によってスケールがどんどん拡がっていき、熱狂のうちに「皇帝」と同じ変ホ長調で曲は閉じられる。
楽しい現代音楽であり、演奏終了後、客席は大いに沸いた。
終演後のレセプションに参加し、下野とフェドロヴァの挨拶を聞いて帰る。下野は「ハルモニーレーレ」について、「初めて聴いた時は大きなプラネタリウムの中にいるような感じがした」と述べ、「来年のプログラムが近く発表になると思いますが、来年も『下野の奴、またこんな曲取り上げやがって』と言われるような曲をやることを予告しておきます」と語った。
フェドロヴァは下野のことを、「ファンタスティック・マエストロ」と呼び、「大きなオーケストラとやったけれど、まるで室内楽の演奏をしているかのようだった」と感想を述べ、また京都コンサートホールの音響を素晴らしいと評していた。
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