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2017年12月29日 (金)

コンサートの記(337) 井上道義指揮 京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」2017

2017年12月28日 京都コンサートホールにて

午後7時から、京都コンサートホールで京都市交響楽団特別演奏会「第九コンサート」を聴く。指揮は元京都市交響楽団音楽監督兼常任指揮者の井上道義。
井上は今年の3月をもって大阪フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者を辞したばかりだが、年内に同じ関西の楽団の指揮台に登場するということになる。普通はしばらくは遠慮しそうなものだが、それをしないのがいかにも井上らしい。大フィルのシェフだと京響を振れないのが嫌だったのかも知れない。

オーケストラ・アンサンブル金沢の音楽監督からも離れることを発表した井上。「地方創生の役割は果たし終えた」というようなことを話していたが、案外、NHK交響楽団の正指揮者の話があったりするのかも知れない。N響の定期演奏会からはしばらく遠ざかっていた井上だが、久しぶりに客演するや大好評。更にN響と密接関係を持つ指揮者が登用されるNHK大河ドラマテーマ音楽の指揮も「篤姫」と「平清盛」で担っており、N響からの信頼の高さが窺える。


今日は、第九の前にショスタコーヴィチのジャズ組曲第1番が演奏される。バンド編成での演奏である。今日の井上は全編ノンタクトでの指揮。
井上が楽団の方を振り返った時に照明が入れ替わり、ピンクと紫を基調とした絞った明かりになる。笑い声が起こり、井上も客席を振り返って「どうでしょう?」という仕草を見せる。
まず、テナーサックスを吹く井上ハルカの顔がなかなか可愛く……、じゃなかった。まず、メリハリをきちんとつけたブラスセッションの音が輝かしく、井上も外連に富んだ指揮を見せる。第3曲フォックストロットで増井一友によるハワイアンギターの演奏が始まると、井上道義は客席の方を振り返ってムード歌謡でよくあるような振り付けで踊って笑いを誘っていた。

場面転換の間、井上道義がマイクを手にトークを行う。「第九の前にこの曲をやるとは、なんとも……、悪趣味とかいわないでね」と語りだし、ショスタコーヴィチへの思いを語る。1990年代に井上は京都市交響楽団の音楽監督兼常任指揮者を務めていたのだが、「(当時、京響が本拠地にしていた)京都会館が響かなかった。全然ダメだった」。しかし、ショスタコーヴィチの交響曲をやると「オーケストレーションが素晴らしいので」京都会館が鳴り響いたそうで、それからショスタコーヴィチの交響曲に真剣に取り組むようになり、やはり響きが悪いことで知られる日比谷公会堂で、サンクトペテルブルク交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、広島交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、千葉県少年少女オーケストラを振り分けたショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏会を行うことになる。
「ショスタコーヴィチは、暗い曲も書いていますが、全て本音を書いています。よく誤解されますが、社会主義におもねったとか、そういうことはありません」と井上は断言した。


ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」。弦楽の配置は独特であり、舞台下手手前から時計回りに、第1ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、第2ヴァイオリンである。トランペットはヴィオラの後方に配される。
今日のコンサートマスターは客演の須山暢大(すやま・のぶひろ)。フォアシュピーラーに泉原隆志。

独唱者は、菅英三子(すが・えみこ。ソプラノ)、林美智子(メゾソプラノ)、笛田博明(ふえだ・ひろあき。テノール)、ジョン・ハオ(バス)。合唱は京響コーラス。

第4楽章に焦点を当てた演奏で、それまでの3つの楽章のスケールはおそらく意図的に小さく抑えられている。弦楽器などはピリオドを意識した音を出しているが、テンポ自体は速くはなく、中庸を行く演奏である。
京響は第2楽章の弦の音が洗練度不足のきらいがあり、今日はホルンにもミスがあったがそれ以外は堅調。
第4楽章では井上はテンポを大きく揺らす。なお、合唱が立ち上がるところでホール内の照明が増えるという演出があったが逆効果だったようにも思う。
合唱のラスト付近で井上は音を思いっきり伸ばす。一音一音を引き延ばすような歌わせ方であり、かなり個性的である。そのため、全編を通すと端正な演奏だったにも関わらず、「変な第九だったな」という印象が強くなった。とはいえ京響コーラスの出来も素晴らしく、第九の魅力を堪能できる演奏であった。

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