コンサートの記(338) 尾高忠明指揮大阪フィルハーモニー交響楽団 「第9シンフォニーの夕べ」2017
私が初めて第九の実演に接したのは1992年の12月、千葉市の亥鼻という場所にある千葉県文化会館においてだった。その時の指揮者が尾高忠明である。演奏は読売日本交響楽団。
それ以来、丁度、四半世紀ぶりとなる尾高指揮の第九である。
今日のコンサートマスターは、田野倉雅秋。独唱者は、森麻季(ソプラノ)、小川明子(アルト)、福井敬(テノール)、須藤慎吾(バリトン)。森麻季は裾を大きく引きずるグリーンのやたらと派手なドレスで登場。紅白の小林幸子みたいである。合唱は大阪フィルハーモニー合唱団。
尾高はノンタクトで指揮。テンポ設定はやや速めであるが、弦楽器がたまにノンビブラートの音を出す以外は完全なモダンスタイルによる演奏である。細部を丁寧に積み上げて全体を作り上げるという、尾高らしい堅固な構築が際立つ。
第1楽章は厳しい表情のまま展開され、やがて阿鼻叫喚の地獄絵図となる。ベートーヴェンの苦悩を前面に出した解釈だ。
第2楽章もアポロ芸術的な演奏となるが、ホルンのソロが絶不調。よちよち歩きが続き、結局1フレーズもまともに吹けないまま終わってしまった。思わず苦笑しそうになってしまう。
第3楽章も美しい演奏だったが、平均点は高いものの傑出した部分もないように思われる。大フィルの演奏は立体感が見事だった。
第4楽章。大阪フィルハーモニー合唱団は、やや粗めながら力強い合唱を披露する。女声独唱者は声の通りが今ひとつ。特に森麻季は声の美しさは確認出来たものの、フェスティバルホールのような大きな空間で歌うには声量が足りないように思われた。大フィルの演奏が力強く、音像が巨大だったということもあるのかも知れないが。
井上道義、尾高忠明という桐朋学園時代からの盟友が指揮する第九を2日連続で聴ける機会は、東京ならともかく関西ではそうないが、今年は味わうことが出来た。尾高指揮の第九の方が一般的なベートーヴェン像により近いように感じたが、共に個性的で面白い第九演奏だったように思う。また京響の煌びやかな音色と大フィルの渋い響きの対比が楽しめたのも大きい。
第九の演奏が終了し大フィルの楽団員が退場した後、照明が暗くなり、福島章恭の指揮の大阪フィルハーモニー合唱団による「蛍の光」が歌われる。福島章恭は緑に光るペンライトで指揮。大阪フィルハーモニー合唱団のメンバーも同様のペンライトを手に歌う。ステージの上に緑の明かりが蛍のように浮かび、印象的な合唱となった。
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