コンサートの記(340) 「渾身!!ラフマニノフ 長富彩 ピアノ・リサイタル vol.2」
今回もザ・シンフォニーホールの1階席のみの利用で、2階席は開放していない(録画スタッフがカメラを構えているのが確認出来る)が、入りは上々である。
曲目は、絵画的練習曲「音の絵」Op.33-1よりヘ短調とOp.39-1ハ短調、6つの歌より「ひなぎく」、楽興の時Op.16、パガニーニの主題による狂詩曲より第18変奏、幻想的小品集より第1曲「エレジー」、第2曲「鐘」、ピアノ・ソナタ第2番。
長富は、上が金色のラメ、下が深紅というドレスで登場。弾き始める前にちょっと神経質な仕草を見せる。
演奏であるが、音を一切流すことなく、一音一音を丁寧に積み上げて堅固なフォルムを作り上げていく。この方法はラフマニノフだけに極めて有効である。また音楽を横の流れでとらえるのではなく、音像の縦の線を編みだし続けているという印象を受けた。流れの人、例えば指揮者でいうと広上淳一とは真逆の音楽性である。
こうしたことをどこまで自覚的にやっているのか気になったので、終演後のサイン会の時にそれとなく探りを入れてみたのだが、「この人はどうやら自分のピアノスタイルをよく把握していないようだ」ということがわかったため、自覚していなくても才能で出来てしまうということであるらしい。YouTubeやサイン会での話し方を見ると、長富彩はけっこうな不思議ちゃんである。同い年の萩原麻未もインタビューで「何言ってんのかわからない」ことがあるため、女性ピアニストとして珍しいことではないのかも知れない。
パガニーニの主題による狂詩曲より18変奏でのリリシズムの表出も上手いし、有名曲となった「鐘」(ラフマニノフの生前は有名で、20世紀最高のピアニストでもあったラフマニノフのリサイタルでは、聴衆がアンコールで「鐘」を弾くまで帰ろうとしなかったらしい)の哀感の描き方も巧みである。
ラフマニノフというと甘美だの映画音楽的だのと言われるが、彼の音楽の本質は「苦悩の果てでギリギリ踏みとどまっている」もののように思える。
アンコールは、リムスキー=コルサコフの「くまんばちの飛行」(ラフマニノフ編曲)。高度なメカニックを味わうことが出来た。
| 固定リンク | 0
コメント