コンサートの記(342) ダーヴィト・アフカム指揮 NHK交響楽団神戸公演2018
1983年、ドイツ・フライブルク生まれのアフカム。インド系の父親とドイツ人の母親を持つ。フライブルク音楽大学とワイマール・フランツ・リスト音楽大学に学ぶ。ベルナルト・ハイティンクによる「若い才能におくる基金」の最初の受賞者に認定され、ハイティンクのアシスタントに抜擢されている。2008年にドナティラ・フリック指揮者コンクールに優勝。2010年のネスレ&ザルツブルク音楽祭ヤング・コンダクターズ・アワード第1位も獲得している。グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラ・アシスタントコンダクターを務めていた2010年には同オーケストラを指揮してCDデビューも果たしている。このCDを私は聴いていて、年齢を考えれば優れた出来だと感じた。
曲目は、リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番(ピアノ独奏:小山実稚恵)、リヒャルト・シュトラウスの歌劇「ばらの騎士」組曲、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」
今日のNHK交響楽団のコンサートマスターは、マロこと篠崎史紀。私のN響学生定期会員時代からいる奏者はマロの他に、首席オーボエ奏者の茂木大輔、第2ヴァイオリン首席の大林修子、チェロの藤森大統領こと藤森亮一など数えるほどしかいない。藤森亮一夫人である向山佳絵子も一時、N響首席チェロ奏者に就いていたのだが現在は退団したようである。その他の有名奏者としては、私と同い年の池田昭子(オーボエ&イングリッシュホルン、元京都市交響楽団の菊本和昭(首席トランペット)、神田寛明(首席フルート)らがいる。
神戸文化ホールは、東京・渋谷のNHKホールと同じ1973年の竣工。同時期の建築だけに内部がよく似ている。築40年が過ぎているため、神戸市はすでに2025年を目処に、廃館と機能の三宮移転を決めている。
神戸文化ホールに入るのは初めてだが、直接音は比較的良く聞こえる一方で残響はほぼなし。ということで音が生まれる端から消えていくような印象を受ける。そして困ったことに席が小さめで肩をすぼめて座る必要がある、更に客席前が狭く、移動に難儀する。ということで余程のことがない限り、もう聴きに行くことはないと思う。
さて、アフカム指揮のN響であるが、驚嘆すべき水準の合奏を聴かせる。世代交代が進み、更に首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィの手腕故か、音の威力が増し、今日の出来ならロンドン交響楽団に勝るとも劣らない(比較対象が微妙っちゃ微妙だが)レベルに達している。
1曲目の交響詩「ドン・ファン」では煌めくような快演を聴かせたアフカムとN響。ステージの光の加減もあって、一服の金屏風を眺めているような趣である。
モーツァルトのピアノ協奏曲第20番。アフカムとN響はピリオドによる伴奏を展開するが、残響のないホールであるため、場面によっては弦がスカスカに聞こえる。
ソリストの小山実稚恵は、純度の高いピアノを聴かせる。純度が高いためモーツァルトの愛らしさは後退してしまった嫌いがある。短調の曲だからそれでも良いのかも知れないが、何もかも上手くいくというわけにはいかないようだ。
アンコールとして小山はショパンのマズルカ作品67-4を弾く。ショパンの方が小山の個性にずっと合っているように感じた。
彼女の著書である『点と魂と スイートスポットを探して』は出てすぐに読んだが、いかにも音楽ばかりやって来た女性が書いたという感じの本であり、人に薦めるほどのものではないように思う。
リヒャルト・シュトラウスの「ばらの騎士」組曲、ラヴェルの「ラ・ヴァルス」も立体的で充実した演奏。特に「ラ・ヴァルス」は音運びが上手い。
アフカム、将来が楽しみな指揮者である。
| 固定リンク | 0
コメント