コンサートの記(356) 小山実稚恵&広上淳一指揮京都市交響楽団「ピアノ3大協奏曲の夕べ」2005
2005年11月3日 京都コンサートホールにて
京都コンサートホールまで、京都新聞社が主催する「トマト倶楽部コンサート」を聴きに行く。
今回は、ピアニスト・小山実稚恵のデビュー20周年記念演奏会を兼ねる。
トマト倶楽部コンサートは、安い値段で良質の演奏を聴くことが出来るのが特徴。しかし、その分、コンサート初心者が多く、マナーを知らない人も多いので、冷や冷やもする。今日もビニール袋をくしゃくしゃとさせる音が頻繁に聞こえたり、演奏中にドカドカと足音を鳴らして退場するおばちゃんなどがいて、集中力が殺がれる。
プログラムは、ピアノ協奏曲3曲という、豪華というか豪勢というか、とにかくボリュームある内容だ。
「ピアノ3大協奏曲の夕べ」と題されているが、ショパンのピアノ協奏曲第1番、チャイコフスキーの同第1番は当然として、一般的には知名度の低いスクリャービンのピアノ協奏曲を3大協奏曲の中に入れたのが小山らしい。
指揮は才人・広上淳一。広上の演奏を生で聴くのは8年ぶりである。
ショパンのピアノ協奏曲第1番は、ショパン自身が書いたオーケストラ伴奏の鳴りが悪いことで知られる。20世紀半ばまでは、指揮者がショパンのスコアに手を加えた独自の楽譜で演奏するのが常であったが、最近はそういうことをする指揮者は減った。
3階席、左のかなり後ろの方で聴いたのだが、視覚的にも聴覚的にも難のある席。ステージの左半分は見えないし、オーケストラの音も直接音が届き難い。ただでさえ響きにくいショパンの伴奏なのに、更にハンデがある。
ただ、ピアノは驚くほど良く聞こえる。というわけで、目を閉じて聴くと、ピアノとオケが10メートルぐらい離れて演奏しているように感じてしまう。
小山のピアノは表情が豊かで、強弱の付け方も理想的。ミスタッチがあり、完璧ではなかったが、私は完璧さなど求めていないので満足。
スクリャービンのピアノ協奏曲では一転して、オケが良く鳴る。広上は指揮姿がユニークなことで知られるが、今日もメトロノームの針や自動車のワイパーを連想させる体の揺らし方など、見ていて面白い。ただ、指揮棒や腕のちょっとした動きでオーケストラを自在に操っているのがわかる。音色が魔術でもかけられたかのように、めくるめく変化を遂げる。広上を高く評価する人が多いのも納得がいく。
スクリャービンを得意とする小山のピアノが悪いはずがない。
ショパンとスクリャービンを演奏するときはエメラルドグリーンのドレスを着ていた小山だが、ラストのチャイコフスキーではローズピンクのドレスで登場し、ハレの舞台を演出してみせる。女性奏者は得である。
男性奏者はこうはいかない。着替えても嫌みに見えるだけだ。色つきの衣装に着替えでもしたら、漫才師の登場の見えてしまう。
チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番。広上はオケを豪快に鳴らし(といっても日本のオケだけに限界はあるのだが)、小山は女性ピアニストとは思えないほどの強靱なタッチで立ち向かう。京都市交響楽団は特に金管が優秀で、音の輝きは最上の部類に入るだろう。
一音一音がジャンプしているような活きの良い小山のピアノと、それを受け止めて、更に個性豊かにして返す広上の才能が止揚を生む。
秀演であった。
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