コンサートの記(375) 下野竜也指揮 京都市交響楽団第505回定期演奏会
2007年10月12日 京都コンサートホールにて
午後7時より、京都コンサートホールで、京都市交響楽団(京響)の第505回定期演奏会に接する。今日の指揮者は下野竜也。ソリストとして、若手ピアニストの小菅優(こすげ・ゆう)が登場する。
曲目は、J・S・バッハ作曲、レスピーギ編曲の「パッカサリアとフーガハ短調」、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番、フランクの交響曲ニ短調。
前にも何度か書いたが、下野竜也は1969年生まれの若手指揮者。鹿児島に生まれ、県下有数の進学校である甲南高校を卒業。ここで普通なら大都市にある音大を目指すところだが、下野は地元の鹿児島大学教育学部音楽科に入っている。鹿児島大学の音楽科にも指揮専攻はあるが、有名指揮者が教えているわけではない。あるいは下野はこの時点ではプロの音楽家を目指していなかったのかも知れない。鹿児島大学卒業後、桐朋学園大学音楽学部付属指揮教室で本格的に指揮の勉強を始め、イタリア・シエナのキジアーナ音楽院でチョン・ミョンフンに師事している。ちなみに、先日、名古屋フィルを指揮してシベリウスの名演を聴かせたハンヌ・リントゥもキジアーナ音楽院でチョン・ミョンフンに師事しており、二人は同門ということになる。
大阪フィルハーモニー交響楽団(大フィル)の指揮研究員となり、1999年に大フィルを指揮してデビュー。2001年のブザンソン国際指揮者コンクールに優勝して脚光を浴びる。昨年、読売日本交響楽団の正指揮者に就任している。
西郷さんのような体格で、ニコニコと笑みを浮かべながら棒を振る様は、クマのぬいぐるみが指揮しているようで可愛らしいが、実力は確かである。
指揮者はみな、自分自身の音色を持っているが、下野の音は若手にしては渋め。「パッカサリアとフーガハ短調」は、弦の渋い音色と、管の華やかな色彩をともに生かした演奏だった。
ポディウム席で聴いていたのだが、パイプオルガンを使う曲だったので、ポディウム席の真後ろにあるパイプオルガンの低音が床を小刻みに揺らす。音楽とは振動であり、振動で音を感じるというのも私自身は好きである。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。ソリストの小菅優は1983年生まれ。9歳の時に渡欧し、以後、ずっとヨーロッパで音楽教育を受け、活動を続けている。日本人の若手女流ピアニスト(といってもヨーロッパでの生活の方が長いので、正真正銘の日本人ではないのかも知れないが)の中で最も脚光を浴びている一人である。
小菅は立体的な音を奏でる。一音一音が美しく、また音に風景が宿っているような、想像を喚起する力がある。
下野の指揮も小菅に合わせて非常に爽やか。ベートーヴェンではなく、モーツァルトのピアノ協奏曲を聴いているのではないか、と錯覚するほどであった。
渋い第2楽章では、小菅、下野ともに落ち着いた音色で演奏。曲想の描き分けが鮮やかだ。
ソリストにも様々なタイプがあって、完全に自分の世界に入ってしまう人もいるが、小菅はそれとは正反対。下野の指揮棒を常に意識し、オーケストラだけが演奏する場面では、京響の団員とアイコンタクトを図っていた。オーケストラにも好まれるタイプのピアニストである。
アンコールは2曲。いずれもショパンの「24の前奏曲」より第3番と第7番。なお、京都コンサートホールの、今日のアンコール曲目を知らせるホワイトボードには、なぜか「ショパン 前奏曲第3番、第5番」と書かれていた。
ちなみにショパンの前奏曲第7番は、世間では太田胃散のCM曲として認知されているあの曲である。
小菅優が出演する割には客の入りは少なかったが、若い人が多く聴きに来ており、休憩時間や終演後に、「(小菅優と)同世代だし応援したいよね」という話がそこかしこで聞こえたのが心強い。
フランクの交響曲ニ短調。尻上がりの演奏であった。京響は、金管が極めて優秀。輝かしい音色で鳴り渡る。下野の指揮は全般的には良かったが、切迫感が欲しい場面での迫力が今一つ。下野も、コンサートマスターのグレブ・ニキティンも顔を真っ赤にしての力演なのだが、その割には出る音に緊張感が足りない。
一方、優雅な曲想のところでは、丁寧な演奏で魅せる。どちらかというと淡彩の演奏で、もっと濃い音を出しても良いと思うのだが、あっさりしている方が日本人には合っているのかも知れない。
第2楽章演奏終了後、誰かの時計のアラームが鳴り始める。しかも長い間止まない。下野はアラーム音が消えるのを待っている。ようやくアラーム音が消え、下野はニコリと微笑んで指揮棒を振り始める。第3楽章(最終楽章)は金管の大活躍もあって素晴らしい演奏となった。
指揮者としてのポストは東京で得た下野だが、大阪フィルとの繋がりも強く、来年4月から京響の常任指揮者となる広上淳一に師事したこともあるようなので、今後も関西で指揮活動を行っていくことだろう。というより絶対に行って欲しい。
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