観劇感想精選(247) 演劇ユニット昼ノ月 「顔を見ないと忘れる」
2008年6月9日 下鴨のアトリエ劇研にて観劇
午後7時30分より、アトリエ劇研で演劇ユニット昼ノ月の公演「顔を見ないと忘れる」を観る。作・演出:鈴江俊郎。出演:二口大学、押谷裕子。
刑務所の面会室が舞台である。夫は窃盗の罪で4度目の服役中。妻が面会にやってくる。まず夫役の二口大学がスメタナの「モルダウ」の主旋律をリコーダーで吹いて劇が始まる。そして、妻(押谷裕子)による刑務所の面会室に向かうまでの谷川俊太郎の詩のようなモノローグに続き、夫婦が面会室で出会う場面となる。
刑務所に入った夫と、夫が窃盗の常習犯なのに別れられない妻の微妙な心理関係が描かれるが、突如として夫婦漫才風のやりとりが挿入されるのが面白い。
日本の刑務所の悲惨な実態と、夫が犯罪を繰り返すようになるに至るまでの少年時代からの記憶(永山則夫の人生がモチーフになっていると思われる。というより、この手の作品をやるのに永山則夫を意識しない作家はまずいないだろう。実際、鈴江俊郎は無料パンフレットに、網走番外地で生まれ育った小説家の作品に憧れて網走番外地に行ったことがあるといったようなことを書いているが、網走番外地で生まれ育った小説家というのはいうまでもなく永山則夫である。網走番外地は高倉健主演の映画で網走刑務所のこととしてよく知られるようになったが、網走市内の番外地にあるのは網走刑務所だけではない。網走刑務所があるのは網走市字三眺の番外地であり、その他の番外地には普通の家もある。永山則夫が大人になってから自分の出生地が網走番外地(網走市字呼人番外地。網走刑務所からは遠く離れている)であることを知ってショックを受け、またそのことを会社の同僚に知られて、「刑務所生まれ」などとからかわれたことはよく知られている)が語られるが、過度に社会的になることは避けられている。
ストーリー以外のことを書くと、笑いの部分が思いっ切り関西的であったのが興味深かった。投げキッスから何度も身をかわすというようなギャグは東京人なら、まずやらないはずだ。
社会的なテーマを扱いながら、適度な「かるみ」を入れた、良質の作品であったと思う。
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