コンサートの記(378) ウィーン少年合唱団来日公演2018京都
2018年4月29日 京都コンサートホールにて
午後2時からウィーン少年合唱団の来日公演を聴く。
アルトゥーロ・トスカニーニによる「天使の歌声」という賛辞でも知られるウィーン少年合唱団。ハイドン、シューベルト、ブルックナーが在籍したという長い歴史を持ち、現在も10歳から14歳の約100人のメンバーから成る。現在は作曲家名に由来する、ハイドン、モーツァルト、シューベルト、ブルックナーという4つのグループに分かれて活動。今回はハイドン組が来日した。カペルマイスターはジミー・チャン(指揮&ピアノほか)。
ピアノが弾き振りの時の形でセットされており、合唱団のメンバーがピアノを挟んで左右に陣取ることになる。
曲目は、第1部が宗教音楽集として、「グレゴリオ聖歌:あなたに向けてわが魂を」、ハスラーの「主に向かいて歌え」、クープランの「歓喜せよ」、カルダーラの「我は生ける糧なり」、ハイドンの「くるおしく浅はかな心配は」、モーツァルトの「汝により守られ」、メンデルスゾーンの「主をほめたたえよ」、バッハ=グノーの「アヴェ・マリア」(グノー生誕200年記念)、レナード・バーンスタインの「チチェスター詩編」より“主は私の羊飼い”(バーンスタイン生誕100年記念)、ディストラーの「我らに平安を与えたまえ」、ホーキンスの映画「天使にラブソングを2」より“オー・ハッピー・デイ”、第2部が世界各国の音楽というテーマで、ヨハン・シュトラウスⅡ世の「千夜一夜物語」、ヴェルディの歌劇「マクベス」より“何をしていたの? 教えて”、ウエルナーの「野ばら」、フンパーディンクの歌劇「ヘンゼルとグレーテル」より“私は小さな眠りの精”と“夕べの祈り”、ウズベキスタン民謡の「水の女神」、岡野貞一の「ふるさと」、中国民謡「ひばり」、ロブレスの「コンドルは飛んでいく」、南アフリカ民謡の「ホーヤ・ホー」、ホーナーの映画「タイタニック」より“マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン”、ヨーゼフ・シュトラウスの「水平のポルカ」、ヨハン・シュトラウスⅡ世の「美しく青きドナウ」
第1曲であるグレゴリオ聖歌の「あなたに向けてわが魂を」では、メンバー達が客席1階中央通路横の扉から歌いながら登場してステージに上がるという演出がある。拍手が起こっていたが、この場合するのが適当なのかしないことがいいのか判断出来ない。拍手が歌声をかき消してしまう。よくわからないので取りあえずしないでおいた。想像を上回る美声である。今日は3階席レフトサイドの一番せり出した席で聴いたのだが残響も長く、教会の中で聴いているかのような気分になれた。
カペルマイスターのジミー・チャンは音型を描くタイプの指揮。今は拍を刻む指揮は少なくなりつつある。このジミー・チャン、ピアノがとにかく上手く、相当な実力者であることが窺える。少年達を教導するのだから、指揮者として優れているのみならず、いわゆる人格者である必要もあるのだろう。指揮者で且つ人格者という人材は余りいないと思われる。多分、ウィーン少年合唱団のオーディションに受かるよりも合唱団のカペルマイスターになる方が難しいのではないだろうか。
チャンはピアノ他にチェロや打楽器も演奏する。
少年達なので、歌詞の内容把握が十全でなかったり音程が不安定だったりする(そもそも声楽家が一人前扱いされるのは40を過ぎてからである。オペラ歌手の場合、完全に歌詞の中身を把握する頃には声がピークを過ぎてしまっているという悲劇が知られる)のだが、それも含めてのウィーン少年合唱団の味である。
バーンスタインの「チチェスター詩編」より“主は私の羊飼い”では変拍子の連続がある上に旋律も半音ずつ動くようなもので、今日のプログラムの中では一番の高難度だったと思うが、なかなか聴かせてくれる。
指揮のジミー・チャンや少年合唱団のメンバーが、虎の巻を片手に日本語で曲目紹介を行う。ハイドン組には日本人の少年が二人在籍しており、そのうちの一人も楽曲紹介を日本語で行う(当たり前だが日本語が際立って上手い)。多分、オーストリアの人がテキストを日本語訳したのだと思われるが、「国々」を「こくこく」と読み違えたところもある。意味がわかったからいいか。
声が魅力のウィーン少年合唱団。ただ近い将来、この声が失われることになると思うと切なくなったりもする。それだけに今のこの一秒一秒に価値があるとも思える。
アンコールは、久石譲の「となりのトトロ」とヨハン・シュトラウスⅡ世の「トリッチ・トラッチ・ポルカ」。団員達は楽しそうに伸び伸びと歌っていた。
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