コンサートの記(387) 小林沙羅&西村悟デュオ・リサイタル~「母の日」に贈る歌の花束~
2018年5月13日 京都コンサートホールにて
午後2時から、京都コンサートホールで、小林沙羅&西村悟デュオ・リサイタル~「母の日」に贈る歌の花束~を聴く。若手ソプラノである小林沙羅(さら)とテノールの西村悟(さとし)の共演。ピアノ伴奏はベテランの河原忠之が務める。
曲目は事前発表と多少異同があり、第1部が、ヘンデルの歌劇「セルセ」より“オンブラマイフ”(西村悟歌唱)、伝カッチーニの「アヴェ・マリア」(小林沙羅歌唱)、トスティの「薔薇」(小林沙羅歌唱)、トスティの「理想の人」(西村悟歌唱)、ドニゼッティの「一粒の涙」(西村悟歌唱)、ヴェルディの歌劇「椿姫」より“乾杯の歌”(デュオ)、「椿姫」より“不思議だわ~花から花へ”(小林沙羅歌唱)、「椿姫」より“燃える心を”(西村悟歌唱)、「椿姫」より“パリを離れて”(デュオ)。第2部が、レハールの喜歌劇「微笑みの国」より“気味は我が心の全て”(西村悟歌唱)、レハールの喜歌劇「ジュディタ」より“熱き口づけ”(小林沙羅歌唱)、小林沙羅作詞・作曲の「子守歌」(本人歌唱)、ドヴォルザークの「我が母の教え給いし歌」(小林沙羅歌唱)、武満徹の「小さな空」(西村悟歌唱)、プッチーニの歌劇「マノン・レスコー」より第3幕への間奏曲(河原忠之によるピアノソロ版)、プッチーニの歌劇「ラ・ボエーム」よりロドルフォとミミの出会いから第1幕ラストまで。
注目を集める若手ソプラノの小林沙羅。「題名のない音楽会」への出演でもお馴染みである。東京藝術大学卒業後、同大学院修士課程修了。2010年から2015年までウィーンとローマに留学し、研修と歌唱活動を行う。2017年に出光音楽賞受賞。野田秀樹が演出した井上道義指揮「フィガロの結婚」日本全国ツアーののスザンナ(すざ女)役で知名度を上げ、「カルメン」のミカエラ役で藤原歌劇団にデビュー。三枝成彰作曲の「狂おしき真夏の一日」への出演も話題になった。藤原歌劇団団員、大阪芸術大学准教授。今月の大阪フィルハーモニー交響楽団定期演奏会でマーラーの交響曲第4番の独唱を務めるほか、夏には佐渡裕指揮のオペラ、ウェーバーの「魔弾の射手」への出演も決まっている。
テノールの西村悟は、日本大学芸術学部音楽学部卒業後、東京藝術大学大学院オペラ科を修了。第36回イタリア声楽コンコルソ・ミラノ部門にて大賞(1位)を受賞。2010年にイタリア・ヴェローナに留学し、翌11年にリッカルド・ザンドナーイ国際声楽コンクールで2位入賞、合わせて審査委員長特別賞を受賞。田尾80回日本音楽コンクールでは第1位を獲得し、聴衆賞も受賞している。大野和士指揮バルセロナ交響楽団によるメンデルスゾーンの「讃歌」のソリストとしてヨーロッパデビュー。新国立劇場オペラ「夜叉ヶ池」、藤原歌劇団の「ラ・トラヴィアータ」、「蝶々夫人」、「仮面舞踏会」、「ルチア」などに出演。平成25年度五島記念文化賞オペラ部門オペラ新人賞や第23回出光音楽賞を受賞。藤原歌劇団団員。
ヘンデルの歌劇「セルセ」より“オンブラマイフ”。現在ではソプラノによって歌われることが多いが、元々は男性の王様のナンバーであり、カウンターテナーやソプラニスタが歌う曲である。全身黒の衣装で登場した西村は声に張りがあり、安定感も抜群だ。
伝カッチーニの「アヴェ・マリア」。水色のドレス姿で現れた小林の歌唱は入りの声量がやや足りず、悪い意味でアマチュア的な歌唱になっていた。ただ、小林はオペラのナンバーになると人が変わったかのように生き生きと歌い出す。小林沙羅として歌うよりも劇中の人物になりきって歌うのが得意という、根っからのオペラ歌手のようだ。
ヴェルディの歌劇「椿姫」より。実は小林はヴィオレッタ役をまだ演じたことはないそうである。オペラにはソリストに何かあったときのためにカバーキャストやアンダースタディーという制度があり、そこからスターの座を掴む者もいるのだが、東日本大震災のあった2011年に、小林は「椿姫」で森麻季演じるヴィオレッタのカバーキャストを務めたことがあったという。東北で震災があった時は、兵庫県での「椿姫」公演があったそうだが、森麻季はその時、東京におり、ひょっとしたら森麻季が兵庫県に来られないかも知れないというので、小林も「私がヴィオレッタやるの?」と焦ったそうである。幸か不幸か森麻季は無事兵庫入りして小林が舞台に上がることはなかったそうだ。
二人ともチャーミングな歌唱を聴かせる。ヴィオレッタの薄幸な雰囲気を小林は上手く出していたように思う。
第2部。西村はグレーのタキシードに着替え、小林は前半が深紅の、後半が第1部と同じ水色のドレスで登場する。小林はレハールの喜歌劇「ジュディッタ」より“熱き口づけ”でステージ狭しとばかりに華麗に踊る。バレエの経験があるだけに踊るのがかなり好きなようである。小林は更にステージから降りて、母の日ということで手にしていたカーネーションを女性客に配って回る。西村は小林について、「良いとこ一杯ある。歌えて踊れて顔良くて可愛くて」と挙げていく。
ドヴォルザークの「我が母の教え給いし歌」。小林は以前からこの曲を歌いたいと思っていたそうだが、ステージで披露するのは今日が初めてとなるそうである。母の日に合わせた選曲のようだが、なかなか味わい深い歌い方であった。
武満徹の「小さな空」。西村悟が歌うのだが、この曲を男性歌唱で聴くのは初めてかも知れない。素朴な歌詞とメロディーによる曲であるが、やはり武満の楽曲だけに日本人の琴線に触れるものがあるように思う。西村の歌唱も堂に入っている。
河原忠之のピアノソロによる「マノン・レスコー」より第3幕への間奏曲(確かな構成力を感じさせる演奏であった)を経て、プッチーニの歌劇「ラ・ボエーム」第1幕より。当初は、「冷たき手を」「私の名はミミ」「おお、麗しの乙女よ」の3曲を歌う予定だったのだが、リハーサルで興が乗ってしまったそうで、ロドルフォとミミの出会いから第1幕の終わりまでを演技付きで歌うことに変えたという。セットは椅子一脚だけだが、かなりしっかりした演技による歌唱であり、オペラの一場面をまるごと楽しめるという趣向になった。
小林は高音の伸びにやや難があったが、心理描写やドラマ性に富んだ歌唱を聴かせ、西村は豊かな声量と確かな技術、細やかな演技で魅せた。
アンコールは、レハールの喜歌劇「メリー・ウィドウ」よりワルツ(とざした唇に)。日本語詞でワルツを踊りながらの歌唱。楽しいデュオ・リサイタルであった。
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