コンサートの記(391) クシシュトフ・ペンデレツキ指揮 大阪センチュリー交響楽団第132回定期演奏会
2008年6月30日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて
午後7時より、ザ・シンフォニーホールで、大阪センチュリー交響楽団の第132回定期演奏会を聴く。今日の指揮者は、現役最高の作曲家の一人であるクシシュトフ・ペンデレツキ。自作2曲とメンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」を振る。
開演20分前からプレトーク。しかし今日の担当者は異様に早口な上、マイクも性能が良くないようで、私が座った2階席後方では何を言っているのかはっきりとは聞き取れないところがあった。1階席の前の方では良く聞こえていたようで、担当者のジョークに笑い声を上げている人も多かったが、2階席はやはり聞こえない人が多いようで、1階席とは別の空気が漂っていた。
それでも、ペンデレツキが左利きでタクトも左手に持つという話は聞こえた(今日のコンサートでは全曲ノンタクトだったが)。左利きの比率はどの人種においても約十人に一人なので、左利きの指揮者も少なくないのだが、左手に棒を持たれるとオーケストラが戸惑うことが多いので、左利きでも指揮棒は右手という人がほとんどである。朝比奈隆もそうだった。
左利きで左手に指揮棒を握る有名指揮者は、パーヴォ・ベルグルンドなど、数えるほどしかいない。
先日、下野竜也指揮大阪フィルハーモニー交響楽団の演奏会でも作品が取り上げられたペンデレツキ。その繋がりなのか、先日の大阪フィルのコンサートで客演コンサートミストレスを務めた四方恭子が、今日は何と大阪センチュリー交響楽団のゲスト・コンサートミストレスに招かれている。
まずは、ペンデレツキの弦楽のための小交響曲。刻みのトゥッティの後、ヴィオラ、チェロ、ヴァイオリンの順に首席奏者がソロを奏で、やがて各楽器群が高度な技術を要する合奏を展開する。特にチェロは左手も右手も大忙しで、難曲であることがよくわかる。
切れ目なしで第2楽章に続く。第2楽章は単純な音型が繰り返されるミニマル・ミュージックのテイスト。旋律自体は硬派だが、リズミカルな曲調であり、硬質のダンス曲といった趣である。
続いて、ペンデレツキのホルン協奏曲「ヴィンターライゼ(冬の旅)」。先月5日に世界初演が行われたばかりという、ペンデレツキの新作。5日前に東京において日本初演が行われ、今日のコンサートでの演奏が関西初演となる。
ホルン独奏は、名手ラドヴァン・ヴラトコヴィチ。見るからに聴くからに高度な技術が必要な曲であるが、ヴラトコヴィチはこれをスイスイ吹いてのける。音量も豊かで音色も輝かしい。
ホルン協奏曲「ヴィンターライゼ」は、わかりやすいとは言えないが、SF映画の音楽を思わせるところもあったりして、取っつきにくい曲ではない。この曲も2つの楽章が続けて演奏される。
ヴラトコヴィチはアンコールとして、メシアンの「峡谷から星たちへ」からの1曲を演奏。これが、ホルンという楽器の可能性を極限まで追求したような曲であり、高音、怖ろしいほどの弱音など、ホルンが出しているとは思えないような音が次々に繰り出される。ヴラトコヴィチの超絶技巧に、客席から惜しみない拍手が送られる。
メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」。この曲も作曲者の指示により、4つの楽章が楽章間の小休止を挿まずに連続して演奏される。考えてみれば、今日演奏された曲は全て楽章間に小休止がない。
ペンデレツキの指揮はかなり情熱的であり、ティンパニの強打、金管の強奏も目立つ。ペンデレツキは指揮者としてはどうやら力強い音を好んでいるようである。大阪センチュリー交響楽団は中編成のオーケストラなのだが、ペンデレツキは全ての楽器を強く弾かせるため、分厚い音が出る。その一方で、全てのパートに対して均等に強い音を要求するため、浮き上がらせた方が良いはずの旋律が埋もれてしまったりと、細かいところがわかりにくくなる上に一本調子にもなる。今日CDで聴いたアクセルロッドとは正反対のアプローチである。
力強い演奏ではあったが、単調で暑苦しい「スコットランド」でもあった。作曲家としてのペンデレツキは超一流であるが、指揮者としては残念ながら一流には届かないようだ。
とはいえ、現役最高の作曲家の一人であるペンデレツキに敬意を込めた拍手が鳴り響く。特別な人物が指揮をしたコンサートであり、こうしたハレの場においては、その特別な人物と同じ空間と時間を共有したことこそが演奏内容以上に重要なのかも知れない。
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