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2018年6月 7日 (木)

コンサートの記(396) 京都フィルハーモニー室内合奏団 室内楽コンサートシリーズ Vol.66 「後期ロマン派の潮流」

2018年5月30日 京都文化博物館別館ホールにて

午後6時30分から、三条高倉の京都文化博物館別館ホール(旧日本銀行京都支店)で、京都フィルハーモニー室内合奏団 室内楽コンサートシリーズ Vol.66 「後期ロマン派の潮流」を聴く。京都フィルハーモニー室内合奏団が京都文化博物館別館ホールや京都府立府民ホールアルティで行っている室内楽のコンサート。京都フィルハーモニー室内合奏団は定期演奏会でも比較的珍しい曲目を取り上げることが多いが、室内楽コンサートでも他では聴くことの出来ない曲が並ぶ。

今日の曲目は、ツェムリンスキーの「ユモレスク」、マーラーのピアノ四重奏曲、マーラーの交響曲第5番より第4楽章アダージェット(室内楽版。Mr.Nurse編曲)、ヴォルフの「イタリアンセレナード」、ワーグナーの「ジークフリート牧歌」
今回のプログラムは、京都フィルハーモニー室内合奏団チェロ奏者の佐藤響がプロデュースしたものだそうで、トークも佐藤が中心になって務めていた。


ツェムリンスキーの「ユモレスク」。抒情交響曲や交響詩「人魚姫」が有名なツェムリンスキー。音楽教師としても活躍し、弟子であるアルマ・シントラーと恋仲になるが、実ることなく、アルマはマーラーと結婚することになる。
市川えり子(フルート)、岸さやか(オーボエ)、松田学(クラリネット)、小川慧巳(ファゴット)、御堂友美(ホルン)による演奏。「ユモレスク」というタイトルの通り、ユーモアを感じさせる曲だが、19世紀末生まれの作曲家らしいロマンティシズムも濃厚である。

さて、ツェムリンスキーの下を離れてマーラーと結婚したアルマ。芸術的才能に恵まれ、作曲をこなす才色兼備の女性であったが、自我が強く、虚言癖のある悪女としても有名でマーラーを手こずらせている。


マーラーのピアノ四重奏曲。マーラーが16歳の時に書いた作品である。この時、マーラーはウィーン楽友協会音楽院に在学中、同期生にハンス・ロットがいた。マーラーは交響曲を未完成のものも含めて11曲と歌曲を多く残したが、指揮者としての活動がメインとなったこともあり、室内楽曲や器楽曲などは若い頃に数曲書いただけである。
西脇小百合(ピアノ。客演)、中野祥世(ヴァイオリン)、松田美奈子(ヴィオラ)、佐藤響(チェロ)による演奏。
16歳で書かれたにしてはシリアスな楽曲である。陰気で沈鬱であり、マーラーの個性が表れているが、後年に書かれた彼の交響曲に聴かれるようなグロテスクな面はまだ表に出ていないようである。


マーラーの交響曲第5番より第4楽章アダージェット。ルキノ・ヴィスコンティ監督の映画「ベニスに死す」で用いられたことで有名になっている。ちなみにトーマス・マンの原作では主人公のグスタフ・アッシェンバッハは作家ということになっているが、トーマス・マン自身がマーラーをモデルにアッシェンバッハ像を作り上げており、映画ではアッシェンバッハは作曲家という設定に変えられている。
ちなみに、ワーグナーはベニスにおいて客死している。
アメリカの作曲家による編曲だそうである。西脇小百合(ピアノ)、森本真裕美(ヴァイオリン)、岩本祐果(ヴァイオリン)、松田美奈子(ヴィオラ)、佐藤響(チェロ)による演奏。
やや速めのテンポによる演奏だが、速度記号がアダージェットであるため、これが指示通りの速さであるともいえる。オーケストラがこの曲を比較的ゆっくり演奏するのは、レナード・バーンスタインがジョン・F・ケネディ追悼演奏で緩やかなテンポを採用したことが影響しているといわれている。
マーラー特有の農濃さが室内編成によって中和されたような印象を受ける。


ヴォルフの「イタリアンセレナード」。森本真裕美、中野祥世、松田美奈子、佐藤響のカルテットによる演奏。
梅毒を原因とする精神病に苦しみ、42歳の若さで亡くなったフーゴ・ヴォルフ。若い頃はやんちゃにして不真面目な学生で、ウィーン音楽院を退学になっている。熱心なワグネリアン(ワーグナー崇拝者)であり、歌曲の作曲家であったが、歌曲自体が余りお金になるジャンルではなく、収入面では恵まれなかったようである。
「イタリアン」とタイトルに付くことから分かるとおり、快活な楽曲である。歌曲の作曲家らしい伸びやかな旋律も特徴。


ワーグナーの「ジークフリート牧歌」。今日演奏される曲目の中で最も有名な楽曲である。トランペットの西谷良彦がトークを務め、ワーグナーが妻のコジマと生まれたばかりの息子のジークフリートのために書いた曲であること、コジマの誕生日の朝にワーグナー家の階段に楽士を並べて初演されたことなどが語られる。
その後、ワーグナーとコジマの関係についても話そうとしたのだが、楽団員が出てきたため、「詳しくはWikipediaなどにも書いてあります」と述べて終わりにした。
フランツ・リストの娘であるコジマは、史上初の職業指揮者でベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の初代常任指揮者としても知られるハンス・フォン・ビューローと結婚したのだが、ワーグナーがコジマを略奪。ビューローはワーグナーを尊敬していたため文句も言えず、引き下がるしかなかった。ワーグナーは作曲家としては大天才だったが、人間的にはかなり異様なところがあり、積極的に友人にはなりたくないタイプであった。そのためベニスでの最期にも不審死説や他殺説があったりする。

市川えり子(フルート)、岸さやか(オーボエ)、小川慧巳(ファゴット)、松田学(クラリネット)、伊藤咲代子(クラリネット。客演)、御堂友美(ホルン)、垣本奈緒子(ホルン。客演)、西谷良彦(トランペット)、岩本祐果(ヴァイオリン)、中野祥世(ヴァイオリン)、松田美奈子(ヴィオラ)、佐藤響(チェロ)、金澤恭典(コントラバス)による演奏。

「ジークフリート牧歌」には名盤も多いが、京フィルのメンバーもしっかりとした美しい演奏を展開。京都文化博物館別館ホールの音響も分離こそ十分ではなかったが、残響も良く、また内装が生み出す雰囲気がクラシック演奏によく合っている。


アンコールは、ワーグナーの「ローエングリン」より“婚礼の合唱(結婚行進曲)”。温かな演奏であった。

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