フィリップ・ドゥクフレ/カンパニーDCA 「新作短編集」@びわ湖ホール
2018年7月15日 びわ湖ホール中ホールにて
午後3時から、びわ湖ホール中ホールでフィリップ・ドゥクフレ/カンパニーDCAの「新作短編集」を観る。2017年5月16日にフランスのラ・クールシヴで初演されたコンテンポラリーダンス作品。
フィリップ・ドゥクフレはパリ生まれの振付家・演出家。1983年にダンス・カンパニーDCAを立ち上げ、1989年のフランス革命200年祭ではシャンゼリゼ大通りでの記念パレードである「ブルー・ブラン・グード」のために「ラ・ダンス・デ・サボ」の振付を担当。1992年のアルベールビル冬季五輪では開会式と閉会式の演出を担当している。サーカス、映像トリック、ダンスなどを交錯させる作風が特徴。1994年に初来日。以後たびたび来日している。
2006年には単独公演「Solo」の日本公演を行う。シアター・ドラマシティでの来日公演を私は観ているが、ドゥクフレの出演作に触れるのはそれ以来12年ぶりとなる(振付作はミュージカル「わたしは真悟」を観ている)。
作品は5部の短編からなる。「デュオ」、「穴」、「ヴィヴァルディ」、「進化」、「日本への旅」という構成。「進化」と「日本への旅」の間に「R(エール)」という名の短編が挿入されている。
出演は、フラビアン・ベルヌゼ、アレクサンドル・カストル、メリチェイ・チェカ・エステバン、ジュリアン・フェランティ、スザンヌ・ソレール、ヴィオレット・ヴァンティ、アリス・ロラン、フィリップ・ドゥクフレ。
テキスト:アリス・ロラン、テキスト日本語訳:副島綾、日本語台詞:征矢(そや)かおる(文学座)。
「ソロ」では男女のダンサーがピアノを弾いたり、フルートを吹いたりする。フルートを吹きながらのダンスがあるが、本当にその場で吹いているのかは不明。ただ、ピアノは実際に弾いているようである。ドゥクフレはダンサーに対する要求が高いようだ。
「穴」では、穴にはまった男性の上半身と女性の脚による表現。その後、ドゥクフレが一人で穴から登場し、穴の開いたジャケットを使ったダンスを行う。
「ヴィヴァルディ」は、無料パンフレットによると、ドゥクフレが亡き母に捧げた作品。カウンターテナーを使ったヴィヴァルディ作品が流れる中、比較的クラシカルなスタイルのダンスが行われる。
要所要所でスクリーンや紗幕に映像が投影されるのだが、「進化」では、スピードカメラを用いたLoopingという技法を用いて、ダンスの動きが連続写真のようにスクリーンに投影される。この作品ではダンサーがカホンを叩いたり、歌をうたったりする。
続く「R」では、シルク・ドゥ・ソレイユ出身のスザンヌ・ソレールが宙乗りをした上でダンスを行う。ソレールの技はアクロバティックにしてスピーディ且つエレガント。人間離れしているようなところがあり、あたかも妖精を見ているかのような感慨にとらわれる。
「日本への旅」では、日本語の台詞が出演者によって語られ、録音された征矢かおるの台詞が流れる。12年前に観た「Solo」ではドゥクフレは吹越満の録音された台詞を使っていた。こうしたスタイルが好きなようである。
和歌や俳句(「百千鳥さえずる春はものごとにあらたまれども我ぞふりゆく」詠み人知らず 「淡雪の中にたちたる三千大世界またその中に抹雪ぞ降る」良寛 「春雨や檻に寝ねたる大狸」子規 「冬草も見えぬ雪野の白鷺は己が姿に身を隠したり」道元)がスクリーン投影され、日本のテレビCMや相撲中継などがザッピングのスタイルで流れる。また山手線の駅の到着のメロディーが流れたりもする。
どことなくサイケデリックな印象も受ける小品で、扇子や緋の和傘などが用いられ、フランス人の見たエキゾチックな日本を知ることが出来る。
上演時間は90分ほどだが、中身のぎゅっと詰まった多彩な表情を移ろわせていく作品であった。
ホワイエで、ポストトークがある。出演は、フィリップ・ドゥクフレ、ジュリアン・フェランティ、アリス・ロラン。テキストも担当しているアリス・ロランはパリ第七大学で現代文学と英語を学び、執筆や翻訳も行うなど多彩な才能に恵まれている一方でストリップダンサーとしても活躍しているという人だそうだ。ドゥクフレは日本文学については詳しくないので、全て彼女に任せたそうである。
ドゥクフレは日本の伝統芸能には興味津々な一方で、日本で爛熟期に達しつつあるアイドル文化に関しては「日本のテレビでよく見るけどストレンジだね」と答えただけで気にも留めていないようであった。日本政府はクールジャパンの一つとしてアイドルを推そうとしているのだが、日本人が考えるクールジャパンと海外で受けるそれとの間にはかなりの距離があるようである。
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