コンサートの記(418) 高関健指揮京都市交響楽団第626回定期演奏会 ブリテン 「戦争レクイエム」
2018年8月26日 京都コンサートホールにて
午後2時30分から、京都コンサートホールで京都市交響楽団の第626回定期演奏を聴く。今日の指揮者は京都市交響楽団常任首席客演指揮者の高関健。
京響の8月定期は宗教曲を演奏することが恒例であり、今年もベンジャミン・ブリテンの「戦争レクイエム」が取り上げられる。
ソプラノ独唱は木下美穂子、テノール独唱:小原啓楼(おはら・けいろう)、バリトン独唱:大西宇宙(おおにし・たかおき)。京響コーラスと京都市少年合唱団も参加する。
編成が独特である。ポディウム席は合唱が入るため今日は販売されていない。ソプラノ独唱の木下美穂子もポディウムに陣取る。オーケストラは指揮台周辺の室内オーケストラのその外郭の大オーケストラに分かれる。室内オーケストラのコンサートマスターは客演の石田泰尚(いしだ・やすなお)。大オーケストラのコンサートマスターは泉原隆志。京都市少年合唱団は3階正面席の下手側に離れて置かれ、指揮は京都市少年合唱団の津幡泰子(つばた・やすこ)が行う。
午後2時から高関健によるプレトークがある。編成の関係か楽屋の位置によるのか、今日は普段と違い、舞台上手から登場した。
ブリテンの「戦争レクイエム」は1962年の初演。高関はこの時代に生まれた音楽の最高傑作と高く評価しており、匹敵する作品はメシアンのトゥーランガリラ交響曲のみであるとする。
高関は、10年前に群馬交響楽団の定期演奏会でこの曲を取り上げており、それ以前に小澤征爾指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏、初演者でもあるディートリヒ・フィッシャー=ディースカウのバリトン独唱で聴いたことがあり、強い感銘を受けたことを語る。
「戦争レクイエム」は初演の際は、室内オーケストラの指揮者と大オーケストラの指揮者、少年合唱団の指揮者の三人体制で演奏されたそうだが、室内オーケストラと大オーケストラが同時にで演奏することはほとんどないのでオーケストラの指揮者は一人でいいということになったそうだ。
イギリスの20世紀を代表する作曲家であるベンジャミン・ブリテン。ドイツ人から「作曲家のいない国」と揶揄されたイギリスが久しぶりに生んだ天才作曲家である。オペラに傑作が多いが、オーケストラ曲や声楽曲の部門でも活躍しており、日本の皇紀2600年記念として書かれたシンフォニア・ダ・レクイエム(鎮魂交響曲)などが有名。皇紀2600年の曲に鎮魂曲を書いたため、物議を醸してもいる。
同性愛者としても知られ、テノール歌手のピーター・ピアーズとパートナーであり、「戦争レクイエム」の初演のテノール歌手はピアーズが務めている。
また指揮者としても活躍しており、「戦争レクイエム」の初演の指揮者を務め、英DECCAへのレコーディングでもタクトを執っている。DECCAの「戦争レクイエム」は日本の第1回レコードアカデミー賞大賞を受賞した。
演奏時間約85分の大作。滅多に上演されない曲であるため、今日の演奏会のチケットは完売である。
高関らしい構築感のしっかりとした演奏である。京響コーラスと京都市少年合唱団のレベルも高い。
「戦争レクイエム」は、一般的な「レクイエム」のラテン語詩の間に、第一次大戦中に25歳で戦死したウィルフレッド・オーウェンの英語詩が挟まれるという構成である。オーウェンの英語詩はテノールのバリトンによって歌われ、戦場の陰惨さと犠牲となる戦士達の悲惨さが独唱と対話の形式を用いて描かれている。イギリス人作曲家らしいというべきか、大仰さは丁寧に封じられており、淡々と、だが深く続く場面が印象的である。
この曲は、サイモン・ラトル指揮バーミンガム市交響楽団ほかのCDでしか聴いたことがないが、ブリテンによる自作自演盤なども聴いてみたくなる。
レセプションで高関の話を聞く。実は、7年前にも「戦争レクイエム」を指揮する機会があったそうだが、上演の予定日は2011年3月12日。東日本大震災発生の翌日である。3月11日には、高関は「戦争レクイエム」を演奏する予定であった東京フィルハーモニー交響楽団と共に千葉県内にいたそうだが、地震で交通網は全て遮断されてしまって東京には帰れない。更に会場となるはずだった新宿文化センター大ホールも地震によって具合の悪いところが発見されたということで演奏会は中止になったという。
プレトークで話そうかとも思ったそうだが、「プレトークが終わってから本番までの間に地震があったら嫌だな」ということで終演後に話すことにしたそうだ。
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