コンサートの記(420) 下野竜也指揮 NHK交響楽団大津公演2018
2018年8月24日 びわ湖ホール大ホールにて
午後7時から、びわ湖ホール大ホールで、下野竜也指揮NHK交響楽団の大津公演を聴く。N響の近畿公演は全3回、明日は奈良市で、明後日は西宮市で公演を行う。
曲目は、ニコライ(Ⅱ世じゃないですよ)の歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ピアノ独奏:リーズ・ドゥ・ラ・サール)、ベートーヴェンの交響曲第5番。
「西郷どん」のメインテーマを演奏しているコンビだけに、ひょっとしたらアンコールで演奏されるのかなとも思ったが、それはなかった。
今日のコンサートマスターは、ウィーン・フィルのコンサートマスターとしてお馴染みだったライナー・キュッヒルが客演で入る。第2ヴァイオリン首席は大林修子、チェロ首席は大統領こと藤森亮一。それ以外の首席は私が学生定期会員だった頃にはまだいなかった人である。オーボエ首席が青山聖樹、フルート首席が甲斐雅之、トランペット首席が京都市交響楽団出身の菊本和昭。第1ヴァイオリンの横溝耕一は横溝正史の家系の方だろうか。私が学生定期会員だった頃にはまだ黒柳徹子の弟さんが在籍していた。
ステージマネージャーの徳永匡哉は、どうやら徳永二男の息子さんのようである。
オットー・ニコライの歌劇「ウィンザーの陽気な女房」序曲。「タタタタン」というリズムがモチーフになっており、それ故に選ばれたのかも知れない。下野は快活な音色をN響から引き出し、スケールの大きな演奏を展開する。たまに交通整理が行き届かない場面もあるが、総体的には優れた出来である。
リーズ・ドゥ・ラ・サールをソリストに迎えた、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番。
フランスの若手であるリーズ・ドゥ・ラ・サール。以前、京都市交響楽団の定期演奏会で聴いたことがある。その時、CDも買っている。雨傘で有名な(?)シェルブールの生まれ。4歳でピアノを始め、11歳の時にパリ国立高等音楽院に入学。2004年にニューヨークのヤング・コンサートで優勝し、以後、世界各地で活躍している。
スペルからいってサールが苗字なのだが、サールという苗字のフランス人は冠詞のように前に必ずドゥ・ラが付く。世界で初めて教室での教育を行ったジャン=バティスト・ドゥ・ラ・サール(鹿児島のラ・サール学園の由来となった人)もそうである。下野が鹿児島出身だからというのでラ・サールという人がソリストに選ばれたわけでもないだろうが。
ドゥ・ラ・サールは冒頭のピアノ独奏をかなり遅いテンポで弾き始める。オーケストラが入ると中庸のテンポになるが、第2楽章ではまたテンポを緩めてじっくりと演奏する。
打鍵が強く、和音を確実にとらえるようなピアノである。
下野指揮のN響は渋い音での伴奏を聴かせる。濃厚なロマンティシズムの表出が光っている。
ドゥ・ラ・サールは、「メルシー、サンキュー、ありがとうございます」と3カ国語でお礼を言う。アンコール演奏は、ドビュッシーの24の前奏曲から第1曲「デルフィの舞姫たち」。色彩感豊かなピアノである。
ベートーヴェンの交響曲第5番。下野は指揮棒を振り下ろしてから止め、そこでオーケストラが運命動機を開始、フェルマータの音で下野は指揮棒を右に払う。これによってフェルマータを思い切り伸ばすという指揮法である。
ピリオド・アプローチを採用しており、弦楽はビブラートをかなり抑えていたが編成は大きいのでピリオド的には聞こえない。ただこれによって細部まで音が聞き取れるようになり、第4楽章では大いにプラスに作用する。
ベーレンライター版の楽譜を使用。ベーレンライター版は第4楽章が旧ブライトコプフ版とは大きく異なるが、掛け合いの場所の音型を、「タッター、ジャジャジャジャン、タッター、ジャジャジャジャン」ではなく、「タッター、タッター、タッター、タッター」と同音でのやり取りを採用し、ピッコロも大いに活躍。
この曲でも整理が上手くいっていない場面があったが、全体的には密度の濃い優れた演奏である。日本人指揮者の日本のオーケストラによるベートーヴェンとしては相当なハイクラスと見ていいだろう。
基本的にN響は日本人指揮者の場合はベートーヴェンがきちんと振れる人でないと評価しない。下野がN響から気に入られているのもベートーヴェンが良いからだろう。
アンコール演奏はベートーヴェンの歌劇「フィデリオ」より行進曲。朗らかな演奏であった。
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