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2018年9月14日 (金)

コンサートの記(424) オムロン・パイプオルガンコンサートシリーズ vol.62「オルガニスト・エトワール」 大木麻理

2018年9月8日 京都コンサートホールにて

午後2時から京都コンサートホールで、オムロン・パイプオルガンコンサートシリーズvol.62「オルガニスト・エトワール」を聴く。出演は、ミューザ川崎コンサートホールのオルガニストである大木麻理。

年2、3回のペースで行われているオムロン・パイプオルガンコンサートシリーズであるが、これまで先約があったりで参加出来ず、ようやくの初参戦となる。チケット料金1000円均一、全席自由ということもあり、人気のオムロン・パイプオルガンシリーズ。今回の奏者である大木麻理は、静岡市出身で、東京藝術大学と同大学院修士課程を修了、第34回日本オルガニスト協会新人演奏会や芸大モーニングコンサートのソリストに選ばれ、尾高忠明指揮芸大フィルハーモニーと協演している。オルガンの他にチェンバロも学んでいるようだ。芸大卒業後後、ドイツのリューベック国立音楽大学とデルモント音楽大学に留学し、国家演奏家資格を満場一致で取得している。第3回ブクステフーデ国際オルガンコンクールで優勝した他、マインツ国際オルガンコンクール第2位、第65回プラハの春国際音楽コンクールオルガン部門3位という入賞歴がある。2016年にミューザ川崎シンフォニーホールの企画オーディションで採用を勝ち取り、今年の4月より同ホールのオルガニストとなっている。
その他に、神戸女学院大学非常勤講師、彩の国さいたま芸術劇場「みんなのオルガン」講師、日本福音ルーテル市ヶ谷教会オルガニストなども務める。

今回は、大木の発案により、和太鼓との共演となる。和太鼓奏者は、大多和正樹。大多和は、1999年に千葉県文化使節団員としてアメリカ公演を行い、2006年と2007年にルーマニアのシビウ国際舞台芸術祭に出演した経験がある他、三宅裕司主宰のS.E.T公演にも参加している。2005年に千葉市芸術文化新人賞を受賞。

大木と大多和は、昨年の東京オペラシティコンサートホールで共演しており、その時に大木が大多和とのコラボレーションを申し出たということである。

曲目は、ブクステフーデの前奏曲ト短調、J・S・バッハの「トッカータとフーガ」ニ短調(大多和との共演)、同じくバッハの「イタリア協奏曲」第1楽章(クロンプ編曲)と無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番よりシャコンヌ(ラントマン編曲)、ボヴェの「東京音頭」による幻想曲(大多和との共演)、松永倫士(まつなが・ともひろ)のモーツァルトの主題によるパラフレーズ、ラヴェルの「ボレロ」(ルードヴィッヒ編曲)。

今日は和太鼓との共演ということで、ステージ上にリモート装置を置いての演奏である。譜めくりやストップとペダルの操作を行うアシスタントは池田伊津美(いけだ・いづみ)が務める。
ステージ上のリモート装置で弾いていると、たまに「本物のパイプオルガンがあるのに、電子オルガンで弾いてるの?」と聞いてくる人がたまにいるそうだが、「ちゃんとパイプオルガンで弾いていますので、安心して下さい」と述べた。

まず、ブクステフーデの前奏曲ト短調。ブクステフーデは北ドイツの作曲家・オルガニストで、J・S・バッハ以前のオルガン音楽最大の巨匠と呼ばれている人物だそうである。1668年にリューベックの聖マリア教会のオルガン奏者に就任しており、若き日のバッハが、ブクステフーデのオルガン演奏を聴くために徒歩でライプツィッヒからリューベックまで徒歩で旅行したという逸話があるそうである。繰り返しの音型が多いがバロック時代によく用いられた「オスティーナ」という技法だそうだ。

演奏終了後、大木麻理はマイク片手に挨拶。台風21号により甚大な被害を受けた京都へのお見舞いなどを述べてから、ブクステフーデの紹介などを行った。

大多和正樹との共演によるバッハの「トッカータとフーガ」ニ短調。冒頭はパウゼの時に大多和が和太鼓やパーカッションを挟むというスタイルで、その後、音が重なっていく。
音圧の高いパイプオルガンと、鋭い打楽器の音を聴いていると、天地開闢の映像が頭に浮かんだが、こうしたこともバッハの偉大さとその音楽の巨大さ故のことなのであろう。

演奏が終わり、大多和が退場してから大木は「なんかコンサート終わっちゃったみたいですけど、こういう時にはバッハの力を借りようと」ということで、イタリア協奏曲の第1楽章と無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番よりシャコンヌが演奏される。イタリア協奏曲はチェンバロのために書かれたもので、シャコンヌはタイトル通りヴァイオリン独奏のための音楽である。
パイプオルガンはストップという引き出しボタンのようなものを調節することで様々な音を出すことが出来る。イタリア協奏曲は軽やかな音色で、シャコンヌは重厚な音使いで演奏された。

ボヴェの「東京音頭」による幻想曲。ボヴェは、即興演奏の名手として知られるスイスのオルガニストだそうである。日本で演奏会を行った際に、日本の旋律を用いた即興演奏として繰り広げられたものだという。和太鼓入りの譜面があるそうで、今回は音符通りに演奏される。大多和は子供の頃からピアノを習っていたそうで、五線紙の楽譜が読めるそうだ。
東京ヤクルトスワローズの応援歌として、「東京ヤクルト」だの「くたばれ讀賣」だのと歌詞をつけて歌われる前奏の部分がかなり長く演奏される。幻想曲には、日本人が考えるようないわゆる「幻想的な」という意味の他に「即興的な」という意味もあるようだが、2つの側面が共に生きた楽曲と演奏だったように思う。
「京都で東京音頭を演奏するのはどうかと思いましたが、元々和太鼓が入っている曲ということで」セレクトしたそうである。

松永倫士は芸大時代の大木の同級生だそうで、モーツァルトの主題によるパラフレーズは、大木自身が松永に作曲を依頼し、2017年にミューザ川崎コンサートホールで初演を行ったものだという。モーツァルトのピアノ・ソナタ第11番より第1楽章とトルコ渾身曲、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、歌劇「魔笛」序曲、交響曲第41番「ジュピター」、「レクイエム」より“ラクリモーサ”(モーツァルトの絶筆)などの旋律が鏤められている。現代音楽の作曲家なので響きは鋭さが感じられるが、モーツァルトの愛らしい旋律がそれを中和して聴きやすいものに仕上がっている。

ラストの曲目となる。ラヴェルの「ボレロ」(ルードヴィッヒ編曲)。大多和との共演である。冒頭に大多和の独奏があり、その後に大多和が原曲ではスネアが叩くボレロのリズムを叩いて共演が始まる。
パイプオルガンの音色の多彩さが生きた演奏で、後半の盛り上がりと音の威力もかなりのものである。

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