コンサートの記(438) 沼尻竜典オペラセレクション NISSAY OPERA 2018 モーツァルト 歌劇「魔笛」@びわ湖ホール
2018年10月6日 びわ湖ホール大ホールにて
午後3時から、びわ湖ホール大ホールでモーツァルトの歌劇「魔笛」を観る。指揮はびわ湖ホール芸術監督の沼尻竜典。日本センチュリー交響楽団の演奏、佐藤美晴の上演台本と演出で、歌はドイツ語歌唱で日本語字幕付き。セリフは日本語で語られる。今年の6月に日生劇場で行われた公演のキャストを一部変更しての上演である。
元々高校生のためのオペラ作品として作成されたものであり、びわ湖ホールでもまず高校生限定公演が行われ、今日は一般向けの上演となる。
出演は、伊藤貴之(ザラストロ)、山本康寛(タミーノ)、砂川涼子(パミーナ)、角田祐子(夜の女王)、青山貴(パパゲーノ)、今野沙知惠(パパゲーナ)、小堀勇介(モノスタトス)、田崎尚美(侍女Ⅰ)、澤村翔子(侍女Ⅱ)、金子美香(侍女Ⅲ)、盛田麻央(童子Ⅰ)、守谷由香(童子Ⅱ)、森季子(童子Ⅲ)、山下浩司(弁者&僧侶Ⅰ)、清水徹太郎(僧侶Ⅱ)、二塚直紀(武士Ⅰ)、松森治(武士Ⅱ)。合唱はC.ヴィレッジシンガーズ。
ドラマトゥルク:長島確、衣装:武田久美子。
演出の佐藤美晴は、慶應義塾大学大学院修了後、ウィーン大学劇場学科に留学し、シュトゥットガルトオペラ、アン・デア・ウィーン劇場、イングリッシュ・ナショナル・オペラで研鑽を積んでいる。ハンブルク歌劇場で演出助手を務め、現在は東京藝術大学社会連携センター特任准教授と東京大学先端科学技術センター人間支援工学客員研究員を務めている。
第23回五島記念文化オペラ新人賞(演出)を受賞。最近は、東京芸術劇場と石川県立音楽堂の「こうもり」、NHK交響楽団の「ドン・ジョヴァンニ」の演出を担当した。
開演前にオーケストラピットを確認し、バロックティンパニが用いられることを知る。
ピリオド・アプローチを用いた演奏である。びわ湖ホール大ホールは空間が大きいので、ピリオドだと弦楽が弱く感じられ、序曲などは聞こえにくいという難点があったが、オペラの場合は声が主役であるため、全般的には問題なしである。バロックティンパニの強打はかなり効果的であった。
幕が上がる前、舞台の最前列にグランドピアノの小型模型が置かれている。序曲の途中で、三人の童女が次々に幕から顔を覗かせ、五線紙に羽根ペンで音符を書き込みながら戯れる。モーツァルトの化身のようであり、音楽そのものの擬人化のようでもある。
タミーノがスマートフォンを使って今いる場所を検索しようとしたり、「ヘイトやデマ」など、最近はやりのものが色々と登場する。
日本語でのセリフであるが、やはりオペラ歌手達は日本語の演技に慣れていないため、ストレートプレーやミュージカルの俳優に比べると言い回しに拙さは感じられてしまう。またセリフと歌の声のギャップがみな結構凄い。歌のレベルは日本人のみによるオペラとしては高く、満足のいく出来である。
ザラストロの館は、女人禁制のフリーメイソンを露骨に描写したものといわれるだけに、男性キャストしかいないのが普通だが、今回の演出では女性もかなり大勢いるという設定になっている。教団というよりは大企業という感じであり、そのために女性もいてタミーノと引き離されるパミーナの肩に手を置いて同情的な仕草も見せるのであるが、朝の始業前の掃除をするのは女性だけ、第2幕冒頭に設けられた会議の場で机に座って参加しているのは男性だけで、女性は後ろの方に立ちっぱなしで雑用係(もしくは非正規社員)のようであり、発言権もないようだ。
男と女の対比は、「魔笛」においては重要なので、ザラストロとその配下の男という強者とその他の弱者という対比で行くのかと思われたが、それほど徹底してはいないようであった。音楽そのものが主役という解釈を取っているようなところがあるのだが、「音楽」という言葉は基本的に西洋の言語では女性名詞であることが多く、そこをザラストロと対比させるのも面白いとも思ったが、観念的なことは敢えて避けたのかも知れない。
ただ、倒された夜の女王と三人の侍女の亡骸が幕が下りるまで打ち捨てられたままだったり、やはり倒されたモノスタトスが後方へと去って行くザラストロににじり寄ろうとして力尽きるところなどは、女性や有色人種が置かれている状況を冷徹に描いているともいえる。
沼尻の作り出す音楽はいつもながらややタイトであり、モーツァルトだけにもっと膨らみのある音が欲しくなるが、日本センチュリー響のアンサンブルの精度も高く、歌手達の魅力も十分に引き出していた。
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