コンサートの記(449) パスカル・ロフェ指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団第522回定期演奏会
2018年10月26日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて
午後7時から大阪・中之島のフェスティバルホールで、大阪フィルハーモニー交響楽団の第522回定期演奏会を聴く。今日の指揮者はフランス出身のパスカル・ロフェ。
日本のオーケストラへの客演も多いパスカル・ロフェ。現在はフランス国立ロワール管弦楽団の音楽監督である。パリ国立音楽院を卒業後の1988年にブザンソン国際指揮者コンクールで2位入賞。1992年からはアンサンブル・アンテルコンタンポランの指揮者として活躍。ピエール・ブーレーズの影響からなのかノンタクトで指揮する。経歴からわかる通り現代音楽の演奏を得意としており、NHK交響楽団の京都公演でチャイコフスキーの交響曲第4番を指揮した時には現代音楽仕込みの明晰なアプローチによってチャイコフスキーの苦悩を炙り出す名演を繰り広げている。
曲目は、フォーレの「レクイエム」(1893/1984 ラター版)とストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」全曲(1910年原典版) 。
フォーレの「レクイエム」は人気曲であり、大阪フィルは今年の夏に大友直人の指揮で演奏したばかりであるが、重複を避けるためか、イギリスの指揮者で宗教音楽の作曲家としても知られるジョン・ラターがフォーレの第2稿をまとめたラター版の楽譜を用いての演奏となる。
フォーレの「レクイエム」は元々はフォーレが両親を悼むための私的な楽曲として作られている。その後にフォーレ自身が手を加えた第2稿が完成。今回はこれを基にした楽譜で演奏される。
今日一般的に演奏されるのはその後に改訂された第3稿である。フォーレ自身はこの改訂に乗り気ではなく、作業も弟子のジャン・ロジェ=デュカスに任せている。第3稿は1900年のパリ万博で初演されている。というより、パリ万博で披露するために校訂されたのであろう。
まだ大阪フィルがザ・シンフォニーホールを定期演奏会の会場にしていた頃、大植英次指揮の演奏会の前半のプログラムがフォーレの「レクイエム」だったのだが、開演直前に大植英次がドクターストップによって緊急降板となり、合唱指揮者である三浦宣明が急遽代役を務めたことがあった。大フィルによるフォーレの「レクイエム」を聴くのはそれ以来である。
ラター版は第2稿に基づいているが、フォーレの自筆譜が散逸してしまったため、ラターが研究によって復元している。弦楽はヴァイオリンがなく、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの編成。通常、ヴァイオリンが陣取る舞台下手側にヴィオラが並び、コンサートマスター(でいいのかな?)はヴィオラの井野邉大輔。今日の演奏会全体のコンサートマスターである田野倉雅秋は、この曲ではヴァイオリンソロとして「サンクトゥス」と「イン・バラディスム」で演奏に加わる。田野倉はヴィオラ陣の背後に控え、「サンクトゥス」ではその場で立って、「イン・バラディスム」では更に後ろ、ハープの横に下がって演奏した。歌手の配置も独特で、バリトン独唱の萩原潤は指揮台の上手横だが、ソプラノ独唱の市原愛は、下手側、田野倉の最初の持ち場の一つ後ろに座って出番を待つ。
管楽器の編成も特殊で、金管は普通だが、木管のフルート、オーボエ、クラリネットといった花形は出番なしでファゴットのみが登場する。
ロフェは音の輪郭をクッキリと浮かび上がらせた立体的な音響を築く。やはりロフェという指揮者は相当な実力の持ち主のようである。
ホワイエで行われたプレトークで、大阪フィルハーモニー交響楽団事務局次長の福山さんが語っていたが、フォーレの意図をロフェに聴いたところ、「合唱を生かすために高音の楽器を除いたのだろう」という答えが返ってきたそうだが、実際に耳にすると音色が渋く、普段聴いている第3稿とはかなり印象が異なる。大阪フィルはドイツ的な低弦の強さが売りの一つだが、この印象は大フィルだからではないだろう。フォーレがイメージした元々の響きが渋めのものだったのだと思われる。一般にフォーレというとノーブル、ザ・フレンチテイストの音楽家で、「レクイエム」はその中でもフランス的というイメージがあるが、それはフォーレが乗り気でなかった第3稿によって作られたものだったようだ。異国からの来訪者が集うパリ万博でのお披露目ということで、意図的にフランス的な響きが加えられたのだろう。作曲者が望まない形が後世に残ってしまうというのは良くあることである。
ソプラノは最も有名な「ピエ・イエス」が唯一の出番なのだが、市原愛の歌唱は歌い出しの音程が不安定であった。1曲勝負であるため後で取り返せないのがこの曲の怖いところである。
大阪フィルハーモニー合唱団の水準は高い。
ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」全曲(1910年原典版)。演奏会用に編まれたものや組曲版が演奏されることが多いが、今回はパリ・オペラ座で初演された時のバレエ全曲の演奏である。とはいえ、初めて生で聴いた「火の鳥」の演奏も全曲版だった記憶がある。1994年の春に、千葉県文化会館で行われた東京交響楽団のマチネーの演奏会。指揮は秋山和慶で、その時は朗読付きの上演であり、ナレーションを裕木奈江が務めていた。当時、東京交響楽団は「ぴあ」での表示をTOKYO SYMPHONYにしていたんだっけ。懐かしい。
「火の鳥」でもロフェは、優れた聴覚バランスと巧みな音楽設計を生かした秀演を描く。冒頭の金管のソロが散らかった感じだったのは残念だが、ソロでは今一つでも合奏になると力を発揮するのが日本のオーケストラの良さで、その後は安定、輝かしい音を出す。
弦楽は最初から最後まで煌めきのあるマジカルな音色を奏でる。ここぞという時の力強さは大フィルの真骨頂だ。
今回が大フィルとの3回目の共演となるパスカル・ロフェ。もっと聴きたくなる指揮者である。京響にも客演して欲しい。
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