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2018年12月 7日 (金)

コンサートの記(466) 京響プレミアム「岸田繁 交響曲第二番初演」@京都コンサートホール

2018年12月2日 京都コンサートホールにて

午後4時から京都コンサートホールで、京響プレミアム「岸田繁 交響曲第二番初演」に接する。京都市交響楽団常任指揮者兼ミュージック・アドヴァイザーの広上淳一の指揮。

今日のコンサートマスターは泉原隆志。フォアシュピーラーは尾﨑平。今日はオーボエ首席の髙山郁子とクラリネット首席の小谷口直子が全編に出演する。


曲目は、第1部「世界音楽~響きのインスピレーション 『フォークロア・プレイリスト①』」が、岸田繁の弦楽五重奏のための古風な舞曲「あなたとの旅」(管弦楽版)、バルトークの「ルーマニアンフォークダンス」、ショスタコーヴィチ(バルシャイ編)の室内交響曲第1番第1楽章、ヴィラ=ロボスのブラジル風バッハ第4番から第2曲、岸田繁のオーケストラのための序曲「心の中のウィーン」。第2部が岸田繁の交響曲第二番(世界初演)。

岸田の交響曲第一番はロームシアター京都メインホールで初演されたが、第二番は京都コンサートホールでの初演となる。


まず、岸田繁と広上淳一がマイクを手に登場する。
岸田繁は、「作曲『家』と言うのは慣れていないのですが、作曲家の岸田繁です」と自己紹介する。そして広上を「広上淳一マエストロです」と紹介し、「広上先生」と呼びかけるが、「先生はやめて」「マエストロもやめて」「広上さんでいい」と返される。

第1部のタイトルにフォークロアと入っていることについて、岸田は、「フォークというと『神田川』とか高石ともやとかを思い浮かべるかも知れませんが、フォークロアということで民族音楽」と説明する。

岸田は、「広上さんは、本番前に緊張したりすることはありますか?」と聞き、広上は、「ある。今も心臓がばっこんばっこんいってる」と答え、「若い頃は、年取ったら緊張もしなくなって楽にやれるんだろうな、と思っていたが、年を取れば取るほど怖くなる」と語り、「指揮者の仲間にも『年取った方が怖くならない?』と聞いたらみんな『なる』って」
岸田も、「今、心臓が飛んで行ってあのパイプオルガンの上にいるような」と言うと、広上は、「やっぱり眼鏡を掛けてるの?」と冗談を言う。
広上は、「クラシックを料理店に例えるとどんな感じ? 僕もあなたも居酒屋大好きだけど」と聞き、岸田は迷ってから「めっちゃ美味い中華料理店」返す。広上は「今日はどんなお客さんが来ているのかわかりませんが」と前置きしてから、「めっちゃ美味い中華料理店に年に2回は行きたくならない?」と言い、それをクラシックに例えて、「垣根が高いかも知れないけれど」と言いつつ、その後にクラシックオーケストラのコンサートに通う重要性を述べていた。

岸田 「オーケストラのある人生とオーケストラのない人生、どっちが良い悪いということではないと思いますが、僕はある人生を選んで正解だったと思います」


まず、岸田繁の弦楽五重奏のための古風な舞曲「あなたとの旅」(管弦楽版)。
3部形式で、中国の国歌のような歌い出しの第1部&第3部とチャイコフスキー風のトリオを持っている。
今日も京響は好調で輝かしい音を奏でる。

バルトークの「ルーマニアンフォークダンス」
京響の力強い弦楽パートが魅力的な音を奏で、広上の生み出すリズム感と巧みなローカリズムが面白い演奏を生む。

ショスタコーヴィチ作曲、バルシャイ編曲の室内交響曲第1番より第1楽章。
以前、編曲者であるバルシャイの指揮による音盤を聴いたことがあるのだが、交響曲第6番第1楽章のような深い美しさを持つ曲である。広上の曲の掘り下げ方が巧みだ。

ヴィラ=ロボスのブラジル風バッハ第4番第2曲。元々はピアノ曲で、完成後すぐの1941年にオーケストラ編曲がなされている。
ブラジルクラシック界を代表するヴィラ=ロボス。ブラジル音楽とバッハ風様式の高い次元での統合を企図した作曲家だ。ただ、この曲のメロディーはどことなくお洒落でシャンソンを連想させるところがある。京響の磨き抜かれた音が印象的だが、美しすぎてムード音楽のように聞こえるところがある。この辺は好みが分かれそうだ。

岸田繁のオーケストラのための序曲「心の中のウィーン」
ウィーンということでワルツが奏でられる。明快な旋律によるわかりやすい楽曲である。広上と京響が作る音楽は上品だ。


岸田繁の交響曲第二番初演の前に、岸田と広上がまたマイクを手に登場。広上は、「くるりでやる時と映画音楽を作る時、交響曲の時で作る姿勢は違うの?」と聞き、岸田が「一緒だと思います」と答える。

広上は指揮の師でもあるレナード・バーンスタインの話をする。バーンスタインは元々は作曲家志望で、指揮者としてはそれほど野望を持っていなかったのだが、インフルエンザで指揮台に立てなくなったブルーノ・ワルターの代役としてニューヨーク・フィルハーモニックを指揮して大成功。指揮者として売れっ子になる。
「バーンスタイン先生は、作曲をしている時には自己否定が多くなるのだが、指揮者として発散することでバランスが取れる。演奏するのも作曲するのも音楽をするということでは一緒だから」ということで指揮者としての活動を増やすのだが、岸田が作曲するときの精神状態についても聞く。やはり自己否定は増えていくそうではある。
広上が「ここで『俺(指揮)やーめた!』って言ったらどうする?」と冗談を言い、岸田も「僕が全曲アカペラでやります」と冗談で返していた。


岸田繁の交響曲第一番は5楽章で出来ていたが、交響曲第二番は、オーソドックスな4楽章からなる。全編を通してロシアンな雰囲気があり、ロシアの作曲家を意識した作品であることがうかがえる。

全体的にロマンティックな調性音楽で、映画音楽にも通じるところがある。なお、作曲はDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション)を使って行われ、スコア編集は徳澤青弦が務めている。

チャイコフスキーの「悲愴」交響曲第3楽章のような音楽が冒頭とラストに配され、ラフマニノフ、プロコフィエフ、リムスキー=コルサコフ、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチなどを思わせる響きが随所に顔を出す。ラストはチャイコフスキー風に「ジャジャジャジャン」の運命動機で締められた。
広上指揮の京響は、「ブリリアント」そのものの演奏を展開。オーケストラを聴く楽しみを存分に味わわせてくれる。


演奏終了後に、広上が岸田に自作を聴いた感想を聞き、岸田は、「生まれて初めて鏡を見たような」と答える。「こいつ案外やるやん! といったような」だそうである。

岸田は、「京都市の皆さん、京都市に京都市交響楽団と広上淳一がいて良かったですね」と語る。


アンコールとして、くるりの代表曲である「宿はなし」の管弦楽版が演奏される。
演奏前に広上が「『宿はなし』って、昔、貧乏だったの?」と聞き、岸田は「学生時代は貧乏だったので、寝ちゃいけない場所で寝たり」
広上 「でも、これから12月1月と寒くなってくるけど」
岸田 「宿はあった方がいいと思います」
と、漫才のボケ同士の会話にようになっていた。

広上は遅めのテンポで旋律を揺らしながら歌い、曲が持つノスタルジアをいや増しに増していた。



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