観劇感想精選(297) パルコ・プロデュース2019「母と惑星について、および自転する女たちの記録」(再演)
2019年4月13日 左京区岡崎のロームシアター京都サウルホールにて観劇
午後6時からロームシアター京都サウスホールで、パルコ・プロデュース2019「母と惑星について、および自転する女たちの記録」を観る。作:蓬莱竜太、演出:栗山民也。出演:芳根京子、鈴木杏、田畑智子、キムラ緑子。
2017年に初演された作品であり、第20回鶴屋南北戯曲賞を受賞している。
長崎とトルコ・イスタンブールの場面を行き来しながら描かれる女優四人の芝居。いくつかの事例から、この作品が蓬莱竜太流「三人姉妹」の翻案であることが察せられる。
辻美咲(田畑智子)、優(鈴木杏)、シオ(芳根京子)は峰子(キムラ緑子)の娘である。父親は物心ついた頃にはすでに蒸発しており、不明だ。
長崎市内の自身が経営するバーで、庄野真代の「飛んでイスタンブール」をよく歌っていた峰子が死んだ。三人の娘は、母親の遺骨を散骨するためにイスタンブールに来ている。軍楽が響く街(実際にイスタンブールに行ったことはないが、おそらく今のイスタンブールでは実際に軍楽を聴くことはないと思われる)。
美咲はバザールで4000トルコ・リラの絨毯を買ったのだが、桁を一つ誤魔化されており、実際はクレジットカードで4万トルコ・リラ(約200万円)を支払っていた。雑誌にエッセイや旅行記などを書いているフリーライターの美咲は貯金が少なく、これでほぼ一文無しとなってしまう。
優はバンドマンで派遣社員をしている男と結婚したのだが、以前からの願いで専業主婦をしている。お相手は月一でバンドライブを行っているのだが、売れていないので儲かるどころかやるたびに借金が膨らんでいる。
美咲が東京の大学に進学し、優も東京を出て行った後も長崎に残って峰子の世話をしていたシオは、町の売店で働いているのだが、当然ながらお金になる仕事ではない。
三人の母親の峰子は、社会的には破綻した女性であり、三人の娘を生んだのも、自分が好きなところに飛んで行ってしまわないよう「重石」とするためだった。
峰子の遺骨を撒く場所を探して、三姉妹はイスタンブールを彷徨うのだが、そのうち、誰からともなく母親の幽霊を見たと言い出して……。
三女のシオを演じる芳根京子がストーリーテラーを兼ね、長女の美咲役の田畑智子や次女の優役の鈴木杏も峰子との思い出などを語ったり、録音された声がエッセイの題材や独り言として流れたりする。更に優は旦那にLINEを打って現状報告、ということで語りが多すぎるきらいはある。
内容もどちらかといえば映像作品にした方が映える種類のもので、最も見せ場の多い芳根京子の演技も表情をクルクル変えるなど映像向きである。そのため、「これが演劇である必要があるのか」という疑問も浮かばないではなかったが、ストーリー展開は好感の持てるものであり、四人の女優の熱演もあって満足のいくものに仕上がっていた。
次女が突然、「働く」と言い出したり、ラスト付近で行進曲が奏でられたりするのが、チェーホフの「三人姉妹」へのオマージュだと思われる。ロシアの田舎町からではなく母親から旅立って行く「三人姉妹」の物語だ。
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