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2019年4月29日 (月)

コンサートの記(553) ローム ミュージック フェスティバル 2019 「オーケストラコンサートⅡ 二大コンチェルトの饗宴~日下紗矢子・反田恭平 with 京都市交響楽団」&「リレーコンサートC 河村尚子ピアノ・リサイタル~偉大なるベートーヴェン~」

2019年4月21日 左京区岡崎のロームシアター京都メインホールおよびサウスホールにて

午後2時30分から、ロームシアター京都メインホールで、ロームミュージックフェスティバル2019 オーケストラコンサートⅡ「二大コンチェルトの饗宴~日下紗矢子・反田恭平 with 京都市交響楽団」を聴く。ロームミュージックフェスティバル2019の2日目にして楽日のオーケストラ公演。指揮は、2016年に行われたロームミュージックフェスティバルのタクトも執っている阪哲朗。ナビゲーターをフリーアナウンサーの朝岡聡が務める。反田恭平人気もあって、チケットは完売である。

曲目は、まずオッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」序曲が演奏され、次いでメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲とチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番(原典阪)という二つのコンチェルトが登場する。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は「メンコン」の愛称で知られ、三大ヴァイオリン協奏曲の一つにも数えられる有名作だが、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番は取り上げられる機会が極めて希少な作品である。第1番から第3番までを収めた「チャイコフスキー ピアノ協奏曲全集」はいくつかあって、私はヴィクトリア・ポストニコワが夫君であるゲンナジー・ロジェストヴェンスキーの指揮で録音したものを千葉にいた頃に聴いているが、それでも聴いたのは2回程度、京都に来てからは聴いておらず、曲も忘れている。ということで事実上、初めて接することになる。YouTubeにはいくつか演奏がアップされていると思われるが、敢えて聴かずに出掛ける。


指揮者の阪哲朗は京都市出身。京都市立芸術大学音楽学部で作曲を専攻し、卒業後にウィーン国立音楽大学で指揮をレオポルド・ハーガーらに師事。1995年に第44回ブザンソン指揮者コンクールで優勝して一躍脚光を浴びている。欧州では一貫してオペラ畑を歩き、アイゼナハ歌劇場音楽総監督、レーゲンスブルク歌劇場音楽総監督などを務めている。コンサート指揮者としては客演が主で、これまで特にこれといったポストには就いていなかったが、この4月に山形交響楽団の常任指揮者となっている。


今日のコンサートマスターは泉原隆志、フォアシュピーラーに尾﨑平。ヴァイオリン両翼の古典配置での演奏である。どうも第2ヴァイオリンは今日は全員女性のようで、ありそうでなかなかない光景となった。小谷口直子は降り番だったが、それ以外は首席奏者が前半後半ともに顔を揃える。


オッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」序曲。阪哲朗はかなり細かな指示を京響に送る。指揮の動きがかなり細やかだ。
阪哲朗は若い頃はスケールが小さいという難点があったが、最近は音楽が徐々にではあるが拡がりを増しているように思われる。ただ、これまで何人もの指揮者を目にしてきたが、指揮棒を動かしすぎる指揮者は得てしてスケールが小さいように感じられる。楽団の自発性を引き出しにくいということが影響しているのだろうか。


メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。ソリストの日下紗矢子は、現在、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団の第1コンサートマスターと読売日本交響楽団の特別客演コンサートマスターを務めている。

朝岡聡による楽曲の紹介があり、第1楽章の美しさ、第2楽章の希望、第3楽章の「天使が跳ねるような」快活さが語られる。

一週間前のスイス・ロマンド管弦楽団の来日演奏会で辻彩奈のソロによるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴いたばかりだが、日下のヴァイオリンは辻に比べて旋律を線として捉えることに成功しているように思われる。音色には艶があり、スケールが大きくて音の通りも良いが、ロームシアター京都メインホールは同じ永田音響設計が手がけた兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール同様、オーケストラよりもヴァイオリンの方が聞き取りやすいようである。
日下も京響も音色や曲調の変化の描き方に長けており、京都らしい雅やかな演奏となった。


チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番。まず朝岡聡が楽曲とソリストである反田恭平の紹介を行う。「今更申し上げるまでもないと思いますけれど」と前置きしての「今最も上り調子であるピアニスト」反田の紹介。高校在学中に第81回日本音楽コンクールで1位となり、チャイコフスキー記念モスクワ音楽院に首席で入学。現在はショパン音楽大学(旧ワルシャワ音楽院)で学んでいる。反田がTwitterやInstagramをやっているということで、このコンサートのために反田が書いた文章も朝岡は読み上げた。
チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番であるが、カデンツァがもの凄く、p(ピアノ)の指示が12個並ぶ。「pが弱く、ppがピアニシモ、pppがピアニシモシモ、12個だとなんと読むんでしょうか」。更にf(フォルテ)も9個並ぶことが紹介される。「このカデンツァを聴くだけでも来た甲斐がある」そうで、全曲を聴き終えたときには、「感動を通り越して衝撃。もしかしたら子孫末代に至るまでの語り草となる」というところで笑い声が起こったので、「いや、大袈裟じゃありません」と続けた。

その反田のピアノであるがとにかく巧い。巧すぎるといってもいいほどで、メカニカルな部分に関しては少なくとも実演に接したことのある日本人ピアニストの中では最高である。韓国人ピアニストのキム・ソヌクを京都市交響楽団の定期演奏会で初めて聴いた時も余りの巧さに驚いたのだが、それに匹敵するほどの超絶技巧の持ち主と見ていい。音にクッキリとした輪郭があり、いかなる時も音に淀みや歪みはなく、あるべき時にあるべき場所に音がはまっていく。シャープな感受性の持ち主であることも察せられ、まさに21世紀スタイルの日本人ピアニストの登場と書いても過言ではないほどだ。

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番であるが、第1番とは違い、ニコライ・ルビンシテインから高く評価されている。初演もニコライがピアノを弾く予定だったのだが、それに至る前にニコライは逝去。初演はニコライの死の翌年にセルゲイ・タネーエフのピアノ、ニコライの兄であるアントン・ルビンシテインの指揮によってモスクワで行われ、大成功を収めた。ただ、その後、評価は落ちてしまったようである。
曲調や表情がコロコロと変わるため、作曲者の意図が今ひとつはっきりしないというのも理由の一つだと思われる。第2楽章でヴァイオリンとチェロのソロがピアノをそっちのけにして掛け合いを続けるというのもピアノ協奏曲としては奇妙である(第1楽章のカデンツァなどに超絶技巧が必要とされるため、ピアニストに休む時間を与えたと考えることも出来るように思う)。今日は泉原隆志とチェロの中西雅音(まさお)が情熱的なソロを奏でた。
反田の壮演に会場は沸きに沸き、スタンディングオベーションを行う人が多数。ポピュラー音楽のコンサート並みに盛り上がる。

最後に反田はピアノの蓋を閉じて、京響のメンバーの顔が見えるようにして拍手を送るというパフォーマンスを見せた。


次いで、午後5時30分から、サウスホールでリレーコンサートC「河村尚子ピアノ・リサイタル~偉大なるベートーヴェン~」を聴く。

曲目は、ピアノ・ソナタ第26番「告別」、ピアノ・ソナタ第27番、ピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」

現在、連続してベートーヴェンのピアノ・ソナタの演奏に取り組んでいる河村尚子。CDのリリースも始まっている。

今日は最前列。選んだのではなく、コンピューターが勝手に割り振った席である。クラシックのコンサートでは最前列は演奏者に近いがその割に音が飛んでこないので敬遠されることが多く、余り期待していなかったのだが、かなり音が良い。上からピアノの音が降ってくるような音響である。サウスホールはステージが高めなので、ピアノの蓋に当たった音が直接最前列に降りてきたのだと思われる。

河村尚子の描くベートーヴェンであるが、やはり凄い。壮絶である。反田恭平が天に羽ばたくようなピアノを弾くなら、河村尚子は地上を駆け抜ける駅馬車のような重厚なピアノで勝負する。表現の幅が広く、優れたピアニストが再創造者であることを確認させられるような優れたベートーヴェンであった。

今日はアンコールがある。河村が昨日一昨日とNHK交響楽団との共演で矢代秋雄のピアノ協奏曲を弾いたということで、矢代秋雄が書いた4手のためのピアノ曲「夢の舟」を岡田博美が2手のために編曲したものを弾く。友人であった三善晃の作品にも通じる穏やかな抒情美を讃えた作品であった。
 

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