コンサートの記(548) ジョナサン・ノット指揮スイス・ロマンド管弦楽団来日演奏会2019大阪
2019年4月14日 大阪・福島のザ・シンフォニーホールにて
午後2時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで、スイス・ロマンド管弦楽団の来日演奏会に接する。指揮はスイス・ロマンド管弦楽団の音楽・芸術監督で、東京交響楽団の音楽監督として日本でもお馴染みのジョナサン・ノット。
スイス・フランス語圏を意味するスイス・ロマンド管弦楽団。ジュネーヴに本拠地を置くオーケストラだが、最近ではローザンヌにも拠点を持っているようである。
エルネスト・アンセルメによって結成され、英DECCAにフランスものを中心とした録音を行い、一躍名声を得たスイス・ロマンド管弦楽団。ただアンセルメとの来日演奏会は不評で「レコード美人」などと叩かれたこともある。アンセルメの後は、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキの師として知られるパウル・クレツキの時代を経て、ウォルフガング・サヴァリッシュ、ホルスト・シュタインというNHK交響楽団の名誉指揮者が立て続けにシェフとなって日本でも親しまれたが、この時期は同オケの低迷期とされている。ただ、ドイツ人指揮者を続けて招いたことでレパートリーは広がり、演奏能力も大幅にアップしたそうである。
1985年から12年間に及んだスイス人指揮者であるアルミン・ジョルダンとのコンビは評価も高く、録音も数多く発表。アルミンはやや地味だったが、フランスものでの評判を取り戻している。ファビオ・ルイージ、ピンカス・スタインバーグ、マレク・ヤノフスキ、ネーメ・ヤルヴィといういずれも日本で活躍している指揮者の時代を経て2017年からノットの時代に入った。昨年、2018年には結成100周年を迎えている。
特にマーラーの解釈者として評価の高いジョナサン・ノット。ケンブリッジ大学で音楽学を学んだ後、マンチェスターの王立ノーザン音楽院で声楽とフルートを専攻し、ロンドンに出て指揮を学ぶ。ドイツの歌劇場でキャリアをスタートさせ、2000年にはバンベルク交響楽団の首席指揮者に就任し、レコーディングをスタートさせて各国で評判を得ている。
今から15年前になる2005年に、京都コンサートホールで行われたバンベルク交響楽団の来日公演でノットの指揮に接している。当時はCDも輸入盤しか出ていない状態でノットの知名度は低く、京都コンサートホールの客席は半分ぐらいしか埋まっていなかったが、マーラーの交響曲第5番の名演奏で聴衆を圧倒している。東響の指揮者となった今では日本で最も知名度の外国人指揮者の一人だ。
曲目は、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏:辻彩奈)とマーラーの交響曲第6番「悲劇的」
弦はヴァイオリン両翼の古典配置を採用。管は現代配置が基本で、ティンパニが指揮者の正面に来るのもモダンスタイルである。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲。ソリストの辻彩奈は現在売り出し中の若手ヴァイオリニスト。1997年、岐阜県生まれ。2016年のモントリオール国際音楽コンクール・ヴァイオリン部門で1位となり、一躍有名となったシンデレラガールである。
辻は磨き抜かれた豊穣な音色を聴かせる。一音一音を大切に奏でるが、その分近視眼的になって、全体として一本調子になってしまうのが若さを感じさせる。
ノット指揮のスイス・ロマンド管は、木管を強めに吹かせるということもあって、ロマンティシズムを抑えてすっきりとした伴奏を聴かせた。
辻のアンコール演奏は、バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番よりガボット。同じ音型でも単調にならないよう微妙に表情を変えてくる丁寧な演奏であり、好感が持てた。
メインであるマーラーの交響曲第6番「悲劇的」。ノットの十八番の一つであり、期待が高まる。第2楽章がスケルツォ、第3楽章がアンダンテ・モデラートとなる版での演奏である。
テンポは速め。やはりオーケストラに適度な抑制を利かせた演奏で、大仰な表情になるのを防いでいる。いかなる戦きにも上品さがあり、単なる自己内のドラマに完結させずに人類共通のメッセージとして届けようという姿勢がうかがえる。
スイス・ロマンド管弦楽団の音は輝かしいが、アメリカのオーケストラのようなギラギラした感じとは異なり、やはりノーブルなヨーロッパ的な響きを持ち味としていることがわかる。
マーラーのグロテスクな面を出さず、品の良さを徹底させているだけに、最後の一撃の残酷さがより明確に伝わるという設計の演奏。ノットの演出の上手さが伝わってくる。
終演後、拍手は鳴りやまず、私は途中で帰ったが、楽団員がステージを後にしてからノットが一人で登場して拍手を受けるという、俗にいう「一般参賀」が行われたようであった。
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