コンサートの記(547) 井上道義指揮 京都市交響楽団第633回定期演奏会
2019年4月12日 京都コンサートホールにて
午後7時から、京都コンサートホールで京都市交響楽団の第633回定期演奏会を聴く。今日の指揮者は井上道義。
オール・プロコフィエフ・プログラムで、組曲「キージェ中尉」、ピアノ協奏曲第3番(ピアノ独奏:イリヤ・ラシュコフスキー)、「ロメオとジュリエット」組曲から(井上道義セレクション)が演奏される。
ショスタコーヴィチのライバルだったプロコフィエフ。二人は犬猿の仲であったと伝わるが、基本的にショスタコーヴィチ作品を得意としている演奏家はプロコフィエフ作品でも優れた出来を示すことが多い。
今日のコンサートマスターは客演の石田泰尚。フォアシュピーラーは泉原隆志。今日はチェロ客演首席にNHK交響楽団の首席チェロ奏者である「藤森大統領」こと藤森亮一が入る。第ヴァイオリンの客演首席は大森潤子。武貞茂夫が定年で抜けたテューバには北畠真司が客演で入る。
独自の配置が採用されており、ヴァイオリン両翼だが位置は現代配置のヴィオラと入れ替わり。コントラバスはヴィオラの背後の位置。通常は下手に陣取るホルンは今日は上手に回る。
午後6時30分から井上道義によりプレトークの予定だったが、6時40分からに変更になる。井上が癌の後遺症で唾液が余り出ないので、長い時間喋れないらしい(更にインフルエンザが治ったばかりだったようだ)。
井上はまず、「桜の咲く季節は大嫌いです」。「寒いから」ということなのだが、花見に行くにはということのようで、夜桜を見に行っても井上は「寒いから帰る」という方なので花見がそもそも嫌いらしい。
バレエ「ロメオとジュリエット」のラストをプロコフィエフが「死んだら踊れない」ということでハッピーエンドにしようとしたことを挙げて、「(プロコフィエフ)は希望を抱くロマンティストであったのだが変にリアリスト」であったと語る。
「アンティル諸島の娘たちの踊り」は、百合の花を持って踊られるのだが、百合の花は日本でいうところの菊の花に相当し、葬儀の意味があるのだそうである。
組曲「キージェ中尉」。元々は映画音楽として書かれたものを演奏会用にまとめたものである。映画そのものを観たことはないのだが、実在しないキージェ中尉を皇帝が気に入ってしまったため、周囲が振り回されるという筋書きはよく知られている。録音ではコダーイの組曲「ハーリ・ヤーノシュ」とカップリングされることが多い曲である。
拍手が止んですぐに、舞台袖で西馬健史がコルネットを吹き始めてスタート。プロコフィエフは意欲的な表現に取り組んだことで知られるが、この曲でも相反する要素が同時進行するなど、前衛的な表現が聴かれる(特に目立つ場所に置かれたコントラバスは変わったことをしているのが確認出来る)。
京響自慢のブラスは輝かしく、弦も鋭さと温かさを兼ね備えた優れた表現を聴かせる。
井上は体をくねらせて踊るユーモラスな指揮を見せた。
ピアノ協奏曲第3番。ソリストのイリヤ・ラシュコフスキーは1984年、シベリア・イルクーツク生まれの若手。5歳でピアノを始めて、8歳の時にはイルクーツク室内オーケストラと共演という神童系である。シベリア最大の都市であるノボシビルスクの音楽学校で学び、1995年にイタリアのマルサラ市で行われた国際コンクールで優勝。98年にはウラジミール・クライネフ国際コンクールでも優勝を飾り、2000年にハノーファー音楽学校(ハノーファー演劇音楽大学と同じ学校かどうかは不明)に入学して、そのウラジミール・クライネフに師事している。その後も多くのピアノコンクールで優勝や入賞を経験し、2012年に第8回浜松国際ピアノコンクールで優勝。この時から井上道義に評価されていたがなかなか共演の機会がなく、今日が初共演となるようである。
ラシュコフスキーは、渋みとリリシズムを兼ね備えたピアノを披露。高度な技術が印象的である。
京響はベストな響きではあったが、鋭さと音量共にこの曲の伴奏としては弱めである。それだけプロコフィエフの演奏が難しいということでもあり、プロコフィエフのピアノ協奏曲は演奏家泣かせであることでも知られている。
ラシュコフスキーのアンコール演奏は、ラフマニノフの「楽興の時」第4番。情熱と表現力を兼ね備えた秀演であった。
「ロメオとジュリエット」組曲より(井上道義セレクション)。演奏されるのは、「モンタギュー家とキャピュレット家」「朝の踊り」「ロメオとジュリエット」「情景」「メヌエット」「朝のセレナーデ」「アンティル諸島の娘たちの踊り」「タイボルトの死」「ジュリエットの死」
管楽器の冴えがやはり印象的である。今日は木管の首席は「ロメオとジュリエット」のみの参加であったが、技巧面でも表現面でもハイレベルである。打楽器群の力強い響きも見事だ。
井上の表現も巧みで、強弱や緩急の切り替え、甘美さとシニシズムの対比などプロコフィエフの面白さを十全に表していた。
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