コンサートの記(565) 鈴木優人指揮 関西フィルハーモニー管弦楽団第302回定期演奏会
2019年6月14日 ザ・シンフォニーホールにて
午後7時から、大阪・福島のザ・シンフォニーホールで関西フィルハーモニー管弦楽団の第302回定期演奏会「欧和饗宴」を聴く。今日の指揮は鈴木優人。
古楽の貴公子、鈴木優人の登場であるが、敢えて全曲日本人作曲家の作品で勝負するという意欲的な演奏会である。ただ、現代音楽プログラムでは客が入らないのが当たり前となっており、今日も鈴木優人が指揮台に立つにも関わらず、大半が招待客であることが拍手の起こり方などからわかる。元々、関西フィルは招待客が多めではあるのだが。
曲目は、黛敏郎の「シンフォニック・ムード」(黛敏郎生誕90年記念)、矢代秋雄のピアノ協奏曲(ピアノ独奏:小菅優。矢代秋雄生誕90年記念)、芥川也寸志の交響曲第1番(芥川也寸志没後30年記念)。
鈴木優人は1981年オランダ生まれ。鈴木雅明を父親に、鈴木秀美を叔父に持つというサラブレッドである。東京藝術大学及び同大学院修了後、オランダのハーグ王立音楽院に進んで修了。2018年9月にバッハ・コレギウム・ジャパンの首席指揮者に就任したばかりである。アンサンブル・ジェネシスの音楽監督でもあり、得意とするバッハから現代音楽に至るまでの幅広い音楽に挑んでいる。今年の11月にはNHK交響楽団の指揮台にも初見参の予定。
今日のコンサートマスターは岩谷祐之。アメリカ式の現代配置での演奏である。
黛敏郎の「シンフォニック・ムード」。
若い頃は「天才」のあだ名で呼ばれたという黛敏郎。男前でもあり、女学生のスター的存在であった。松本清張の『砂の器』に登場する天才音楽家、和賀英良のモデルともいわれている。ただ後年は改憲を前提とした政治活動にのめり込んだこともあり、作曲を余りしなくなり、「題名のない音楽会」の司会者としてとにかく知名度は高かったが、黛敏郎が作曲家ではなくプロの司会者だと思い込んでいる人も多かった。
東京音楽学校(東京藝術大学音楽学部の前身)を卒業後、パリに留学するが、アカデミズムへの反発から「ここで学ぶことはもう何もない」として1年で帰国。最新鋭の電子音楽に取り組んだほか、鐘の音をコンピューターで解析してオーケストラに移し替えるという技術を取り入れた涅槃交響曲などで日本作曲界に衝撃を与えている。
「シンフォニック・ムード」は2部からなる力強い音楽である。ストラヴィンスキーの「春の祭典」などからの影響が顕著であり、日本的な旋律と太古のリズムの融合を図っている。「益荒男・黛」の真骨頂を表した作品といえるが、古代の邦楽への畏敬の念も感じられる。
矢代秋雄のピアノ協奏曲。
場面転換の間、鈴木がマイクを手に現れ、トークを行う。自身が東京藝術大学作曲科の第1課程の出身だということを語る。第1課程は矢代秋雄が教えていたフランス流の作曲術の流れを汲むコースだそうである。また、鈴木優人の父である鈴木雅明は、東京藝術大学で矢代秋雄に実際に師事していたそうである。
46歳で早逝した矢代秋雄。東京音楽学校では黛敏郎の同門であったが、戦時中のため授業自体が余り行われなかったようである。卒業後にともにパリに留学し、矢代の方は5年間滞在して伝統的なフランスの作曲法を学んでいる。黛と違って前衛には与せず、「美しく仕上げる」ことを目指した。
ソリストの小菅優は、日本若手トップクラスのピアニストであり、知名度も高い。
ラヴェルのピアノ協奏曲からの影響が濃厚であり、同じような音型がピアノによって奏でられる場面もある。
フランス音楽と大和心の共通点である繊細な味わいを追求した作品。近年では演奏される機会が少しずつではあるが増えているが、小菅優の力強さと輝かしさを統合したピアニズムはこの作品の美質を存分に引き出している。
鈴木指揮の関西フィルも上質の伴奏を奏でる。会場がザ・シンフォニーホールであるということもあるが、今日の関西フィルは鳴りが良い。
アンコールとして、小菅優と鈴木優人の連弾による「夢の舟」(4手のための)が演奏される。愛らしい好演であった。
芥川也寸志の交響曲第1番。
芥川龍之介の三男として生まれた芥川也寸志。芥川作曲賞にもその名を残している。ソビエトや中国共産党へのシンパシーから、ショスタコーヴィチの紹介者としても活動しており、アマチュアオーケストラの新交響楽団を指揮してショスタコーヴィチの交響曲を演奏したりもしていて、いくつかはレコーディングもされている。
右派の黛と左派の芥川であるが、二人は團伊玖磨を含めた「3人の会」として一緒に活動している。後年は前衛的な作品にも取り組む芥川だが、交響曲第1番はまだ伝統的な音楽を第一としていた時期に書かれたものである。
やはりショスタコーヴィチからの影響がはっきりと分かる。力強く鋭い響きが特徴であり、スケールも大きい。アイロニカルな音型や浮遊感一杯の場面など数多くの要素を詰め込んでおり、がっしりとした構築と豊かなロマンティシズムも魅力的である。
鈴木指揮の関西フィルもパワフルで密度の濃い演奏会を行った。
20世紀に活躍した3人の作曲家の作品であるが、いずれも古き良き音楽を尊重した作品を作曲しており、鈴木優人を含めた4人共がそうした姿勢によって貫かれているという共通点を見いだすことの出来た音楽会であった。
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