コンサートの記(570) ヨエル・レヴィ指揮 大阪フィルハーモニー交響楽団第529回定期演奏会
2019年6月21日 大阪・中之島のフェスティバルホールにて
午後7時から、大阪・中之島のフェスティバルホールで大阪フィルハーモニー交響楽団の第529回定期演奏会を聴く。今日の指揮はヨエル・レヴィ。
1988年から2000年まで務めたアトランタ交響楽団の音楽監督時代に脚光を浴びたヨエル・レヴィ。21世紀に入ってからはレコーディングの機会に恵まれないということもあって注目度はやや落ちた感じだが、昨年の京都市交響楽団への客演した際の演奏などから確かな実力の持ち主であることが分かる。
現在は韓国のKBS交響楽団の音楽監督兼首席指揮者として活躍している。
大フィルへの客演はこれで3度目となるレヴィ。日本から近い場所に拠点を持っているということもあって今後も日本のオーケストラに客演してくれそうである。東京のトップオーケストラは無理かも知れないが、日本の地方のオーケストラのシェフになればかなりの評判を呼びそうな気もする。
曲目は、モーツァルトの交響曲第38番「プラハ」、ヤナーチェクの狂詩曲「タラス・ブーリバ」とシンフォニエッタという、チェコ繋がりのプログラムである。
今日はいつもと異なり、アメリカ式の現代配置での演奏。京響での演奏会の時もそうだったので、レヴィはこの配置を好むようだ。 今日のコンサートマスターは田野倉雅秋、フォアシュピーラーに須山暢大。
モーツァルトの交響曲第38番「プラハ」。レヴィが持ち込んだ譜面での演奏だそうである。バロック・ティンパニを使用し、大きめの編成ながらHIPを駆使した演奏だが、序奏の部分はかなり遅め。ピリオドはテンポを速めにするのが特徴の一つなので、それに反した個性的な演奏である。主部に入るとアッチェレランドしていき、爽快さが加わる。
弦の音がとにかく美しいのが印象的。レヴィはユダヤ人だが、ユダヤ人は昔から美音を特徴とする弦楽奏者を数多く輩出している。また、ユダヤ人のメンバーが多いイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団も結成当初から弦楽の美しさを最大の売りとしてきた。そうしたことから考えると、やはり、ユダヤ人は弦楽の音への感度が他の民族に比べて高いのだと思われる。あたかも往時のプラハの街の空気まで運んできたかのような雅やかな美演であった。
ヤナーチェクの狂詩曲「タラス・ブーリバ」。
1970年代後半から1980年代前半に掛けて、チャールズ・マッケラスが行ったレコーディングの数々によって世界的な知名度が上がったレオシュ・ヤナーチェク。ボヘミアではなくモラヴィアの出身であり、モラヴィアの民族音楽研究に取り組み、人生の大部分をモラヴィアの中心地であるブルノで過ごしたというローカルな背景もあって個性的な作風で知られる。マッケラス以外では、やはりチェコの指揮者達が多くの録音を残している。
狂詩曲「タラス・ブーリバ」は、ゴーゴリの小説を元にした管弦楽曲である。
レヴィ指揮の大阪フィルは、描写力に富んだ演奏を展開。力強さ鋭さなどが印象的である。チェコの作曲家の中でも異色とされるヤナーチェクだが、英雄を題材にした楽曲ということもあって、スメタナやドヴォルザークの交響詩に似た部分もある。
ヤナーチェクのシンフォニエッタは、村上春樹の小説『1Q84』によって有名となった(書店の『1Q84』売り場ではシンフォニエッタのファンファーレの部分が延々と流れていたりした)が、それ以前からヤナーチェクの楽曲の中では最も取り上げられる機会の多い作品であった。多くの金管奏者を必要とする特殊な編成の楽曲であり、今日もフェスティバルホールのステージ最後部に金管奏者が横一列に並ぶという、抜群の視覚効果を生み出している。
フェスティバルホールも再建なってから6年が経ったが、当初に比べて音の通りが良くなっているようであり、シンフォニエッタでも優れた音響が聴かれる。
レヴィの生み出す音楽はスケールが大きく音圧も高いが、程良い抑制が効いており、最大音響でもうるさくなることはない。
弦の響きの美しさに加え、管楽器の輝かしさも加わり、大フィルの現時点での最高レベルの音楽が鳴り響く。
ヤナーチェクだけでなく、スメタナやドヴォルザークもそうだが、チェコの音楽は意図的に格好悪い要素を加えたり、洗練度を敢えて下げることによって生まれる「味」のようなものを重視している部分が演歌に通じているように思う。スメタナの「モルダウ」の合唱版やドヴォルザークの「家路」などが日本で好んで歌われるのもそうした理由なのかも知れない。
実は先月のデュトワ指揮の定期演奏会が満員になった揺り戻しがあるそうで、今日は空席が目立っていたが、レヴィと大フィルを盛大な拍手が称える。最後はレヴィがコンサートマスターの田野倉の手を引いて退場し、演奏会はお開きとなった。
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