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2019年6月 8日 (土)

コンサートの記(561) 「東儀秀樹 雅楽&コンサート ゲストにチェリスト溝口肇を迎えて」@ロームシアター京都

2019年5月9日 ロームシアター京都メインホールにて

午後6時30分からロームシアター京都メインホールで、「東儀秀樹 雅楽&コンサート ゲストにチェリスト溝口肇を迎えて」を聴く。

雅楽師の東儀秀樹による、前半は雅楽の公演、後半はスペシャル・コンサートというプログラムである。

曲目は、第1部の「東儀秀樹による雅楽公演」が、神楽「朝倉音取(あさくらのねとり)」、管弦「越天楽」、管弦「陪臚(ばいろ)」、舞楽「納曾利(なそり)」。第2部の「東儀秀樹と溝口肇によるスペシャル・コンサート」が、「Fly Me To The Moon」、「浜辺の歌」、東儀秀樹のオリジナルである「君の夢を守りたい」、「枯葉」、溝口肇のソロによる「鳥の歌」、溝口肇のオリジナルである「ミスターロンリー」(TOKYOFMテーマ)、溝口肇の「世界の車窓から」、ピアソラの「リベルタンゴ」

客席はお年寄りが多い。

 

まず、東儀秀樹の篳篥ソロによる「朝倉音取」。東儀秀樹は狩衣姿で演奏しながら客席上手のドアから登場し、中央通路を通って舞台に上がる。「朝倉音取」は、本来は人間ではなく、神々にだけ聴かせる曲だそうである。

2曲目のお馴染み「越天楽」。この曲では東儀秀樹は篳篥ではなく鞨鼓(かっこ)を演奏する。太鼓:多田泰大、鉦鼓:矢田浩子、笙:中村華子、篳篥:須崎時彦、龍笛:〆野護元、琵琶:安達圭花、箏:中村香奈子。
雅楽の中でも最も有名な曲であり、正月には神社でこの音楽が掛かっていることも多い。雅楽は西洋音楽とは違い、音を合わせてはいけないため(同時に打つのは相手に失礼になると考えるため)あうんの呼吸による絶妙のずれと揺らぎを楽しむことになる。ということで、雅楽は西洋音楽より即興性が強くなると思われる。「越天楽」は同じメロディーが繰り返されるミニマルのような音楽であるが、同じ演奏は二度と出来ないのだと思われる。

「越天楽」演奏終了後に、東儀秀樹がマイクを手に解説を行う。「皆様、雅楽というと堅苦しいものを思い浮かべるかも知れませんが、ご覧になった通り、とっても堅苦しいものです」と言って笑いを取る。
「雅楽については余り詳しい方はいらっしゃらなくて、大抵の人は、『神社のあれでしょ?』となる。『あれ』って言い方はないと思いますが」「雅楽は1400年前に仏教の音楽として日本に入ってきたわけで、当時は『お寺のあれ』だったわけです」と言ってまた笑いを誘っていた。
管弦「陪臚」は聖徳太子が好んだ曲という伝承がある。6拍子で描かれており、唐招提寺の4月8日に仏誕会には必ず演奏されるそうで、754年の大仏開眼の時に演奏されたという言い伝えがある。ちなみに736年にインドの僧が日本に伝えた曲とされており、聖徳太子のいた時代とは合わず、聖徳太子云々はあくまで伝説のようだ。

舞楽「納曾利」では、横山玲子と正木友美による舞がある。双龍の舞であり、舞人は龍の面をつけている。演奏は、篳篥:須崎時彦&矢田浩子、高麗笛:〆野護元&中村香奈子、鞨鼓:多田泰大、太鼓:中村華子、鉦鼓:安達圭花。
今日は1階席の20列目で、それほど前の方ではないが、迫力は伝わってくる。

 

第2部「東儀秀樹と溝口肇によるスペシャル・コンサート」。バックバンドは、ピアノ:松本圭司、ベース:田中晋吾、ドラム:天倉正敬。
東儀は黒のジャケットで登場。「Fly Me To The Moon」演奏後、「第1部に出てきた東儀秀樹によく似ていると言われるんですが、同一人物です」「『(篳篥で)そんなこと可能なんですか?』『怒れませんか?』と言われたりしますが、才能があるもんで出来ちゃうんです」とお馴染みのナルシシストキャラを発揮するも「お客さんの反応が悪い」「笑ってくれないととんでもないことを言っていることになる」と語っていた。

東儀は、「日本の抒情曲が好き」だそうで、特に日本語の美しさが伝わってくる歌詞が好きなのだが(東儀「この感覚は皆さんにもおわかりいただけると思います。見たところお若い方がいないので」)、最近の小学校の音楽の教科書には抒情曲が載らなくなってきており、その理由が「歌詞が難しくて子どものはわかりにくい」という理由を知って、「穏やかな口調で話しておりますが、憤っております」と話した。日本の抒情曲の中で特に好きだという「浜辺の歌」を演奏される。

「枯葉」では東儀は途中で松本に替わってピアノソロを受け持ったりする。

その後、ゲストの溝口肇が登場する。東儀秀樹はここでいったん退場。
溝口が愛用しているチェロには「アンジェラ」という名前がついているそうで、溝口は「メンバー紹介」と称してまず、「アンジェラです」と言う。
楽器についている愛称は、貴族が所有していた時代につけられたものが多く、例えば高嶋ちさ子のヴァイオリンについている「ルーシー」という名称は貴族によってかってつけられたものだそうだが、溝口のチェロには名前がついていなかった。そこで、友人が名前をつけてくれたそうだ。
演奏曲であるカタロニア民謡「鳥の歌」。溝口は子供の頃にパブロ・カザルスが国連でこの曲を演奏するのを聴いて感動したと語る。「ピース、ピース」と鳴く鳥の声の録音を流した中でのチェロ独奏である。

「ミスターロンリー」。この曲は約15年に渡って「ジェットストリーム」のオープニングテーマだったのだが、今では別の人に取られてしまったそうで、溝口はエンディングテーマのみを担当しているそうである。

「世界の車窓から」。ここで東儀秀樹が再び登場する。
溝口は昨年の誕生日には東儀から篳篥をプレゼントされたそうだが、「才能がないので」ものに出来なかった。悔しいというので、ヤフオク!で笙を購入して、今はそちらを練習しているようである。というわけで冒頭は溝口が笙を吹く。東儀も負けじと笙を吹いて二つの笙がハーモニーを造る。その後、溝口のチェロで「世界の車窓から」がスタート。CMで流れているものは15秒だけだそうだが、今日はそれより4分ほど長い全曲版演奏である。東儀も途中から篳篥に持ち替えての演奏を行う。

プログラムの最後は「リベルタンゴ」。篳篥と笙を吹いた東儀秀樹は、篳篥によるラストの音を思いっ切り伸ばすという外連で喝采を受ける。

 

アンコールとして演奏されたのはピアノの松本圭司の編曲によるというビートルズナンバーの「Yesterday」。雅やかさと無常観の入り交じった演奏となる。

雅楽の楽器の音色は陰影が豊かというべきか濃淡が鮮やかというべきか、明と暗が瞬時にして入れ替わったり同居していたりするのが特徴である。笙などは特にそうだが、篳篥も西洋楽器に比べると光と闇が共に豊穣な音色を宿していることがわかった。

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コメント

ミスターロンリー独奏泣きました。もう一度自分の手元に大事に残して聴き続けたいです

投稿: 山中香 | 2023年2月19日 (日) 11時27分

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