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2019年7月27日 (土)

コンサートの記(582) 日本テレマン協会第261回定期演奏会「サリエリ復権」

2019年7月18日 大阪・中之島の大阪市中央公会堂中集会室にて

午後6時30分から、大阪市中央公会堂中集会室で日本テレマン協会第261回定期演奏会「サリエリ復権」を聴く。ピーター・シェーファーの「アマデウス」で有名なアントニオ・サリエリであるが、名前が有名な割には作品は聴かれていない。1984年に「アマデウス」の映画版が上演されてから少しずつではあるが録音は出るようになっており、私も今は札幌交響楽団の常任指揮者として有名なマティアス・バーメルトが指揮したサリエリの序曲&シンフォニア集(シャンドス)などを聴いたことはあるが、生でその音楽を楽しむという機会はまずない。

大阪では、サリエリの音楽祭である「サリエリムジカ」が大丸心斎橋劇場で行われ、同じく大丸心斎橋劇場でOSK日本歌劇団によるミュージカル「サリエリとモーツァルト」が上演されるなど、ちょっとしたサリエリ・ルネッサンスが起こっており、今回の「サリエリ復権」は、その目玉ともいうべき企画である。今後は、「サリエリムジカ」も企画したナクソス・ジャパンの後援で、『サリエーリ 生涯と作品』の著者である水谷彰良による「サリエーリ モーツァルトに消された宮廷楽長」という講演会が関西大学梅田キャンパスで予定されている。

 

延原武春指揮テレマン室内オーケストラによる4曲と、サリエリとモーツァルトの合作であるカンタータ「オフェーリアの健康回復に寄せて」、更にプログラムには書かれていなかったサリエリのフルート五重奏曲が「プレゼント」として演奏される。

曲目は、モーツァルトの交響曲第25番より第1楽章、サリエリのシンフォニア「ヴェネツィア人」、サリエリのピアノ協奏曲変ロ長調(フォルテピアノ独奏:高田泰治)、サリエリ&モーツァルト&コルネッティのカンタータ「オフェーリアの健康回復に寄せて」(ソプラノ:中村朋子、フォルテピアノ:高田泰治)、サリエリのフルート五重奏曲ト長調、サリエリの「スペインのラ・フォリアによる26の変奏曲」

全曲、古楽器を使っての演奏である。ただ配置はアメリカ式の現代配置(ストコフスキー・シフト)を基調としている。

 

延原武春とテレマン室内オーケストラは、大阪市中央公会堂中集会室を拠点に「中之島をウィーンに!」という企画演奏会を行っており、有名作曲家だけではなく、知られざる作曲家の作品も取り上げている。

 

大阪市中央公会堂には何度か来ているが、中集会室に入るのは初めて。中集会室の雰囲気も良いし、中集会室に至るまでの道のりも面白い。

 

モーツァルトの交響曲第25番第1楽章。サー・ネヴィル・マリナーの選曲によって映画「アマデウス」のオープニングになった楽曲として有名である。
17歳の少年モーツァルトが書いた疾風怒濤の音楽であり、「デモーニッシュ」という評価を得ている。
中庸を意識したキビキビとした演奏で、多くの人が好感を抱くであろう出来である。

演奏終了後に、延原武春がマイクを手にスピーチ。「『アマデウス』も大分前の作品になりますが、知ってますよね?」と客席に聞いていた。「(演奏会が)終わる頃には、『サリエリも意外にいいなあ』、思うてよ!」

 

サリエリのシンフォニア「ヴェネツィア人」。 サリエリが書いたオペラの序曲を管弦楽作品にまとめたものである。
モーツァルトの音楽を聴いた後でサリエリの作品に接すると、時代が巻き戻った気になるが、そもそも音楽観が異なるように思われる。推進性を重視するモーツァルトに比べ、サリエリは短い旋律を組み上げていく形である。新鮮な感じはしないが、典雅で優しい音楽だ。

 

サリエリのピアノ協奏曲変ロ長調。フォルテピアノ独奏の高田泰治は、ドイツ在住。2002年に神戸新聞松方ホールでテレマン室内オーケストラとの共演によりデビューしており、平成28年には咲くやこの花賞を受賞している。

演奏の前に延原が、フォルテピアノの紹介を行う。1780年頃に制作されたフォルテピアノのレプリカであり、「音出るわ」と鍵盤を押しながら、「フォルテからピアノまで出るのでフォルテピアノ」と紹介する。現在のピアノの正式名称はそれを逆にしたピアノフォルテだ。
「サリエリはイタリア人なので、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンとは違います。弾いてて『なんでそっちいくの?』」となるそうだ。ちなみに、フォルテピアノでは連打(バッテリー)やトレモロが難しいそうだが、サリエリはそうした技術を多用しており、高田も巧みに弾きこなしているという。

カデンツァは、第1楽章はサリエリが書き残しており、第2楽章と第3楽章は高田が作ったものを弾く。サリエリのカデンツァは音を積み上げていくもので男性的なロマンティシズムが発揮されており、サリエリの鍵盤のための作品をもっと聴いてみたくなる。また、弦楽奏者が特殊奏法を行う場面があるなど、工夫にも富んだ音楽が展開される。

 

フォルテピアノが珍しいということで、休憩の合間は多くの人がフォルテピアノの周りに集まって一大撮影会が行われていた。

 

サリエリ、モーツァルト、コルネッティの共作によるカンタータ「オフェーリアの健康回復に寄せて」。オフェーリアというのは役名で(「ハムレット」のオフィーリアではないようだ)、サリエリのオペラにオフェーリア役で出演するはずだったソプラノ歌手が病気で倒れたのだが、その健康回復を祝って、サリエリがモーツァルトに共作を持ち掛けたとされる。

延原は、「モーツァルトとサリエリは仲が良かったという話」として語り始めたのだが、途中でソプラノの中村朋子に、「あんた喋りや」とマイクを渡してしまう。
ちなみにコルネッティという人物についてだが、コルネッティというのは筆名で正体は不明だそうである。中村朋子によると、オフェーリア役の歌手の実のお兄さんという説もあるそうだ。テキストを書いたのは、『フィガロの結婚』などで知られるダ・ポンテ。ダ・ポンテの書いたテキストは比較的長いものだったが、サリエリが1連と2連に作曲、モーツァルトが3連と4連に作曲し、コルネッティはその続きではなく再び1連と2連に作曲しているそうである。

サリエリが書いた音楽は一言でいうと「優美」。モーツァルトが書いた旋律はもっと伸びやかで表現の幅が広がると同時に強い希求の思いが伝わってくる。コルネッティの書いたメロディーは三拍子のどことなく賛美歌風のものである。

 

その後、フォルテピアノを移動させる作業があるため、その間を延原がトークで繋ぐのだが、「皆様にプレゼントがあります」ということで、プログラムには載っていなかった、サリエリのフルート五重奏曲ト長調が演奏されることになる。延原は、「サリエリ、演奏者がちゃんとせんと、と、プレッシャーを掛けておきます」と言って舞台袖に下がる。

フルート五重奏曲ト長調は、優美で愛らしい作品。イタリア人らしいカンタービレが利いている。「アマデウス」の影響で堅物というイメージもあるサリエリだが、実際は違う可能性もある。

 

ラストはサリエリの「スペインのラ・フォリアによる26の変奏曲」。サリエリのアレンジャー的側面に光を当てるために選ばれたのかも知れない。この曲もマティアス・バーメルト指揮のCDに収められている。タイトルにスペインのラ・フォリアとあるが、旋律自体は、イタリアの作曲家であるアルカンジェロ・コレッリが作曲した「ラ・フォリア」のものが用いられ、これが楽器編成などを変えつつ変奏されていく。変奏と書いたが旋律自体は大きく変わるものではなく、いわゆる変奏曲とはちょっと毛色が異なるようである。
ハープとして参加している北村文の楽器は、1790年頃に作成されたものだそうで、骨董品として売られていたものを買い取り、弦を張り替えるなどして再生させたそうである。現代のハープに比べると小型で軽め。男性一人で移動させることが可能である。延原が北村に話を聞く。往時はハープという楽器は貴族の象徴だったそうで、市民革命によって貴族階級が否定された際に多くのハープが火にくべられてしまい、現存しているものは少ないそうである。

各楽器がソロを取り、ハープやバロックティンパニが活躍するなど、様々な工夫が凝らされている。ヴァイオリン奏者2名がいったん背後のセパレーションの後ろに引っ込み、バンダとしてオーケストラと歌い交わす場面などもあった。
弦楽器の音の動きには、イタリア音楽の先輩であるヴィヴァルディなどとの共通点が聴かれ、サリエリがイタリア出身の作曲家であることを再確認することが出来る。
サリエリがモーツァルトと違って、古典的造形に重点を置いた作曲家なのは確かなのかも知れないが、ウィーンの宮廷楽長まで上り詰めるだけの実力の持ち主であったこともまたはっきりとわかる。

 

演奏終了後に延原は、「意外やったでしょ。悪者や思ってたでしょ」 とサリエリについての評価を述べる。

 

アンコールとして、モーツァルトの交響曲第25番より第3楽章が演奏される。管楽器が荒れ気味だったりしたが、こうして比較するとモーツァルトが未来志向の作曲家であることが聴き取れて面白い。

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