« 史の流れに(6) 大谷大学博物館 2019年度夏季企画展「近代の東本願寺と北海道 開教と開拓」 | トップページ | 坂本龍一 2種の「Batavia」 »

2019年8月25日 (日)

コンサートの記(589) 下野竜也指揮 京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2015~こどものためのオーケストラ入門~「オーケストラ大発見!」第2回「魔法のメロディー」

2015年9月27日 京都コンサートホールにて

午後2時から、京都コンサートホールで、京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2015 ~こどものためのオーケストラ入門~ 『オーケストラ大発見!』第2回「魔法のメロディー」を聴く。指揮は京都市交響楽団常任客演指揮者の下野竜也。ナビゲーターはガレッジセールの二人。

オーケストラ・ディスカバリーは「~こどものためのオーケストラ入門~」と銘打っている通り、子供でも楽しめるコンサート。ただし、選曲は子供向けとは限らない。今年の第1回目は宮川彬を指揮者に迎えてディズニー作品などの子供向けの演奏会を行ったが、今日のプログラムはどちらかというと通向けである。

曲目は、オッフェンバック(オッフェンバッハ)の喜歌劇「天国と地獄」より“カンカン”、シューベルトの交響曲第7番(第8番)「未完成」より第2楽章、J・S・バッハの「小フーガト短調」(ストコフスキー編曲)、ドヴォルザークのチェロ協奏曲より第1楽章(チェロ独奏:山本裕康)、伴奏クイズ、ラヴェルの「ボレロ」
今日のコンサートマスターは泉原隆志。渡邊穣と尾﨑平は降り番である。クラリネット首席奏者の小谷口直子、フルート首席の清水信貴、オーボエ首席の高山郁子は今日は全編に出演。トランペット首席のハラルド・ナエスは後半のみの出演であった。

今日は1階席中央後方での鑑賞。管楽器のソロがやや細く聞こえるが、マスとしての響きは悪くない。響きがステージ上から客席後方に向かっていく様も確認しやすい。

今日は開演前ロビーコンサートがあり、小峰航一(京響首席ヴィオラ奏者)、多井千洋(たい・ちひろ。京響ヴィオラ奏者)、ドナルド・リッチャー(京響チェロ奏者)、高山郁子(京響首席オーボエ奏者)、松村衣里(京響ハープ奏者)の5人により、ロスラヴェッツの「ノクターン」が演奏された。幻想的な作風の曲である。
開演前の室内楽演奏というと、NHK交響楽団が行っていることが知られるが(NHKホールの広大な南側ホワイエが会場となる)、N響の場合、降り番の奏者が室内楽演奏を担当することが多いのに対し、京響の室内楽演奏者はこの後の本番にも出演する(N響ほど楽団員が多くないということもある)。ただ、出番が増えるとどうしてもミスは多くなりがちで、名手のはずの高山郁子が今日は珍しく、バッハとドヴォルザークで割れるような音を出していた。

まずは、オッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」より“カンカン”。軽快な演奏であったが、途中で京響が主題を抜いた演奏を始める。下野のは客席を振り返って「変でしょ?」というポーズを見せる。結局、主題を奏でる管楽器奏者は最後まで演奏せずに終わった。
ガレッジセールの二人が登場し、ゴリが「今、途中からサボった人達がいましたが給料に不満でもあるんでしょうか?」と聞く。下野は「全員、給料に不満はあると思います」などと言うが、「今日のテーマは『魔法のメロディー』ということで、メロディーを抜いて伴奏だけ演奏してみました」と続ける。ゴリがカラオケを例えに出して「歌抜きの」と言うと下野は「カラオケのオケ(よくわからない表現だが)になります」と答える。ゴリが「それ聞いてなかったら、オーケストラと指揮者が揉めてるのかと思ってしまう」と続けると、下野は「それはしょっちゅうです」と返して笑いを取る。

次の曲はシューベルトの交響曲第7番(新番号。旧番号では8番)「未完成」第2楽章であるが、下野は中間部のクラリネットソロがある部分をまず取り上げる(クラリネットは小谷口直子)。まず練習番号64から普通に演奏を始め、下野は「悲しい。学校が終わってプリンを食べようと楽しみにして帰ってきたらプリンを親に先に食べられていたような」という子供に合わせた例を挙げる。今度は同じ部分を弦楽の伴奏を全てピッチ―カートにして演奏。ゴリと川田は、「全然違う」「嬉しいのか悲しいのかわからない」と言ったが、下野が「あのプリン、腐っていたのでしめしめ」と変な例を挙げたため、ゴリが「それおかしでしょ」と突っ込む。下野は「指揮者なので」と言うが、ゴリは「指揮者なのでって言い訳になってない」と更に突っ込む。下野は「指揮者というのは大抵変な人なので、うちの常任(広上淳一)も変な人です」(私:それは知っています)と答えていた。ゴリは更に下野の学生服風の衣装について「ずっと留年してる高校生みたい」と突っ込み、下野は「高校35年生です」とボケる。
シューベルトの交響曲第7番「未完成」より第2楽章。やや小さく纏まっているきらいはあるが美しい演奏であった。演奏終了後、ガレッジセールの二人は曲調が次々に変わることに触れ、シューベルトの様々な面を知ることが出来るようだと語る。
シューベルトの「未完成」交響曲は確かに傑作だが、第2楽章だけ取り出してみると、歌が多すぎ、構成もくどいところがあり冗長に感じられる。傑作と感じられるのは第1楽章との対比があるからであろう。ちなみに無料パンフレットに演奏時間5分と書かれているが、15分の間違いである。

下野が「今度は伴奏のない曲をやろうと思います」ということで、J・S・バッハの「小フーガト短調」をレオポルド・ストコフスキーが編曲したものを演奏する。元々はオルガンのための曲であるが、指揮者で名アレンジャーでもあったストコフスキーがオーケストレーションを行っている。ストコフスキーはイギリス人であるが、アメリカのフィラデルフィア管弦楽団の指揮者として長く活躍したため編曲はアメリカ人好みのゴージャスなものになっている。日本人が聴くとラスト付近などは「うるさすぎてバッハじゃない」と思うような彩り豊かな編曲だ。まずオーボエソロから入るのだが、先程の書いたようにオーボエの高山郁子は1音だけ音を外した。

ドヴォルザークのチェロ協奏曲第1楽章。チェロ独奏を務めるのは京都市交響楽団の特別客員首席奏者の山本裕康。東京都交響楽団の首席チェロ奏者、広島交響楽団の客演ソロ奏者を経て、1997年からは神奈川フィルハーモニー管弦楽団の首席チェロ奏者を務めている。2014年に神奈川フィルと兼任で京都市交響楽団特別客員首席奏者に就任している。ちなみに2014年に神奈川フィルの常任指揮者に就任した川瀬賢太郎は広上淳一の弟子なので、その縁で兼任となった可能性が高い。
演奏前に下野は客席に向かって、「大作曲家、例えばモーツァルトやベートーヴェンなどはかなり変わった人であることが知られています。モーツァルトは子供の頃やんちゃでしたし、ベートーヴェンは怒りっぽくてすぐ喧嘩になる。ベートーヴェンは朝に飲むコーヒーの豆を必ず60粒と決めて挽いて飲んでいました。しかし、ドヴォルザークの伝記にはそうしたエピソードがないんです(子供の頃に勉強嫌いで、実家の肉屋を継ぐはずが当時のチェコで肉屋になるには必須だったドイツ語が苦手だったために得意とする音楽方面に行ったことや、大の鉄道好きで、音楽院で教師をしていたときに、列車が時間取りに駅に着くのかが気になり、弟子に確認に行かせていたという変人エピソードはある)。音楽史上最も性格の良かった作曲家だと思っていて大好きです」というような解説を行った。「自作のチェロ協奏曲を聴きながら『なんて良い曲だろう』と涙を流した」という話も勿論加えていたが。
山本のチェロ独奏はやや線が細いが、音程はしっかりしている。京響の伴奏も充実したものであった。

休憩を挟んで後半。
まずゴリが指揮棒を片手に現れ(ゴリは左利きなので左手に指揮棒を持っている)、指揮台に上がって指揮を始める。曲はオッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」より“カンカン”。右手で意味のないところを指したりするが一応整った演奏にはなった。ゴリは拍手を受けて得意そうにするが、相方の川田が「いやいや、京響の方々が合わせてくれたんだから」と突っ込む。ゴリは「指示だそうとすると京響の方々が苦笑いするんです」と述べる。

後半は、伴奏クイズで始まる。有名曲の主旋律を抜いて演奏し、その曲がなんというものかをお客さんが当てる。ちなみに下野は指揮を教えているが、部分だけを演奏して学生が曲を当てられないとどつきまわすそうである(本当かどうかは知らない)。
子供向けのコンサートなので、当てるのは当然、子供の役目である。最初の曲はわかりやすく、多くの子供が手を挙げ、「喜びの歌」(ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱付き」第4楽章)と正解を出す。
次の曲も弦楽による伴奏が先に出ることからわかりやすく、「白鳥の湖」(より情景1)と正解が出る。
第3曲は、旋律も対旋律もなしの、内声部なしのもの。なかなか正解が出ないが、「モルダウ」と正解が出る。合唱をやっている高校生のようで、「モルダウ」は合唱曲の定番でもあるため、和音進行でわかったようだ。
最後となる4曲目であるが、そもそも旋律に聞き覚えがない。「ドヴォルザークの交響曲第5番」という人がいて不正解になるが、正解はドヴォルザークの交響曲第4番第1楽章であり、聴いたことはあっても覚えている人はまずいない(覚えたくなるような曲でもない)マニアックな楽曲であった。京響の団員でもこの曲を知っている人はいないそうである(プロのクラシック演奏家よりもクラシック音楽好きの人の方が楽曲知識に関しては広いのが普通であるが)。ドヴォルザークの交響曲第5番と言った人がいたことで、下野は「流石だな」と思ったそうである。ちなみに賞品は、下野が自身の指揮棒に「おざわせいじ」と平仮名でサインしたもので、発表した途端にガレッジセールの二人から「それ駄目ですよ」と突っ込まれていた。下野はドヴォルザークの交響曲第5番と言った人に「小澤征爾先生に見つかると、どつかれるので気をつけて下さい」と注意する(?)。

ラストはラヴェルの「ボレロ」。アルトサックスとテナーサックスが加わるのだが、二人とも客演奏者である。チェレスタにはお馴染みの佐竹祐介が加わる。
下野はビートを余り刻まずに指揮していたが、トランペットが加わる直前にアッチェレランドし、盛り上げる工夫をしていた。やや不自然なので私は上手く乗ることが出来なかったが。
ソロパート担当者が立ち上がった拍手を受け、最後に「ボレロ」では最も大変なパートとされるスネアドラムを叩いた福山直子に盛大な拍手が送られる。

アンコール。今度は、ドヴォルザークのチェロ協奏曲でソリストを務めた山本裕康が指揮棒を片手に登場。三度、オッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」より“カンカン”が演奏される。山本の指揮であるが、かなりいい加減。普通なら指揮棒を振り下ろすところで逆に振り上げたりしている。完全にオーケストラ任せである。下野とガレッジセールの二人はポンポンを手にして登場し、下野はヴィオラ首席奏者の小峰航一にもポンポンを渡し、一緒に脚を上げて踊っていた。

| |

« 史の流れに(6) 大谷大学博物館 2019年度夏季企画展「近代の東本願寺と北海道 開教と開拓」 | トップページ | 坂本龍一 2種の「Batavia」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 史の流れに(6) 大谷大学博物館 2019年度夏季企画展「近代の東本願寺と北海道 開教と開拓」 | トップページ | 坂本龍一 2種の「Batavia」 »