これまでに観た映画より(131) 「ブラインドスポッティング」
2019年10月2日 京都シネマにて
京都シネマでアメリカ映画「ブラインドスポッティング」を観る。「ブラインドスポッティング」というのはいわゆる「盲点」のことなのだが、「2通りの見方が可能なシチュエーションやイメージ。ただし、一度に片方しか見ることができず、もう片方がブラインドスポットとなる」という定義がある。盲点と死角を併せ持ったようなものと考えると近いだろう。
メキシコ出身のカルロス・ロペス・エストラーダ監督作品。主演&脚本:ダーヴィド・ディグス、ラファエル・カザル。出演は、ジャニナ・ガヴァンカー、ウトカルシュ・アンブドゥカル、ジャスミン・シーファス・ジョーンズほか。
カリフォルニア州オークランドが舞台。MLB屈指の名門チームであるアスレチックスが本拠地としていることで有名な街だが、人種が多様でリベラルな気風でも知られているという。大企業のいくつが本社を置き、高給取りが多い一方で若者達の4人に1人は貧困者という格差の激しい街でもある。
生粋のオークランドっ子である黒人のコリン(ダーヴィド・ディグス)と白人のマイルズ(ラファエル・カザル)の二人は11歳の時から無二の親友として付き合ってきた。コリンは傷害罪で逮捕され、実刑を受けた後に1年の保護監督処分を受ける。定職に就き、門限は午後11時、奉仕活動を行うことが命じられ、指定されて一人暮らしすることになったアパート(新興のオークランド市民は高級住宅に住むようになり、賃貸の部屋はどこでも空いているような状態だったのだが、前科者なので好きな部屋を借りることは出来ない)のトイレ掃除も行っている。仕事は元カノでインド系のヴァル(ジャニナ・カヴァンカー)の斡旋で、ヴァルが受付や会計などの事務方をしている引っ越し会社の社員に決まった。マイルズも一緒に働いている。コリンは移動を制限されており、オークランドの中心部から出ることが出来ない。
だが実は、傷害事件はコリンが単独で起こしたものではなく、マイルズも加わっていたのだ。マイルズが逮捕されなかったのは白人だったからである。マイルズは自身のことを黒人への蔑称である「ニガー」と呼ばせ、黒人の女性と結婚するなど、黒人への理解はあると自覚しているのだが、何かあったら黒人のせいにされるのだというところまでは認識出来ていない。引っ越しの仕事に向かった先で、トラックの前に車を停めて動こうとしない若者をマイルズは罵倒し、何度もクラクションを鳴らすが、ヴァルが受けた苦情の電話では、クラクションを鳴らして罵倒してきたのはドレッドヘアの黒人ということになっていた。隣の席にいたコリンのせいにされたのだ。
処分が解けるまで3日となった夜。マイルズは車の中で6丁の拳銃を見せびらかす。何かあったら黒人である自分のせいにされると知っていたコリンはマイルズに自制するように申し出るが、マイルズは「家族を守るため」と主張して拳銃を所持するのを止めようとはしない。
門限の11時が迫っており、コリンはマイルズらと別れてトランクを運転して自宅へと急いでいた。トラックを発進させようとした時、黒人の若い男が前に飛び出してくる。その後ろからは白人の警官が追ってきていた。警官は何の躊躇もなく、拳銃の引き金を引く。4発の銃弾が放たれ、コリンの目の前で黒人の若い男は殺された。黒人だったからだ。
治安の悪いオークランド市の警官は高給で雇われていたが、よそ者も多く、オークランド市の郊外の高級住宅地か隣の街に住んでいて、地元愛がないといわれていた。ヤンキー気質で地元愛の強いマイルズは、白人ではありながらそうした富裕層の白人を黒人以上に目の敵にしている。人種差別を行わない自身こそがオークランド市民の本流だと考えているところのあるマイルズには黒人特有のデリケートな部分には目が及んでおらず……。
日本には目に見える形での異人種への差別は今のところそれほど顕著ではない。一目で異人種とわかるような人がそれほど多くないということもある。
ただ、私の天敵でもある認知バイアスは相当に強度なところがある。「そういうもの」と勝手に規定されてしまうことで、あらゆることがらの解釈が全てそれに沿って行われる。日本においては生き方はパターン化されており、かなりシステマチックな社会である。肌の色の違いといったようなわかりやすい目印がないだけに、そうした差別と無意識のデリカシーのなさはより巧妙に世界を覆っているともいえる。
オークランド・アスレチックスにちなんで野球で例えようか。よく「得意なコースの近くに苦手なゾーンがある」といわれるが、これは得意であるがために手を出して凡打してしまうということでもあるだろう。甘く見てしまうのだ。それと同じで「理解している」「知悉している」と自覚していることに実は盲点があったりする。決めつけも生じる。エリア・カザン監督の「紳士協定」っぽくなったが。
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