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2019年10月 2日 (水)

これまでに観た映画より(129) 「人間失格 太宰治と3人の女たち」

2019年9月25日 MOVIX京都にて

MOVIX京都で、日本映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」を観る。蜷川実花監督作品。出演:小栗旬、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ、成田凌、千葉雄大、瀬戸康史、高良健吾、壇蜜、近藤芳正、木下隆行、藤原竜也ほか。

タイトルには「人間失格」とあるが、小説『人間失格』の話は直接的には登場せず、太宰治(小栗旬)が『人間失格』執筆に至るまでを3人の実在の女性を絡めて描く。

鎌倉・腰越の小動岬での心中未遂の場面に始まり、玉川上水での入水に終わる。
登場する3人の女は、太宰の正妻である石原美知子(作家・津島佑子の母親。宮沢りえ)、愛人の太田静子(作家・太田治子の母親。沢尻エリカ)、愛人で心中することになる山崎富栄(二階堂ふみ)である。

 

スクリーン全体が一色に染まる場面が多用されるという、蜷川実花らしい演出が特徴である。舞い落ちる雪が花びらに変わったり、太宰が屋台の並ぶ祭りの中で迷い、真っ赤な風車(かざぐるま)と嘲笑を浴びせる子ども達に囲まれるという幻覚のシーンは、あるいは父親である蜷川幸雄の晩年の代表的演出作品「身毒丸」へのオマージュだったりするのかも知れない。

 

太宰が小説を書くために心中やらなんやらの事件を起こしているという噂は太宰の生前からいわれていたことであり、玉川上水で心中した際も、「どうせホラだろう」と本気にしなかった人もいたようだ。

 

『斜陽』を書くために太田静子と不倫することを許し、「もっと凄い作品」を書くために山崎富栄に走るよう仕向ける石原美知子が実は影の主人公なのではないかと思われる節もある。美知子の存在感はラストが近づくたびに増していき、最後は『斜陽』のヒロインと重なるような、太宰以上に重要な人物となる。
正樹(太宰治の息子。15歳で夭逝)がこぼしてしまった青の絵の具を美知子と娘の園子が顔に塗りたくりながら泣くという印象的なシーンがあるが、青は悲しみの色であると同時に太宰が吐き出す血の赤の反対色でもあり、はっきりとはわからないが結核を病む太宰を介抱する富栄への対抗意識と合わせて二つながらに描いているようである。本当にそうならベタで露骨ではあるが上手い技法でもある。
他の俳優も優れているが、宮沢りえが、この映画の中では最高の出演者であろう。沢尻エリカや二階堂ふみには押しの演技が必要とされるため、引きの演技の部分は宮沢りえが一人で担っているともいえる。

 

スキャンダラスな太宰治を描くということで、プレイボーイが嵌まるイメージのある小栗旬はよく合っている。頭が良さそうにも文才がありそうにも見えないが、この作品の太宰はそうした要素は二の次三の次で、とにかく色気があることが重要であり、剽軽な部分の描き方も小栗旬の良さが出ている。これまでの太宰治像というと、とにかく陰鬱で自意識過剰でありながら女々しくて、小説家としては天才だが生活は破綻しているという描き方が多かったが、小栗旬の太宰には「軽み」がある。

坂口安吾役の藤原竜也は出番は極々短いが、太宰を『人間失格』執筆へと導く重要な役どころであり、藤原竜也を配したのは正解だと思われる。

耽美的な要素と、男女関係が前面に出ているため、太宰本人ではなく太宰が書いた小説の切実さはあるいは伝わりにくくなっているかも知れない。見ようによっては本当に「ただの不倫」とも取られかねないところはある。

 

個人的には、『人間失格』は、悲惨この上ない物語だとは思っていない。人から愛されるため、他の人と同じ道を歩むために演じ続けることが人間というものなのだとしたら、そんなものは失格してしまった方が良いのではないかとすら思っている。昨今は同調圧力が今まで以上に高まり、「ダイバーシティ」の掛け声とは裏腹に、「同じであること」が強要されるようになってきている。要約すると「LGBTはまともな男と女になるよう努力しろ」ということになる文章を書く人が現れたりするのだから困ってしまう。

 

「存在するため」に人はあるいは「人間」になるのかも知れない。存在するだけではなく生きるためには人間を失格しても良いのではないか。『人間失格』という小説をそう受け取った時、私は初めて太宰治の友人になれたような気がした。この映画では、凄い小説を書くために人間を失格するという解釈なのだと思われるのだが、こうした太宰個人や表現者だけでなく、もっと多くの人に「失格」の良さを示して欲しかったと個人的には思うのだ。

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