これまでに観た映画より(132) 「お百姓さんになりたい」
2019年10月4日 京都シネマにて
京都シネマでドキュメンタリー映画「お百姓さんになりたい」を観る。原村政樹監督作品。
語りは小林綾子が務めている。
埼玉県三芳町にある明石農園の1年間を追う。16年前、28歳の時に東京から埼玉県の南端にある三芳町に移り住んで新規就農をした明石誠一が始めた明石農園。明石は子どもの頃の夢の3位が農業をやることだったそうである。1位は宇宙飛行士だったが「虫歯があったりしたら駄目」というので早々に諦め、2位の「サッカー選手になる」を求めて体育大学に進学したが、「自分の実力ではプロにはなれない」と悟り、しばらく何もする気になれなかったが、子どもの頃の夢を思い出して農業を始めることにしたそうである。
明石農園は、肥料や農薬に頼らない自然栽培を行っている。肥料の代わりに他の野菜や雑草を自然発酵させたものを用い、秋には枯葉を集めて土の質を向上させるなど(落ち葉堆肥農法として江戸時代からこの地方に伝わっているそうだ)、自然を最大限に利用する。自然栽培で育てられた作物だけに人気があるようだが、自然を相手にしているため、思い通りにならないことも多い。
農業というと種を植えて面倒を見る過程が思い浮かぶが、自然栽培を行う明石農園では種が育つための土を作ることが何よりも重要なようである。
明石農園では農家志望の人達が研修生として働いている。研修生として学んだ人のうち、これまでに10人ほどが農家として独立しているそうである。
農業高校を卒業して研修生として働いている最初から農家志望の女性もいるが、障害者なども幅広く受け入れている。知的障害者などは対人関係などは不得手だが、自然は人間よりも広量である。
明石は、「効率の良いこと、お金になることが優先される世の中だが、資本主義や民主主義とは違う、新しい物差し作り」を目指してもいるようである。
江戸時代には人口の8割を農民が占めていたが、時代を経るに従って農業に従事する人は減っていき、皆都会に出て対人業務を行うことが多くなっている。ただそうした第三次産業に合わない人も出てくる中で、消費者の声が大きくなりすぎるなど行き詰まりの感もあり、新たな価値観を求めて農業に就くということはある意味先祖返り、原点回帰的なことであり、現代社会で希求されるものとはまた別の豊かさを持つ未来が想像されるようにも思われる。
明石農園の森では、音楽祭なども催され、障害があって普通の音楽会に行けない人達も音楽を楽しんでいる。東京のベッドタウンで、特になにもないような町だが、ちょっとしたハレの喜びがここにはあるようだ。
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