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2019年11月10日 (日)

コンサートの記(607) 宮川彬良指揮 京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2019「オーケストラへようこそ!」第3回「オーケストラ七変化」

2019年11月4日 京都コンサートホールにて

午後2時から、京都コンサートホールで、京都市交響楽団 オーケストラ・ディスカバリー2019「オーケストラへようこそ!」第3回「オーケストラ七変化」を聴く。今日の指揮は宮川彬良。ナビゲーターはガレッジセール。

曲目は、バリー・グレイ作曲(宮川彬良編曲)の「サンダーバード」からメインタイトルほか、ハワード・グリーンフィールド&ジャック・ケラー作曲(宮川彬良編曲)の「奥様は魔女」、ヨハン・シュトラウスⅡ世(宮川彬良編曲)のワルツ「美しく青きドナウ」、ブラームス(シュメリング編曲)のハンガリー舞曲第5番、宮川彬良編曲による宮川版ハンガリー舞曲第5番、ベートーヴェン作曲(宮川彬良編曲)の「エリーゼのために」、レノン=マッカートニーの「ビートルズメロディー」(「ア・ハード・デイズ・ナイト」&「レディ・マドンナ」)、ベートーヴェン作曲の交響曲第5番「運命」第1楽章。

 

コンサートマスターは泉原隆志、フォアシュピーラーに尾﨑平。
今回は宮川彬良による楽曲解説がメインとなるため、演奏時間は短く、管楽器の首席奏者はトランペットのハロルド・ナエス(降り番)以外はほぼ全編に出演する。

 

京響のメンバーが登場し、全員がステージ上に揃わないうちに青のベストを着た宮川彬良も登場。実は本編前にお客さんと打ち合わせをするために早めに現れたのである。1曲目は「サンダーバード」メインテーマなのだが、カウントダウンがあるため、それをお客さんにやって貰いたかったのだ。
宮川「『サンダーバード』大好き! 素敵! という方はおそらく50代以上だと思われます」と語る。確かにその通りで、私でも「サンダーバード」のメインテーマは広上淳一がレコーディングしたCDで初めて本格的に聴いている。勿論、有名な音楽なのでどこかで耳にしたことはあるのだが、「サンダーバード」を見たこともない。

ということで、お客さんがカウントダウンを行い、まずは宮川が「ジャン!」と言って返す。「ファイブ」「ジャン!」「フォー」「ジャン!」「スリー」「ジャン!」「ツー」「ワン! あ、間違えました。ジャン!」という形でやり取りがあり、「Thunderbirds are go!」の部分はもっと低い声で言うようお願いする。

その後、宮川はいったん退場し、オーケストラがチューニングを行ってから再登場する。

自ら単なる作曲家ではなく「舞台音楽家」を名乗る宮川。この手の音楽はお手の物である。
「オーケストラ七変化」というテーマであり、同じ音楽でも様々な要素によって違いが出る秘密を宮川が解き明かしていく。テーマは首席ヴィオラ奏者の小峰航一がボードを掲げて聴衆に示す。宮川は小峰のことを「小峰大先生」と呼ぶ。最初のボードに書かれているのは「指揮」。

宮川は、「サンダーバード」メインテーマを厳かに指揮したことを語り、そのことにも意味があるとする。続いて、窮地の場面の音楽。今度は宮川は指揮棒を細かく動かす。最後は、サンダーバードの南国の基地の場面での緩やかな音楽。指揮棒をゆっくりと移動させる。指揮棒によって音楽が変わるということで、宮川は「指揮棒は魔法の杖」と語る。

魔法使いといえば子どもということで、宮川は「誰か勇気のある子」と客席に呼びかけ、手を挙げた女の子がステージに呼ばれる。今日はステージに上がる階段が設置されているのだが、女の子は靴を脱いで上がろうとし、宮川は「京都の子はお上品だから」と感心する。8歳のNちゃんという女の子であったが、宮川は「丁度良い子が来てくれた」と喜ぶ。開演前に「8歳ぐらいの子が来てくれたらいいな」と周りと話していたそうだ。
子どもが指揮棒で魔法が使えるかということで、Nちゃんに指揮台の上で指揮棒を振って貰う。Nちゃんが指揮棒を前に下ろすと、ハープと鉄琴が反応し、いかにも魔法といった感じの音がする。
続いては、「お父さんにも魔法が使えるか」ということで、客席の前の方にいた37歳の男性がステージに上がる。指揮棒を振って貰ったが、ギャグの場面で使われるようなとぼけた打楽器の音がした。
最後は、「次の曲には奥様が必要」ということで、奥様が呼ばれる。女性なので年は聞かなかったが、まだ若そうである。奥様が指揮棒を振ると「奥様は魔女」の魔法がかかる場面の音が鳴る。ここでガレッジセールの二人が、魔法使いがかぶるようなとんがり帽子とマント、更に小さなステッキを持って登場。奥様に魔法使いの格好をして貰い、川ちゃんは記念写真も撮る。
宮川が奥様の手を取って一緒に指揮を開始し、「奥様は魔女」の演奏が行われた。

ゴリが、「宮川さんは本当に面白い。本当に音楽が好きなんだなとわかる」と語る。

次の曲は、ヨハン・シュトラウスⅡ世のワルツ「美しく青きドナウ」。宮川が編曲した少し短いバージョンでの演奏である。
宮川は、「三拍子というと三角形を書くようなイメージが」と語り、ゴリが「僕が学校でそう習いました」と返す。だが、ウインナワルツは三角形を書くように指揮しては駄目だそうで、宮川は三角形を描きながら「美しく青きドナウ」のメロディーを口ずさみ、「これじゃアヒルの行水みたい」と評する。ウインナワルツは丸を描くように指揮するのが基本だそうで、三角形を書くようにすると踊れる音楽にはならないそうだ。
宮川は指揮について語ったが、ゴリは「宮川さんだと僕らどうしても顔を見ちゃう。顔が面白い」と言い、宮川も「65%ぐらいは顔」と認める。
弦の刻みなどによる序奏の部分などはカットし、本格的なワルツが始まるところからスタートする。宮川は本職の指揮者ではないが、しっかりとした演奏に仕上げる。

 

次のテーマのテーマは、「オーケストレーション」。宮川が様々な管弦楽法を読み込んだ結果を、ボードに示して説明する。ボードは京響のスタッフが運んでくる。

まずハンガリー舞曲第5番の冒頭を普通に演奏した後で、弦楽、木管、金管に分けて演奏する。ゴリは、「木管だけだと楽しく聞こえる」と言い、宮川は「弦楽だけだと渋いでしょ」と返す。弦楽のユニゾンによる演奏も行われた。
続いて、楽器同士の相性。冒頭部分を第1ヴァイオリンとクラリネットで演奏する。第1ヴァイオリンとクラリネットは相性バッチリだそうである。吹奏楽の場合はオーケストラでは弦楽が演奏するパートをクラリネットが担当することが多いので、これはまあそうだと思える。
続いて、第1ヴァイオリンとオーボエによる演奏。これは相性が良くないとされる。宮川は「京都市交響楽団は伝統あるオーケストラなので」第1ヴァイオリンとオーボエでも溶け合って聞こえるが、「第1ヴァイオリンはメロディーを担当することが多い、オーボエもメロディーと担当することが多い楽器なので張り合いになる」そうである。ということで今度は互いが「主役はこっち」という感じで演奏して貰う。オーボエの髙山郁子は身を乗り出してベルアップしながら演奏していた。
続いては、チェロとホルンによる演奏。男性的な感じがする。
続いて、愛人のような関係。いつも一緒にやるわけではないが、たまになら上手くいくというパターン。オーボエとホルンが演奏するが、ゴリは「これ二人でこそこそホテル探してますね」と言う。

そしてブラームスのハンガリー舞曲第5番の全編の演奏。ハンガリー舞曲は、ブラームスがハンガリーのロマの舞曲を採取して、連弾用ピアノ作品にまとめたものであり、ブラームス自身も最初から連弾用編曲として楽譜を出版している。オリジナル曲でないということもあって、ブラームス自身がオーケストレーションを行っている曲は少なく、第1番、第3番、第10番だけである。最も有名なものは第5番だが、これも他者によるいくつかの編曲によって演奏が行われている。

ちなみにガレッジセールの二人は、宮川に勧められてピアノの椅子(今日はピアノは指揮台とオーケストラの間に置かれている)に腰掛けて演奏を聴くことになる。宮川は「狭いので半ケツ」でと言い、ゴリが「それか俺が普通に座って、お前が腿の上に乗る?」、川ちゃん「なんでだよ?!」

ということで演奏。アゴーギクを多用する指揮者も多いが、宮川は本職の指揮者ではないのでそこまではしない。

ゴリが、「いや、この席、12万ぐらい出す価値ありますね。でもなんか宮川さんの顔が音楽の麻薬にやられてるというか、とにかく面白い。みんなに見せて下さいよ」というので、宮川は客席の方を向いて指揮する。なんだがダニー・ケイがニューヨーク・フィルハーモニックを指揮したコンサートの時のようである。だが、
ゴリ「僕らが見てたのと全然違う。盛ったでしょ」
宮川「盛りました」
ということで、指揮をしている時の顔はポディウム席からでないと見られないようだ。ちなみにオーケストラ・ディスカバリーでは、ポディウム席は自由席となっている。

 

今度は宮川彬良が編曲を行ったハンガリー舞曲第5番の演奏。先に示した通りコントラバスを除く全ての弦楽器が主旋律を弾くなど、ダイナミックな仕上がりとなっていた。

 

休憩を挟んで宮川彬良のピアノと京響の伴奏による「エリーゼのために」。宮川は後半は赤のベストに着替えて登場する。サン=サーンス風の序奏があったり、チャイコフスキー風に終わったりと、かなり色を加えたアレンジである。

「編曲」がテーマであり、ボードを掲げた小峰は「へん」に掛けた変顔を行う。宮川は、「京都市交響楽団の皆さん、変な方が多いんです。良い意味でですよ。つまらない人ばっかりじゃ面白くない」

ビートルズナンバーから、「ア・ハード・デイズ・ナイト」と「レディ・マドンナ」の編曲。
宮川は編曲には2種類あると語り、「ア・ハード・デイズ・ナイト」は、忙しく働いた日の夜ということで、文学的描写を取り入れた編曲での演奏となる。本物の目覚まし時計の音が鳴ってスタート。出掛けるための準備やラッシュ時の慌ただしさなどを描写し、会社での仕事のシーンでは、ルロイ・アンダーソンの「タイプライター」が挟み込まれ、パソコンを使ったオフィスワークを描く。そして疲労困憊となり、疲れ切ってのフェードアウトで終わる。

「レディ・マドンナ」は物語描写は入れず、ビートルズによるボーカル、ギター、ベース、ドラムスをそのままオーケストラに置き換えた編曲である。ドラムセットは舞台上にあるが、この曲では使わず、ティンパニ、大太鼓、スネアドラム、シンバルの4つの楽器でドラムセットでの演奏を模す。

最後のテーマは「作曲」。小峰はボードを掲げながら足をクロスさせ、ゴリが「お、デューク更家になりました。あるいはラウンドガールか」と言う。
ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」の第1楽章が演奏されるのだが、その前に、スタッフと京響の降り番の奏者達が「運命」第1楽章冒頭の主旋律が書かれた巨大譜面(3枚組)を手に登場。なぜベートーヴェンの交響曲第5番が「運命」や悲劇的な印象を受けるのかを説明する。
三連符の後で音が下がるからだそうで、冒頭に「下がるぞ下がるぞ下がるぞ」と歌詞を入れていく。
悪い要素は続くという話から、ゴリが「吉本も今、負の連鎖です。悪いことばっかり」と言ったため、冒頭部分は「吉本の現状」ということになる(?)。
「成績が下がるぞ、給料が下がるぞ」となるのだが、ホルンの響きのところで、「よく見てみろ!」となり、第2主題は「上がるから下がる」と少し前向きになると説明する。

本編の演奏。最近はピリオドスタイルでの演奏が増えているが、宮川はそうした要素は取り入れない。そもそも最初からピリオドやHIPまでやってしまうと話がややこしくなる。

宮川は、「このオーケストラ・ディスカバリーは画期的。子どものためのコンサートをやっているオーケストラは色々あるけど、これだけお客さんが入ることはそうそうない」と語り、ゴリは、「僕ら今まで色々な指揮者の方とご一緒しましたけど、宮川さんが一番画期的な指揮者です」
川ちゃん「今日が一番笑いました」

 

アンコールは、宮川彬良のシンフォニック・マンボ No.5。ベートーヴェンの交響曲第5番とマンボNo.5を一緒に演奏する曲で、広上淳一も京響と演奏したことがある。
宮川は、マンボNo.5の冒頭をピアノで奏で、「ハー!」と言ってコンサートマスターの泉原に無茶ぶり。泉原は少し遅れて「ウ!」と答えた。
京響の楽団員は、掛け声や歌などを混ぜて演奏する。打楽器の真鍋明日香がやたらと可愛らしくマラカスを振るなどエンターテインメント性溢れる仕上がりであった。

 

レナード・バーンスタインの仕事をダニー・ケイの才能でこなすことの出来る宮川彬良。音楽の裾野を広げる才能は、現在の日本の音楽人の中でトップに位置すると思われる。

Dsc_7844

 

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