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2019年11月21日 (木)

コンサートの記(607) 「Thanks,Mr.Contrabass ゲイリー・カー コントラバス・リサイタル」@アンサンブルホールムラタ

2019年11月15日 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタにて

午後7時から、京都コンサートホール アンサンブルホールムラタで、第23回京都の秋音楽祭「Thanks,Mr.Contrabass! ゲイリー・カー コントラバス・リサイタル」を聴く。

ジャズのベース奏者でスターというのは珍しくないが、クラシックのコントラバス奏者でスターといえばただ一人、ゲイリー・カーをおいて他にない。実はゲイリー・カーは2001年に引退を表明し、その後は指導者に徹していたのだが、日本でのツアー公演を行うために現役復帰し、ムラタホールのステージにも立つことになった。

ゲイリー・カーは、1941年、ロサンゼルス生まれ。9歳からコントラバスを弾き始め、ヘルマン・ラインスハーゲンの下で研鑽を積む。南カリフォルニア大学、アスペン音楽学校、ジュリアード音楽院などで学び、1961年にシカゴ・リトル交響楽団の演奏会で独奏者としてデビュー。翌62年には、レナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニックと共演。その演奏を聴いて感動したセルゲイ・クーセヴィツキーの夫人から、クーセヴィツキーが生前愛用したアマティのコントラバスを譲り受けている。

コントラバスという楽器は、オーケストラの中でも黒子に徹することが多く、主旋律を単独で受け持つということ自体が少ないのだが、ゲイリー・カーは黒子の楽器であるコントラバスの独奏者となる。そもそもコントラバスで独奏者になろうという発想自体が存在しなかったのだから画期的なことであった。チェロ用やヴァイオリン用の楽曲をコントラバスで演奏するほか(J・S・バッハの無伴奏チェロ組曲やドヴォルザークのチェロ協奏曲をコントラバス用にアレンジしたものを弾いていたりする)、1971年以降はピアニストのハーモン・ルイスと組んで、デュオの演奏を数多く行う。今回はそのハーモン・ルイスとの共演である。
現在はカナダのブリティッシュ・コロンビア州ヴィクトリアに住み、ヴィクトリア・サマー・ミュージック・フェスティバルなどに参加。同時期にコントラバス奏者のためのサマースクール「KarrKamp」を主催している。

 

今から22、3年前になると思うが、サントリーホールで行われた小林研一郎指揮日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートでゲイリー・カーの演奏を聴いている。正確な日付は忘れてしまったが、日曜日のマチネーだったはずである。誰のものかは忘れてしまったが、コントラバスの協奏曲作品。ゲイリー・カーは茶目っ気のある人で、コントラバスのソロが入るところでわざと弾かず、小林が「ん?」という顔でカーの方を見た瞬間に弾き出すということをやって、聴衆の笑いを誘っていた。

 

曲目は、エレックスのソナタ イ短調(ヴァイオリン・ソナタの編曲)、グリーグのソナタ イ短調(チェロ・ソナタの編曲)より第1楽章、メンデルスゾーンの「無言歌」集より「そよ風」「旅人の歌」「夢」「タランテラ」、ガーシュウィンの前奏曲第2番と「ベースを叩け」、ラヴェルの「ハバネラ」、ボッテシーニの「夢」「タランテラ」、サン=サーンスの「白鳥」、ゲーンズのスケルツォ、カナダ民謡「朝起きたら」、クーセヴィツキーの「アンダンテ」「小さなワルツ」、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」、カタロニア民謡「鳥の歌」、パガニーニのロッシーニの歌劇「エジプトのモーゼ」の主題による幻想曲。

 

ピアノのハーモン・ルイスは、ミシシッピ州の生まれ。インディアナ大学で音楽修士号と博士号を得ている。現在は、カナダのブリティッシュ・コロンビア州ヴィクトリアに在住。この30年間に自らが編曲してきた作品を全て録音するというプロジェクトに取り組んでいる。

 

当然といえば当然だが、ゲイリー・カーの見た目も随分変わった。京都コンサーホールの螺旋状のスロープには、京都コンサートホールで演奏したことのある名演奏家の写真が並んでいるのだが、実はその中にゲイリー・カーのものもある。京都コンサートホールが完成した1995年の11月24日に佐渡裕指揮新日本フィルハーモニー交響楽団と共演した時のものである。当時は髪のボリュームが多く、頬がふくよかだが、今では白髪になり痩せている。

 

コンサート活動を離れて18年が経過しているということで、流石に超絶技巧に豊穣な美音というわけにはいかない。音程も結構甘めである。ただ、かつての腕利きぶりの名残は今でも時折発揮される。超弱音などはその例である。
陽気なヤンキー気質の持ち主であるカーは今日も遊び心全開。コントラバスにキスしながら弾いたり、ステップを踏みながら弾いたり、ゲーンズのスケルツォの開放弦の場所では左手を思いっ切り離して客席に向かっておどけた表情をしながら弾いたりする(同じことをしているのを昔、テレビで見たことがある)。相変わらずのショーマンぶりである。
音楽家の場合、性格と音楽性が一致しないことも多いのであるが(あの陽気な広上淳一は、シリアスな解釈を取ることが多い)カーの音楽性は割と素直であり、根っからの明るさや老境が音楽に現れている。

 

アンコールは2曲。まず「ロンドン・デリー・エア」(「ダニー・ボーイ」)が演奏される。その後、コントラバスを持たずに登場して、ハーモン・ルイスと共に喝采を受けたカーだが、いったん引っ込んでから、コントラバスを持って客席を窺うように顔を出す。
2曲目は、ロレンツィオの「象とハエ」(カーは日本語で曲名を言う)。左手ピッチカートの際に舌を出し、コントラバスの最高音が弾かれるなど、カーのユーモアと表現の幅の広さを最大限に生かした演奏となった。

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